2021年、最重要イベントを中心に回る

 2021年の中国はどうなるのか? どう進むのか? 最大の特徴は何といっても「中国共産党結党百周年」という要素。政治や経済、内政や外交、以下の10大予測を含め、すべてがこれを前提に動いていきます。

 マーケットの動きで党・政府によって制御できない動向や現象は、中国共産党一党支配の中国においてもしばしば起きます。それでも、絶対的安全運転が至上命令である政治の季節において、何らかの不穏な動きが見られれば、当局は持っている政策ツールを最大限に駆使しながら事態の改善と制御に努めるでしょう。

 と同時に、2021年は第14次五カ年計画の初年であり、翌2022年秋には中国共産党の第20回大会が開かれる予定です。習近平(シー・ジンピン)総書記の去就や党指導部における新たな人事が注目されます。

 要するに、2021年は単年で完結するのではなく、翌2022年に向けた「踏み台」としての意味合いもあり、なおさら失敗できないということです。2021、2022年はセットとして、あるいは一つのまとまりである「政治の季節」と捉えると、中国問題の動向が見えやすくなるでしょう。

2021年はこうなる!10大予測
1 経済のV字回復で中国共産党の正統性が強化
2 3月開催予定の全人代で経済目標の発表がある
3 中国はワクチン開発に積極的、国際協力と地政学リスクは共存
4 バイデン政権発足で米中二大国は“安定的”に競争する
5 アントフィナンシャルの「上場復帰」は現実味がある
6 国内での政治的引き締め、対外的強硬姿勢は続く
7 日中関係は不安要素が残るも、安定的に推移する
8 デジタル人民元は初期段階、当局は本気だが急いでいない
9 習近平氏の権力基盤を脅かす人物・勢力は見られない
10 経済外交は加速する。バイデン米政権の「アジア回帰」に注目

1:経済のV字回復で中国共産党の正統性が強化

 本連載でも言及してきましたが、私たちが中国を理解するために欠かせないのが、約9,200万人もの党員を抱える世界最大の政党・中国共産党が何を考え、そして民主選挙で選ばれていない党自らの正統性をどう確保しようとしているか、という2点です。その意味で、経済成長そのもの、それによってもたらされる雇用や消費は、正統性を守る上で最も重要な指標という現状は変わりません。

 コロナ・ショックに見舞われた2020年を振り返ると、第1四半期(1~3月)の実質GDP(国内総生産)は▲6.8%(前年同期比)でしたが、その後の第2四半期(4~6月)は+3.2%(同)、第3四半期(7~9月)は+4.9%(同)まで回復。2020年通期のプラス成長は確実で、+2~3%程度の成長率が見込めるでしょう。

 2021年は、第1四半期を中心にV字回復する可能性大で、中国政府が近年掲げてきた年5~6%程度の目標を上回る、年8%以上の経済成長率が見込めるでしょう。マーケット全体にとっては言うまでもなくプラス要因、特に、中国国内の消費関連銘柄には期待できるでしょう。

2:3月開催予定の全人代で経済目標の発表がある

 中国政府が毎年3月、国務院総理(現在は李克強[リー・クォーチャン]首相)の名義で経済成長率目標を発表する舞台が全国人民代表大会(通称「全人代」)です。

 2020年はコロナ禍もあり、例外的に開催が2カ月半延期になり、しかも経済成長率目標が発表されないという異例の事態に陥りました。

 しかし、新型コロナウイルスの感染抑制と経済回復に相当程度成功している現状から判断する限り、2021年の全人代は例年通り3月に開催されるでしょう。私の考えでは、経済成長率目標も80%の確率で公表されるでしょう。20%を保留した理由は、国際社会全体がいまだコロナ禍から立ち直れておらず、特に、欧米先進国における経済状況が不透明かつ不確実で、そこが中国の経済成長に与える影響を予測できないと、当局が考える可能性があるからです。

