過去記録は封印されるので後で改変できない

 この封印が終わり、ウインナ・ソーセージのように数珠つなぎになった一連の取引記録を「ブロックチェーン(block chain)」といいます。つまり我々が仮想通貨で良く聞くブロックチェーン技術とは、このような方法で、過去取引記録が改ざんできないようにするシステムのこと全体を指すのです。

 ブロックチェーンでは、新規の書き込み、つまり新しい取引の記録はどんどん追加できます。でも過去記録の消去(delete)は出来ません。

 皆さんはコンピュータやスマホを使用する際、過去の不必要なデータをどんどん消去していると思います。このようにデジタルの世界では普通、消去作業はカンタンに出来ます。

 だから「過去記録が消去できない」という、ブロックチェーンの特徴は、とてもユニークな特徴です。
 

検証作業とは?

 普通ならカンタンに消去や上書きが出来てしまう「エクセルのような元帳」が、悪用されないようにするには、さらに特別な工夫が必要です。そこでビットコインの考案者、サトシ・ナカモトはコペルニクス的な発想の大転換をしました。

 つまりひとつひとつの記載記録を「守る」のではなく、逆に新しい記載があるたびに、それを世界に広く配布する、ないしは、ばらまくことにより改ざんを徒労に終わらせる仕組みを考えたのです。

 世界に広く配布された元帳の、ひとつやふたつを改ざんすることは出来るかもしれません。でもそれらの全てを先回りして改ざんすることは、とうていムリです。

 こうして世界にばらまかれた取引記録には4つの変数が含まれます。それらは1)時間、2)取引のサマリー、3)その直前のブロックのアイデンティティー、4)ノンス(nonce)と呼ばれる「使い捨てのランダムな数字」です。

 これらの数字をコンピュータで解析し、それが純正かどうかを「投票」により決定します。この作業をやる人たちのことをマイナー(鉱夫)と呼びます。なぜなら、一番速くこの作業を完了した正解者には、ご褒美として新しいビットコインが渡されるからです。その苦役が、ちょうど金鉱山でツルハシを振るう鉱夫のようであることから、この名称が生まれました。

 この検証作業は5000にものぼる世界のあちこちのコンピュータによって行われています。その端末のことを「ノード(node)」といいます。そしてそれらのコンピュータがフル稼働して新しいトランザクションを処理しているさまを「フル・ノード」と表現します。

 そしてこれらのコンピュータの過半数が「この取引は純正だ!」と判断した場合、それは過去記録として封印されてゆくわけです。この、稼働しているノードの過半数、すなわち51%を「足切り基準」として用いるやり方を「ビザンチン将軍コンセンサス(Byzantine Generals Consensus)」と言います。

 ビザンツとはコンスタンチノープル(こんにちのイスタンブール)を中心とした東ローマ帝国を指します。

 その東ローマ軍の部隊が、どこかの国で攻城戦を仕掛ける場合、各個に攻めると撃退されやすいです。そこでお城のあらゆる方向から、各部隊を指揮する将軍たちが、一斉に攻撃をかければ、全体としては勝つ公算が高くなります。つまり自分たちが勝てるチャンスを最大化するために、並み居る将軍たちの51%の賛同があったとき、攻め込むと言う風に了解したのが「ビザンチン将軍コンセンサス」なのです。

 この手法は、今日の戦闘機、宇宙ロケット、潜水艦などのコンピュータにも採用されています。つまりそれらの中には複数個所に制御コンピュータが分散して配置されており、被弾するなどしてひとつやふたつのコンピュータが失われても、未だ壊れていないコンピュータが全員投票し、多数決で正しい判断結果を決めるのです。