考えよう、12のトピック 1~3

 

1「市場のリスク」と「人間のリスク」【問題提起編】  

 講座全体を通して伝えたい大きなテーマの1つとして、個人のお金の問題には、株価や為替レートの変動のような「市場のリスク」の他に、人間が関わる事によって意思決定を間違える「人間のリスク」があることを強調したい。

 人間のリスクには、金融機関のセールスマンのような他人から不適切な商品やサービスの購入に誘導されるような「他人のリスク」と、自分が意思決定を間違える「自分のリスク」の1種類がある。  解決編を少し先取りすると、前者「他人のリスク」については「情報の非対称性」がある中でインセンティブがどのように働くかに対する想像力が有効だし、後者「自分のリスク」については行動経済学の知識(必要なものはそう多くない)を「転ばぬ先の杖として」適切に使うといい。

▼問題

あなたは、自分が取引している銀行の支店の前にいて、「人生100年時代のお金の問題を解決する」という触れ込みのセミナーと相談会のポスターを見ているとする。いずれも無料である。しかし、このセミナーにも相談会にも決して出席しない方がいい。考えられる理由を3つあげよ。

▲ヒントと補足

銀行員が時間を使うことの意味を考えよう。また、銀行特有の危険としてどのようなものがあるか。  銀行に限らず金融機関の営業担当者に接触して、セールスに付き合わなければならないような心境になったり、金融商品・サービスについて、そのものを自分で評価せずに担当者の人柄や好き嫌いで判断しようとして失敗する人が少なくない。

 

2 お金が持つ3つの自由とその帰結

 お金には、

(1)使途の自由(使い道は後で考えたらいい)
(2)金額の自由(大きすぎても普通は邪魔にならない)
(3)形の自由(金額が大きくても小さくても、同じ比率で同じリスクを持つとおおむね同じリターンを得られる)

  の3つの自由がある。

 これらの直接的な帰結として、お金は大きくても、小さくても、また誰のものでも、最も効率の良い方法で(注;リスク当たりの効率である)増やして、後で使い道を考えたらいいことが分かる。運用の規模とリスクの大きさは違っても、誰にとってもおおむね同じ運用方法でいい。

▼問題

あなたはFPで、目の前に退職金2,000万円の運用について相談に来た顧客がいるとする。この人は、別のFPに「老後は長いとしても、退職後のお金は大きなリスクを取りにくいので、内外の株式が30%で内外の債券が70%くらいで安定的に運用されるバランスファンドをお勧めします」と言われたという。この「別のFP」のアドバイスは、どこが間違っているか。

▲ヒントと補足

運用を考える場合、リスクの大きさは、「運用商品の種類」ではなく「リスクを取る資産に投資する金額」で調節した方が、内容が把握しやすく、かつ安価に運用できる場合が多い。「金額でのリスク調整」は盲点になりやすい。アドバイスの際には有効な視点だ。

 

3 分散投資の正しい考え方  

 投資対象・ウェイトについて適切な分散投資を行うことは、投資家が自分でできる「リターン/リスク効率」の改善であり、ぜひ利用すべき有効な手段だ。  一方、売買のタイミングを分けるような時間の分散には、投資効率改善上の効果はない。

▼問題

ある1銘柄に投資する場合の期待リターンが5%でリスクが35%(リターンの年率標準偏差による)の場合と、期待リターンが同じく5%でリスクが20%のインデックス・ファンドに投資する場合を考える。投資家が1年後に許容できる損失上限額が100万円までの場合、それぞれのケースで目指すことができる1年後の期待収益の額を計算せよ。ただし、許容損失額は期待リターンから標準偏差の2倍(マイナス2標準偏差のイベント)を引いた値で考える。

▲ヒントと補足

「期待リターン」と「標準偏差」という言葉の意味を教えると小学生でも計算できる問題だ。投資金額当たりのリスクを小さくできる事がいかに有利なのかを、目指すことができる期待収益の面からも確認したい。  分散投資については、日本株のファンドを多数持つような、実質的な分散効果が乏しいケースに対する注意や、顧客のポートフォリオのリスクを大まかに計算できるような簡便法を追加で伝えておきたい。