原油全量をほぼ輸入に頼る日本。国別依存度はサウジアラビアが最も高い

 ガソリンや灯油、プラスチック製品、化学繊維、火力発電所の燃料などの原料となる原油。それは「経済の血液」とも言われます。

 日本で暮らす私たちの生活に欠かせない原油のほぼ全量を輸入に頼り、その多くを「石油王国」のサウジアラビアから輸入しています。

図1:日本の国別原油輸入量(2016年上位5カ国)

※計算に用いた原油価格は、ブレント・ドバイ・WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の各原油の均等加重平均
単位:百万バレル/日量
出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータをもとに筆者推計

 図1を見ると、日本の原油輸入先はサウジが最も大きく、2016年の国別の輸入シェアは、サウジ35%、UAE(アラブ首長国連邦)25%、カタール9%、ロシア7%、イラン7%です。
2000年ごろにUAEを抜き、原油輸入相手国1位になったサウジは、国内需要のほとんどを輸入に頼る日本にとって、原油供給の要(かなめ)と言えます。

 

世界の2大石油消費国は、米国と中国

 図2のとおり、世界で最も石油消費量が多いのは米国で20%、次いで中国が13%を占めています。これら2大石油消費国は今、サウジとの関係性に変化が生じ、サウジにとってはマイナス面に作用すると考えられます。

図2:世界の石油消費国の割合(2016年)

出所:英BP社の統計より筆者作成

 

米国のサウジアラビア依存度が低下中

 図3のとおり、米国のサウジからの原油輸入量は減少傾向にあります。これは、カナダからの輸入が増加したこと、そして米国内でシェールオイルの生産量が増加したことが原因です。米国内ではシェールオイルの生産量が増加しているため、今後もサウジへの原油依存度は低下する可能性があります。米国という重要な原油輸出先を失いつつあることは、サウジにとって痛手であると考えられます。

図3:米国の国別原油輸入量(2016年の上位カ国) 

※計算に用いた原油価格は、ブレント・ドバイ・WTIの各原油の均等加重平均
単位:百万バレル/日量
出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータをもとに筆者推計

 今週、米国とサウジの要人で会談が行われたことで、今後、石油関連の共同開発は進む可能性があります。しかしながら、サウジからの原油輸入量を米国が減らすことで生じるサウジのデメリットのほうが、共同開発によって期待できるメリットを上回る可能性があります(共同開発には長期的な視点と政治的な動きが必要)。

 

中国のサウジ依存度も低下中

 図4のとおり、米国と同様、サウジからの原油輸入量が中国も減少傾向にある一方、ロシアやアンゴラ、オマーンやイラクなどからの輸入量が増加しています。

 そして3月26日から、SHFE(上海期貨交易所)傘下にあるINE(上海国際能源取引中心)で原油先物取引が始まる予定で、UAE、オマーン、イラク、イエメン、カタールなどが原油取引の対象となると報じられています。しかも世界の基軸通貨のドルではなく、中国元で中東産の原油の売買ができるようになるということです。

 さらに、中国国外の資金を積極的に呼び込むものと報じられ、同取引所が価格決定の拠点になるとの見方も出ています。

 このことから、仮に上海での原油取引が活発化して、価格に公正さ(指標性)が出たとして、中国という大消費国での取引において消費側の思惑が強まった場合、原油価格は下振れする懸念もあります。

 この下振れは、目下増加中のオマーンやイラクからの原油を輸入する際のコスト低下につながり、仮にこのような流れが生じた場合、国際的な原油価格の下押し要因に波及し、サウジも打撃を受ける可能性が出てきます。

 直接的な輸出量が低下している中、上海での新たな取引のスタートがサウジにとって脅威になる可能性があるのです。

図4:中国の国別原油輸入量(2016年の上位5か国)

※計算に用いた原油価格は、ブレント・ドバイ・WTIの各原油の均等加重平均
単位:百万バレル/日量
出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータをもとに筆者推計

 

