一方、2番目のリンク、つまり円相場と株式市場・経済の関連性を断つことは可能である。そのためには2つの対抗措置、すなわち企業部門による製造業からサービス業への戦略的な事業再編、ならびに家計部門の資産ポートフォリオのリバランスが考えられる。

 企業部門による製造業からサービス業への戦略的事業再編は国内市場で創出する利益の拡大をもたらし、結果として円高と収益性のリンク分断を可能にするだろう。日本国内の利益率は、サービス・セクターの著しく低い資本効率と上場サービス企業の不足を背景にグローバル基準を大幅に下回っている。人口動態の変化が生み出す新たな技術と顧客ニーズは国内サービス業における起業・投資ブームを巻き起こすとみられることから、日本のサービス・セクターは大変革の時期を迎えていると考えられる。国内サービス・セクターの収益性が改善すれば、上場するサービス企業の数が増えて成長し、経済全体が輸出企業の利益に頼るという従来の構図は徐々に崩れていくであろう。

 そのためには、ヘルスケア、金融、観光、総合型リゾート、スポーツ、デザイン、エンターテインメントなどの分野で経済特区政策をこれまでより積極的に推進する必要がある。脱工業化社会のサービス業に注力した起業家努力は税優遇措置、ならびに官民投資からの創業資金で応援すべきである。

 第二に、円高が引き起こす株式の空売りに対処するため、日本は新たな買い手を引き寄せる必要がある。その意味で最も有力な資金源は膨大な預貯金を有する一般の家計部門である。ここでも、株式投資を促す税優遇措置を設けたり、例えば、株式を相続する際にかかる相続税などの株式投資意欲をそぐような制度を廃止したりすることが考えられる。

 しかし、最も大きな変革が求められるのは日本の金融サービス業界である。現在の事業慣行と金融商品は選択の幅が狭いだけでなく、コストが非常に高い。日本で販売されている一般的な個人向け投資ファンドの場合、投資家が支払う総費用は米国のほぼ4倍に達している。つまり、消費者が資金運用に投資信託ではなく銀行預金を選ぶのは、結局のところ合理的なコスト意識が働くからである。家計部門が温存している巨額の預貯金を引き寄せるために、日本の金融機関がコスト効率の優れた投資商品を提供する必要があることに疑問の余地はない。

 新たな金融商品と販売慣行の向上がないかぎり、日本は円高による株価下落という悪循環を断ち切ることはできないだろう。日本が世界の投機家の気まぐれに左右されないためには、まずは自国の資産がもっと国内投資家に好まれなければならないのである。

 

2018年4月7日 記

ウィズダムツリー・ジャパンで掲載中のブログはコチラ