「FRBはクレージーだ!パウエルには少しも満足していない」というトランプの主張

 FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は11月28日、エコノミック・クラブ・オブ・ニューヨークで行われた講演において、FF金利の誘導目標は「米経済成長を加速も減速もしない、経済にとって中立となる水準の幅広い推定レンジ(2.5%から3.5%)をわずかに下回っている」と発言し、現在の金利はいわゆる中立水準の推定レンジを「わずかに下回る」水準にあるとの見解を示した。

 この発言について、「かなりの隔たりがある」という10月の発言(「われわれは中立を超えるかもしれない。しかし現時点ではおそらく、中立金利まで長い道のりがある」と述べ、一段と積極的な金融引き締めのシグナルと市場から受け止められていた)からトーンが変わりハト派に転じたとして、利上げサイクルが来年にも停止されるとの観測が強まった。

 政策運営を難しくしているのがトランプ米大統領の存在である。パウエル議長の講演の前日(27日)、トランプ大統領はワシントン・ポスト紙のインタビューでパウエル議長に対する不満を明らかにしていた。以下はブルームバーグの記事(『トランプ大統領、パウエルFRB議長に全く満足していない』2018年11月28日)の抜粋である。

【パウエル氏を議長に選んだことについて「全く、少しも満足していない」と言明。利上げを繰り返し批判してきた大統領は、最近の株式相場下落やゼネラル・モーターズ(GM)の北米工場閉鎖計画などについて、FRBの政策のせいだと述べたという。「私は取引をしているのにFRBは私を助けようとしない」と大統領は主張し、金融当局について「彼らは間違っている。私は勘が働き、私の勘は時に誰の頭脳よりも多くのことを私に知らせてくれる」と話した】

 トランプ大統領はFRBの議長に自分の息のかかったパウエル氏を連れてきただけでなく、副議長にはリチャード・クラリダ氏、理事にミッシェル・ボウマン氏と、いずれも自分の力の及ぶ人事を実現した。トランプ大統領は株が下がれば、FRBと民主党(議会)のせいにするだろう。そして、トランプ大統領は大統領選挙でヒラリー・クリントン氏を担いでいたウォール街が元々大嫌いなのである。ウォール街はそのことをとても不安に思っている。

 QE(量的金融緩和政策)をやめて出口に向かっている FRB が恐れているのは、ドル安・⽶国債安(⽶国債⾦利上昇)である。表面上何を⾔っていても、ドル安は避けたいだろう。⽶国債安となれば⽶国債の評価が落ちて損が出る。膨⼤なポートフォリオを抱える FRB はドル安・⽶国債安になれば出口政策が頓挫してしまう。したがって、出口を模索する FRB は穏やかなドル⾼を模索するだろう。緩やかなペースであれば通貨⾼は都合がいい。一⽅、ドル安・⽶国債安となれば、ジェフリー・ガンドラックの危惧する「危険なカクテル」が完成する。

 

世界経済の現状は格差やポピュリズムの台頭といった点で1930~40年代と似ている

 世界経済の現状は格差やポピュリズムの台頭といった点で1930~40年代と似ている。日銀やECB(欧州中央銀行)の金融政策は経済刺激の限界に近く、今後は徐々に世界景気も減速していく可能性が大きくなっている。そういった意味では、リスクは圧倒的にダウンサイドにあり、FRBはインフレファイトよりも混乱の引き金を引きかねない利上げをどこかでやめようということだろう。

 しかし、パウエル議長が利上げを打ち止めにするとの観測が出れば、ドル安が進行する可能性が高まる。ドル安になった場合、輸入大国である米国では輸入物価が上がってインフレになる。足元では原油価格が下がってきているため、まだその影響は抑制されるかもしれないが、以前より筆者がラジオ番組やレポートなどで言及しているように、日米欧の中央銀行が恐れているのはインフレである。

 もしインフレになれば、金融緩和(利下げ)も量的緩和もできないお手上げ状態になる。インフレになれば、不景気の到来や株価の急落があってもFRBは利上げを続けていかなければならない。これは、株式市場にとっては最悪の事態となる。

 トランプ大統領の吹かしすぎの経済運営で、これまでのように利上げの先延ばしはできない環境にあると見ておいた方が良いであろう。現下の経済は資産と負債を両建てで増やす「ネズミ講的」な運営となっている。米企業の債務は9兆ドルに達している。レーガノミクスの時代の米国の負債は1兆ドル(110兆円)だった。それがトランプノミクスの今は20兆ドル(2,200兆円)である。負債と金融バブルが今の世界景気を支えている。この状況で金利が上がるとどうなるかを、そろそろ視野に入れておくべきだろう。この両建て経済では金利の上昇がマイク・タイソンのパンチのように効いてくるだろう。