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著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
米国の強い雇用とインフレ再燃リスクは日銀の追加利上げを促すことに

金融緩和度合いを調整する日銀、金融引き締め度合いを調整するFRB

 9月30日、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長がNABE(全米企業エコノミスト協会)の年次総会で講演し、金融政策運営の先行きについて「経済がおおむね想定通りに展開していけば、時間をかけて中立的な政策スタンスに移行していく」と述べました。

 あれ、どこかで聞いたような…。そうです、日本銀行です。植田和男総裁も今年3月にマイナス金利を解除して以降、「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて金融緩和の度合いを調整していく」と繰り返し述べています。

 利下げと利上げ。方向は違いますが、物価目標2%が実現することを前提に政策金利を景気に中立的な水準(中立金利)に戻そうとしている点は同じです。難点はいずれもまだ物価目標2%が実現していないこと。物価目標の実現はあくまで想定であって、日米とも物価目標が実現しないリスクを抱えながらの政策運営となっています。

 特にFRB。9月に雇用情勢の悪化を防ぐため、通常の2倍に当たる0.5%の大幅利下げに踏み切りましたが、10月4日に発表された9月の雇用統計は、非農業部門就業者数が前月比25万4,000人増(市場予想15万人増)、失業率が4.1%(市場予想4.2%)と、予想を上回る良好な結果となったため、市場ではインフレ再燃リスクを懸念する声が増えています。

決して低くない米国のインフレ再燃リスク

 9月の雇用統計に対する市場の反応は大きく(図表1)、3日に3.846%だった米国の長期金利(10年)は4日に3.967%、週明け7日は4.026%まで上昇。約2カ月ぶりの高水準となり、1ドル146円台だった円相場も一時は1ドル149円を超える円安となりました。

<図表1 米国の長期金利とドル/円相場>

(出所)Bloomberg、楽天証券経済研究所作成

 さすがに市場は、FRBによる11月の利下げ幅は0.5%でなく、0.25%になるとの見方に修正していますが、インフレ再燃リスクが高いことに変わりはありません。

 米国のCPI(消費者物価指数)を見ると、8月は食品およびエネルギー除くベースで前年比3.2%と、7月と同じ結果になりました。しかし、季節調整済みの前月比を見ると、6月から2カ月続けて加速しており(図表2)、勢いが復活しつつあるように見えます。明日(10日)発表される9月のCPIでプラス幅が拡大しないか注視する必要があります。

<図表2 米国の消費者物価指数(季節調整済み前月比)>

(注)季節調整済み。
(出所)BLS、楽天証券経済研究所作成

 9月18日に配信したレポート「FRBの9月利下げは0.5%?日銀の次回利上げは12月か(愛宕伸康)」でも、米国のインフレ再燃リスクは決して小さくないと指摘しましたが、改めて米国のマクロ経済における需給バランスがタイト化しつつあることを確認しておきましょう。

 図表3は米CBO(議会予算局)が算出するGDP(国内総生産)ギャップと、FRBが物価目標の対象とする個人消費支出(PCE)デフレーターの前年比です。

 2024年7-9月期のGDPギャップは、アトランタ連邦準備銀行のGDPナウキャスト(実質GDP前期比年率2.5%<10月1日現在>)を利用して作成していますが、+1.2%とリーマンショック前と同程度のインフレ圧力になっています。

<図表3 米国のGDPギャップとPCEデフレーター>

(注)シャドーは米国の景気後退期。GDPギャップの2024年4-6月期はGDPの実績値とCBOの潜在GDPから、7-9月期はアトランタ連銀のGDPナウキャストの実質GDP予測(前期比年率2.5%<10月1日現在>)を利用して楽天証券経済研究所が算出。
(出所)CBO、BEA、楽天証券経済研究所作成

 さらに、図表4は、ISM(米サプライマネジメント協会)の景況感指数です。9月の製造業は47.2と、好不況の分かれ目である50を6カ月連続で割り込みましたが、非製造業は54.9と前月から3.4ポイント上昇し、1年7カ月ぶりの高水準となっています。

<図表4 米国の景況感指数>

(出所)米サプライマネジメント協会(ISM)、Bloomberg、楽天証券経済研究所作成

 ここで図表4をよく見ると、景況感指数が製造業を中心におおむね3年周期で循環していることが分かります。現在、50を割り込んでいる製造業の景況感指数も、循環的には回復局面に移行する直前のように見え、実際にそうなれば、製造業の回復が生産者物価を押し上げ、それがCPIの財、ひいてはCPI全体を上振れさせる可能性があります。