中国はウクライナ危機でどう振舞い、何を得ようとしているのか

 先々週のレポート「ウクライナ危機、中国はロシアを支持するか?」で、私は中国のウクライナ情勢への基本スタンスを次の2点に総括しました。

(1)中国がウクライナ問題でロシアの軍事侵攻を支持し、米国と対立することはない。中国のこのスタンスは、ウクライナ危機の緩和や回避に有利に働く。

(2)欧州におけるウクライナ危機の勃発は「台湾有事」を誘発しない。両者は別物。ロシアと共働しつつ、米国との関係を安定的に管理するのが中国の外交方針である。

 当時は、ロシアによるドンバス地方一部地域への国家承認も、ウクライナへの軍事侵攻も、西側諸国によるロシアへの集団的制裁も起こっていませんでしたから、情勢は大分変わりました。ただ、中国のウクライナ情勢への対応という意味で、私の基本的な見方は変わっていません。

 ロシアが軍事侵攻に踏み切った2月24日、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相とロシアのラブロフ外相が電話で会談をしました。中国外交部が発表したプレスリリースによると、王氏はまず(1)「中国は各国の主権と領土の一体性を一貫して尊重する」と主張した上で、(2)「同時に、ウクライナ問題はその複雑性と特殊な歴史的経緯を含んでいる。ロシア側の安全保障問題における合理的な関心を理解している」とラブロフ氏に伝えています。

 この二つのセンテンスは、短いですが、内容、順序、一つ一つの言葉を含めて、中国の現状に対する見方や立場を理解する上で極めて重要です。

 まず、(1)が、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重するという意味で、ロシアの軍事侵攻を暗に批判しています。中国の外交方針にとって最重要事項は内政不干渉であり、最も反対してきたことを、ロシアがウクライナに対してやっているわけです。中国とロシア、習近平主席とプーチン大統領の関係がいかに緊密であったとしても、そんな行為を「支持」することは中国としてあり得ません。国家としての信用力を失うからです。

 一方で(2)ではロシアの置かれた状況に「理解」を示しています。使用された言葉が「支持」や「尊重」ではなく、「理解」という比較的弱いものである点が重要です。中国もロシア同様、NATOのこれ以上の東方への拡大には、東西のバランスが崩れる、西側の影響力が一層拡大、浸透するという観点から反対を示してきました。ウクライナには、NATOやEUに加盟しない、一方ロシアの支配下にもおかれない、「東西の架け橋」(王毅外相)としての自主的な役割を担ってほしいというのが中国の立場です。

 ロシアの今回の行動が、NATOの東方拡大阻止を通じた自国の安全保障の強化にある点には同調するものの、その実現のためにウクライナの領土内に公然と軍事侵攻したことに対しては、断じて「理解」など示せない、ということです。「ロシアの行為に反対をしないという一点においても、中国としては相当な外交圧力に見舞われる」(中国外交部幹部)というのが本音でしょう。

 そして、特筆すべきは3月1日、王氏がウクライナのクレバ外相との電話会談に踏み切ります。中国外交部は、ウクライナ側からの要請に応じた会談という体裁を取っていますが、ロシアとしては面白くないでしょう。

 クレバ氏は、ロシアとの1回目の停戦協議を巡る状況を紹介した上で、「中国はウクライナ問題で建設的な役割を果たしてきた。ウクライナとしては中国と意思疎通を強化していきたい。中国が停戦に向けてあっせんしてくれることを期待している」と中国の外交的な努力を評価し、役割に期待を込めました。

 それに対し、王氏は、「中国はロシアとウクライナの間で衝突が爆発したことに胸を痛めている。民間人が損害を被っている現状を注視している。中国のウクライナ問題における基本的立場はこれまで一貫して公にしてきたように、透明性のあるものだ。各国の主権と領土の一体性が尊重されることを終始主張してきている。昨今の危機に関して、中国はロシアとウクライナが交渉を通じて問題解決のための方法を探し当てることを呼び掛け、国際社会において政治的解決に有利に働くすべての建設的努力を支持していく」と回答しました。

 中国としては、引き続き危機そのものには深入りせず、ロシア、ウクライナ、NATO加盟国、その他諸国に対して外交的働きかけを総動員し、一刻も早く停戦が実現するようコミットし、「ウクライナ危機の緩和と解決に、中国が建設的役割を果たした」という成果を残したいと考えているでしょう。その過程で、ロシアとの関係はもちろん、欧州や米国など西側諸国との外交関係が悪化することも中国は望んでいません。