リスク回避先としての香港市場

 今後の中国株市場の見通しを考える上で、重要だと考えるのは以下の2点です。

・米国のインフレが長引く気配が強まる中で、ウクライナ情勢はどうなるのか。

・景気が減速する中国では今後、どのような経済対策が打ち出されるのか。

 ウクライナ情勢について正確に理解するには、欧米の発する情報だけでは不十分であり、ロシア、あるいは中国など第三国の見方もしっかりと調べ、分析する必要があります。

 ここではその点について言及するつもりはありません。ただ、ロシアのウクライナ侵攻があれば、“バイデン政権にとって政治的にはポジティブだ”という点だけ指摘しておきます。

 インフレは民主党の主要な支持者である草の根庶民に大きな苦痛を与えています。共和党支持者と民主党支持者との間で起きている対立は深刻であり、しかも、バイデン政権の支持率は低空飛行を続けています。

 経済政策の失敗の影響を目立たなくして、国民の不満を少しでも、国内ではなく海外(ロシア)に向けることができれば、バイデン政権にとっては好都合です。

 投資家目線では、米国がロシアに対してどの程度の制裁を科すのかという点が気になります。SWIFT(国際銀行間通信協会)による決済システムの遮断までやってしまえば、宣戦布告に等しく、核戦争のリスクさえ出てきます。

 ロシアがエネルギー資源の欧州への供給を遮断するようなことになれば、エネルギー価格が急騰します。それに、国際物流の混乱が加われば、米国のインフレはさらに助長されかねません。

 これまでは“国際紛争は買い”となるケースがほとんどでした。しかし、今度はどうでしょうか。景気過熱が懸念される中で金融を緩和できない状況での有事は、投資家のリスク回避姿勢を強め、株価に対してはネガティブに作用すると考えます。

 ですから、バイデン政権が、表面上は厳しくロシアを批判するものの、実質的な制裁については最小限にとどめてくれることが、投資家にとってのベストシナリオです。

 ここで、前項の4指数の値動きをもう一度ご覧ください。NYダウは確かに下落基調にありますが、ハンセン指数はそうではありません。年末年始あたりをボトムとしてむしろ戻り歩調にあります。

 グローバルアセットアロケーション上、香港市場をリスク回避地とみる投資家が一定数いるのではないかと思います。

 中国経済は減速しており、インフレとは程遠い状態です。政策面では金融緩和政策を実施しており、それに積極財政政策が強化されようとしています。

 習近平政権は、この秋の共産党大会で第三期目に入ることが決まるでしょうが、異例の三期入りをスムーズに行うために今年は、景気の安定が重視される見通しです。

 中国は、経済体制の違いから経済をコントロールする力が強く、それは昨年、不動産企業に対して厳しい制裁を加えても、金融市場が安定を維持し続けたことからも見て取れます。

 中国の景気が大きく落ち込む可能性が低いのなら、そして、景気を下支えするような政策が打ち出される可能性が高いのなら、香港、中国市場はリスク回避先として有望です。

 米国市場が今後、下落した場合、香港市場が資金の逃避先として選ばれるだろうと予想します。