ウクライナ危機は中国にとってピンチか?それともチャンスか?

 2月22日早朝、中国の動きや中国当局の関心事項を把握するため、日々訪れる国営新華社通信のサイトをのぞき込んでみました。ヘッドラインは、(1)北京冬季五輪閉幕とパラリンピックに向けた始動(2)中央政府としての少子高齢化への対策(3)米国政府が台湾への武器売却を承認したことを受け、中国政府が米航空防衛機器大手レイセオンとロッキード・マーチンの2社に制裁を科すと発表、の3つでした。

 若干細かくひもといていくと、朝7時(日本時間)の段階では、ロシアによる独立国家承認のニュースは、新華社のサイトの下のほうにさりげなく掲載されていた程度。同じタイミングで、同通信社の英語版サイトをのぞいてみると、ヘッドラインのすぐ下あたり、中国語版よりも目立つ位置に載っていました。10時ごろ再度のぞき込んでみると、英語版の位置は変わらないものの、中国語版でヘッドラインの下あたりまで上がってきていました。

 新華社は中国共産党の宣伝機関ですから、党や国の意思や立場に基づいて情報やニュースが配信されます。そこに背反するファクトや分析は掲載されません。米国を中心に、西側民主主義国へのネガティブキャンペーンは日常茶飯事です。上記の配信状況から、中国当局は、ロシアがウクライナの主権・領土内にある地域を「人民共和国」として承認するという情報を、非常に慎重に扱っている経緯が見て取れます。

 英語版はともかく、中国語版は、インターネット上で数億人の自国民の目に触れることが必至。ウクライナ情勢のような政治的に敏感なテーマをめぐっては、中国メディアは独自の取材や報道が許されておらず、新華社や中央電視台といった国営機関が報じた記事を転載することを義務付けられています。

 要するに、新華社による記事配信が、そのまま国民の事実認識につながるということです。

 歴史的経緯や地域情勢、国情や体制の違いはさておき、ロシアが両共和国を独立国家として承認することは、「新疆ウイグル自治区における一部地域の独立宣言をトルクメニスタンが承認する」「チベット自治区における一部地域の独立宣言をインドが承認する」「吉林省延辺朝鮮族自治州の独立宣言を北朝鮮が承認する」のと同じことです。少数民族、テロリズム、国境問題などをめぐって、近隣諸国と複雑な関係にある中国が、他国に最もされたくない行為を、ロシアはウクライナに対してやっているのです。中国当局が慎重にならないわけがありません。このニュースを目にした中国の少数民族に、「じゃあ私たちも」と連想、興奮されては困るからです。

 一方、習近平(シー・ジンピン)国家主席は、プーチン大統領が、民族、国家として過去の栄光を奪還すべく、2014年のクリミア併合に続き、ウクライナにおける親ロシア地域を取り込もうとする意思を深い次元で理解し、共鳴もしているでしょう。習氏はウクライナ情勢を眺めつつ、「中華民族の偉大なる復興」という観点から、台湾を取り戻す(侵攻か併合か、武力行使か平和的解決かは別として)イメージを膨らませているに違いありません。

 前回レポートで明記したように、中国が、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を公に支持することはあり得ません。NATOの東方拡張阻止でロシアを支持し、「欧州の安全保障」を尊重しつつ、ウクライナ危機に対する米国の動きを分析し、台湾統一に向けた構想や戦術を具体化させているのでしょう。主権国家であるウクライナの一部地域を取りにいくのと比べて、中国が内政、国の一部と位置付け、欧米や日本を含め、一切の大国と国交を持たない台湾を取りにいくことが何を意味するのか。頭の体操と組織的準備を繰り返しているはずです。