ロシアとサウジアラビアの関係は微妙な段階に

 サウジとロシアの緊密度は近年、高まる傾向にあります。昨年2017年はサウジの国王が初めてロシアを訪問しました。また、原則、年2回開催のOPEC(石油輸出国機構)総会でも、総会後に開催されたOPECと非OPECの共同記者会見において、減産に参加する非OPEC側のリーダーとしてロシアの当局者が参加し、サウジとロシアが原油生産で強い協力関係にあることをアピールしました。しかも、現在の減産(2018年12月終了予定)は、サウジを中心としたOPECとロシアを中心とした非OPECによるもので、これまでにない効果が大きい取り組みであると報じられています。中にはロシアを含めたこの協調体制を「拡大OPEC」と報じるメディアもあります。

 このように現在のところ、強い結びつきにあるサウジとロシアですが、不安材料もあります。サウジは、減産がうまくいっていることアピールするためにロシアに頼っていると考えられる点です。

 サウジの原油生産量は2017年1月の減産開始後、自国の割り当て上限をやや下回る生産が続いています。サウジが上限を大きく下回る思い切った減産をしていない、つまり減産への取り組みがやや消極的にも関わらず、減産に参加する24カ国全体の減産順守率が、史上まれに見る高水準であることは、まさにロシアのおかげである、つまりサウジがロシアに頼っているという構図が透けて見えます。

 原油減産実施から1年が経過しましたが、海外大手通信社のデータで、サウジの石油製品の輸出量が昨年2017年後半から増加傾向にあることが示されたことは、減産に抵触しない石油製品で外貨獲得を増やしたい、それだけサウジの財政事情が厳しいことがうかがえます。

 さまざまな状況の中、ロシアに頼らなくてはならなくなったという点は減産終了後の態勢を考えても、石油王国としては本意ではないと考えられます。

 

サウジ自国内でも不安材料

 サウジ国営で世界最大の石油会社「サウジアラムコ」は近い将来、株式の一部を公開するとしています。

 目下、上場先となる取引所を模索しているものの難航していると報じられ、サウジ国内の市場(タダウル市場)で、規模を縮小して行われる案が浮上しています。

 難航している理由は、ニューヨーク証券取引所など、サウジ国外で上場するには経済的、法的リスクがあるためだと言われています。また、サウジアラムコの原油埋蔵量のデータを公表することへ難色を示す関係者がいるため、上場自体が難しいとする声もあります。

 石油依存からの脱却を掲げた経済政策「ビジョン2030」の中核を担うサウジアラムコの株式公開がとん挫、あるいは規模縮小となれば、それを掲げたムハンマド皇太子の求心力が揺らぎ、政情が不安定化する可能性があります。

 

日本にとって「事態の急変は悪材料」「緩やかな変化は好材料」

 これらの内容をそのまま解釈すれば、サウジは「内憂外患」状態で身動きが取れなくなっていると言えそうです。

 このことは今後、日本にどのような影響をもたらすと考えられるのでしょうか?

 事態が急変することは悪材料、緩やかに変化することは好材料だと筆者は考えています。
サウジを取り巻く事態が変化することは基本的に、日本にとって「安定した原油供給」という環境が変化することとなり、あまり好ましくないと考えられます。

 しかし、同国を取り巻く環境は変化してきていますので、変化に対応していかなければなりません。その変化ができるだけ緩やかであることが望まれるのだと思います。

 緩やかに変化していくことで関連するさまざまな市場では慣れと耐性がつき、一連の過程をステップとして新たな局面に入っていく(市場および市場参加者が成長する)のだと思います。

 一方で、同国の環境が急変した場合、原油供給の途絶に対する懸念が生じ(あくまでも懸念)、同国の事態の急変が世界の景気にマイナスの影響を与え、リスク回避の動きが出る可能性があります。

 また、同国の事態の急変によって原油価格の動向が急変した場合、急上昇の場合はわたしたちの身の回りの石油関連製品が値上がりする、急落した場合はエネルギー関連株の下落、それによる株式市場全体の弱含みなどが想定されます。

 今後、私たちの生活の面でも投資活動の面でも、石油王国「サウジアラビア」の動向には、これまで以上に注視していく必要があると言えます。

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