3:中国はワクチン開発に積極的、国際協力と地政学リスクは共存

 中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するためのワクチン開発に、大々的に力を入れています。新型コロナが中国・武漢市で世界最初に発生したこともあり、今後国内での再発を防ぐという目的もありますが、同様に、「メイド・イン・チャイナ」のワクチンを国際的に打ち出すことで、中国の技術力や対外影響力を向上させたいという戦略的動機が作用しています。

 10月下旬、米大統領選挙取材のために訪米した際に、ワシントンD.C.で中国の高級幹部と話をしました。同地に駐在する彼は、中国出張から帰ってきて1カ月が経過していましたが、中国滞在中に、自国企業が開発したコロナワクチンを打ったと言っていました。彼によれば、中国共産党の幹部の多くがすでにコロナワクチンを打っているとのことです。

 ただ、皮肉にも、中国国内における新型コロナ感染者はもはや多くなく、「実験台」の人選に苦労している模様で、近隣の友好国であるパキスタンに密かに持っていって、その効力を試しているようです。

 また、インドネシアは今月に入り、中国企業が開発したコロナワクチン120万回分を受け取っています。さらに2021年1月中に、追加で180万回分を受け取る予定とのこと。これらの生産を請け負い、中国のワクチン開発を引っ張っているのが、北京に本部を構え、ナスダックに上場する科興控股生物技術有限公司(SINOVAC)です。

 同社は最近、コロナワクチンのさらなる開発と生産のために5億ドルの資金を調達し、年間3億回分の生産能力を備える見込みです。前述のとおり、中国はワクチン開発を国家戦略の観点から推進しており、2021年、米国をはじめとした主要国との間で「ワクチン地政学」をめぐる攻防を繰り広げる可能性、言い換えれば、技術的な問題点や医学的な効力が政治、外交問題化するリスクは存在するでしょう。

 ただ、中国がワクチン開発に積極的で、すでに一定の効力と結果を上げていること、そして安全かつ効果的な承認済みワクチンを調達し、世界各国に公平に分配していくことを目指す国際的枠組みであるCOVAXに参加していることも、マーケットにとっては朗報だと言えます。