餌食になる理由3:不動産バブルの解消

 2012年秋に発足した習政権は、不動産バブルの形成と崩壊を終始懸念してきました。それは、不動産市場に過度に依存し、経済成長を実現してきた胡錦涛(フー・ジンタオ)政権の経済政策に対する一種のアンチテーゼと見ることもできます。

 中国恒大集団は1996年に設立され、2009年に香港で上場。要するに、不動産企業に「友好的」であった胡錦涛政権(2003~2012年)時代に急成長を遂げた民間企業なのです。もちろん、現在に至っても、不動産市場が中国経済にとって重要なけん引役であることに変わりはありません。創業者の許家印(シュー・ジャーイン)氏は習政権でも全国政治協商会議の常務委員を務め、今年2021年7月1日に天安門広場で開催された中国共産党結党百周年記念式典にも来賓として招かれています。故に、習政権が同集団、同氏をピンポイントで敵視しているというわけでは決してありません。

 しかしながら、不動産バブルを警戒し、そのためにさまざまな規制強化策を施してきた習近平新時代は、許氏にとって居心地のいいものではないでしょう。EV(電気自動車)など他の分野に積極的に進出し、事業を拡大するに至った背景には、同氏の習政権・新時代に対するリスクヘッジという見方もできます。

餌食になる理由4:格差是正

 先日、本連載で「共同富裕」を取り上げましたが、低所得者層に寄り添う政治を行う、高所得者層との格差を縮小するというのは、習政権の基本的政策です。「理由2:金融システムリスクの防止と解消」にある「3大堅塁攻略戦」に含まれる「貧困撲滅」も同じ論理です。

 どの国でもどの人にとっても、住宅というのは人生で最も大きな買い物の一つだと思います。ただ、中国人にとって、住宅、不動産というのは、ただ単に住むための場所という意味だけでなく、年に1回家族が帰ってくる場所、結婚するための絶対的条件、社会的地位と面子(めんつ)を保障するツール、他分野に類を見ない優良投資物件…とあらゆる要素を内包しています。

 中国において、不動産市場というのは、ただでさえバブル化しやすいというだけでなく、14億の人民が熱狂的に重視するが故に、格差の源泉にもなりやすいのです。中国不動産市場をめぐるバブルと格差はコインの表と裏の関係ということです。

 そして、この格差にメスを入れるのが習政権の重要な政策目標ですから、不動産企業、特に、放漫経営をしていたり、それが原因で消費者の権利や利益(恒大集団が発売する理財商品や不動産を購入した結果被害に遭った人々はその典型)をむしばんだりする企業に厳しいチェックが入るのは必然なのです。