餌食になる理由5:「本業に専念せよ」

 最後に、習政権の特徴に「本業に専念せよ」というものがあります。アリババ、アント・フィナンシャルに対する規制などにも通底するものですが、電子商取引の会社であれば、それに専念せよ、金融の分野に手を出すなら、体裁を整えてから行動せよ、というものです。

 前回レポートでも触れましたが、恒大集団は、本業の不動産だけでなく、EV(電気自動車)、サッカーチームの買収、遊園地など、本業で高レバレッジの仕組みを通じて得た収益を急速な事業拡大につぎ込んできました。そこには、上記のように、当局が不動産市場の規制強化に踏み込んできたからという背景も作用しているでしょうし、事業拡大そのものはとがめられるべきではないでしょう。

 しかしながら、恒大集団の場合、事業拡大の結果が、約33兆円という巨大な負債、そして実体経済、不動産業界全体、金融システム、人民の生活基盤の危機を招いたということで、「本業に専念せよ」という当局による指針を直接的に食らうことになったというのが私の理解です。

 以上、5つの側面から、デフォルト危機に陥っている中国恒大集団がなぜ中国当局から警戒され、指導されるに至っているのかを解説してきました。同集団の経営そのものに最大の原因があるのは言うまでもありませんが、それに加えて、習政権としての政策目標を丁寧に振り返ってみると、同集団の窮地が必然的なものであるということが分かってくるのです。

 これらの政策的背景に、どのような企業が窮地に陥るのか、逆に言えば、どのような企業が成長するのかを見ていくと、中国という、見えるようで見えない強大経済・巨大市場の実態がより鮮明に浮き彫りになってくると考えます。