原油の下落が株価の下落に拍車
世界的な株安の中、国内外の原油市場の下落も目立っています。海外市場はWTI (ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物が1バレルあたり63ドル台前半、東京の原油先物は海外株安・円高により、1キロリットルあたり4万3,000円を割る展開になっています。
原油の下落が、株価下落の一因になっていると考えられます。米国の主要な株価指数であるS&P500ではおよそ6%、ダウ指数では13%程度、時価総額ベースで石油関連株が含まれているとみられます。
特に時価総額の大きいエクソンモービルとシェブロンの株価の推移と原油価格の推移は、次の通り、似通っています。
これらの企業の業績に大きな影響を与える原油価格が下落していることは、これらの企業の株価、引いては株価指数全体の下落要因になっていると考えられます。
図1:WTI原油と主要石油企業の株価の推移(2018年1月2日~2月5日)
原油市場の上昇要因とみられていた4つの材料。うち2つが不安定化
株安の一因とみられる原油市場ですが、その原油市場では全体的にどのような動きがあるのでしょうか?
図2:足元の原油市場の変動要因
先週までの原油価格の上昇は、4つの材料が思惑の正のサイクルを形成して起きていたと考えていました。株式市場の下落の一部は、原油価格の下落によるものと考えられますが、同時に原油価格を「さらに」下落させる(原油市場で投機の売りが進む)要因になっていると考えられます。
また、先週、米国の原油生産量が記録的な水準に達したことが報じられました。
これまで原油市場を支えてきた要因のうち、複数の要因で不安定化していることが原油価格の下落要因となっていると考えています。
記録的な水準に達していた米国の原油生産量
米国の原油生産量が記録的な水準まで増加している点については、以下のグラフのとおりです。
図3:米国の原油生産量の推移
先週、EIA(米国エネルギー省)は、米国の月次ベースの原油生産量について、2017年11月に日量1,000万バレルに達していたと報じました。
この水準は、1970年11月の1,004万バレルに次ぐ水準で、この約100年間の最高水準です。米国の原油生産量のおよそ6割を占めるシェールオイルの生産量の増加が背景にあります。
原油相場を不安定にする「1,000万バレル達成」。2つの意味がある
米国の原油生産量が日量1,000万バレルに達した意味について、以下のように考えています。
●米国の原油生産量が日量1,000万バレルを超えた意味
(1)過去およそ100年間で最も多い生産量
→かつての石油大国の復活を世界に広く強く印象付ける。
OPECの発言権が相対的に低下する。
(2)減産中のため生産量を増やすことができない。サウジとほぼ同水準
→サウジが米国をけん制するきっかけとなる。
サウジが原油価格の下落を容認したり、減産合意を破る可能性が生じる。
原油の生産において米国の台頭が目立ってくれば、相対的にOPEC(石油輸出国機構)の発言権が低下します。
また、米国の原油生産量が、減産中のため生産量を増やすことができないサウジアラビアとほぼ同水準となれば(OPECの月報によれば、サウジの2017年11月の原油生産量は日量992万バレル)、サウジが原油価格の下落を容認したり、減産合意を破ったりする可能性が生じます。
いずれも可能性ですが、想定しておくべき要素であると考えています。
世界株安で「思惑主導」による上昇が終了する可能性あり
思惑が主導して上昇してきた原油相場が不安定化しつつあると見ています。
足元の株価の下落がきっかけとなり、その一因と見られる原油価格の下落に関心が集まれば、これまで材料視されてこなかった原油市場の下げ材料がクローズアップされる可能性があります。
米国の原油生産量は記録的な水準に達しており、今後、その米国の動向が原油市場をさらに不安定化させる可能性があることについて、周知が進むと考えられます。
株安を発端としたこのような流れにより、原油相場の「思惑主導」での上昇が、いったんは終了する可能性があります。
また今後、株価が反発しても、原油価格が弱含んでいた場合、原油価格の動向が株価の上値を押さえる要因となることも考えられます。
引き続き、株価の動向と同時に、原油相場の動向にも注意が必要です。
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