 いずれにせよ、3月は注目の月です。そこで経済成長率目標が発表されさえすれば、その数値はマーケットの自信や期待を後押しするものになるでしょう。

3:中国はワクチン開発に積極的、国際協力と地政学リスクは共存

 中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するためのワクチン開発に、大々的に力を入れています。新型コロナが中国・武漢市で世界最初に発生したこともあり、今後国内での再発を防ぐという目的もありますが、同様に、「メイド・イン・チャイナ」のワクチンを国際的に打ち出すことで、中国の技術力や対外影響力を向上させたいという戦略的動機が作用しています。

 10月下旬、米大統領選挙取材のために訪米した際に、ワシントンD.C.で中国の高級幹部と話をしました。同地に駐在する彼は、中国出張から帰ってきて1カ月が経過していましたが、中国滞在中に、自国企業が開発したコロナワクチンを打ったと言っていました。彼によれば、中国共産党の幹部の多くがすでにコロナワクチンを打っているとのことです。

 ただ、皮肉にも、中国国内における新型コロナ感染者はもはや多くなく、「実験台」の人選に苦労している模様で、近隣の友好国であるパキスタンに密かに持っていって、その効力を試しているようです。

 また、インドネシアは今月に入り、中国企業が開発したコロナワクチン120万回分を受け取っています。さらに2021年1月中に、追加で180万回分を受け取る予定とのこと。これらの生産を請け負い、中国のワクチン開発を引っ張っているのが、北京に本部を構え、ナスダックに上場する科興控股生物技術有限公司(SINOVAC)です。

 同社は最近、コロナワクチンのさらなる開発と生産のために5億ドルの資金を調達し、年間3億回分の生産能力を備える見込みです。前述のとおり、中国はワクチン開発を国家戦略の観点から推進しており、2021年、米国をはじめとした主要国との間で「ワクチン地政学」をめぐる攻防を繰り広げる可能性、言い換えれば、技術的な問題点や医学的な効力が政治、外交問題化するリスクは存在するでしょう。

 ただ、中国がワクチン開発に積極的で、すでに一定の効力と結果を上げていること、そして安全かつ効果的な承認済みワクチンを調達し、世界各国に公平に分配していくことを目指す国際的枠組みであるCOVAXに参加していることも、マーケットにとっては朗報だと言えます。

4:バイデン政権発足で米中二大国は“安定的”に競争する

 先月書いたレポートでも整理しましたが、バイデン米政権発足で、米中関係は少なくともトランプ政権時よりは安定的に、予見可能な形で推移するでしょう。トランプ氏が上方修正した対中輸入品への関税を、バイデン氏が以前の水準に戻すとは限りませんし、香港、人権、南シナ海といった問題では、バイデン政権はトランプ政権以上に中国に対して強気で挑むでしょう。バイデン政権が世界各地における同盟国やパートナーとの関係を再構築しながら「中国包囲網」を築くシナリオを、中国は警戒しています。

 ただ、競争するにしても、それは米中が互いの心理や動機を把握した前提での「競合関係」という色彩が濃く、マーケットにとっては、米中二大国間の一挙手一投足に常時振り回されるリスクは軽減するでしょう。

5:アントフィナンシャルの「上場復帰」は現実味がある

 以前のレポートでも報告した「アントフィナンシャル上場延期」はマーケット関係者を震撼(しんかん)させ、中国政府による市場規制を含めた政策に疑問が投げかけられました。この間、私も多くの市場関係者、機関投資家から当局がアント上場延期を迫った背景について聞かれました。中国政府が、ネット金融やIT新事業といった分野における管理監督ルールの欠如が、関連企業の市場独占や市場秩序の混乱を招く状況を懸念しているのは事実。アントに上場延期、そしてビジネスモデルの修正を迫った理由は政策の次元によるものです。

 ただ、これをもって、中国政府がネット金融やITといった分野を含めた新興企業や、それらの上場に否定的という解釈は腑(ふ)に落ちません。中国政府はこれまで以上に直接金融の比重を向上させる、そのために株式市場を盛り上げるという政策を取っています。アントは政府と市場との関係を含め、2021年、より良い形での上場を目指し動いてくるでしょう。

6:国内での政治的引き締め、対外的強硬姿勢は続く

 中国共産党が、「政治の季節」において最も警戒するのが国内における政治的不協和音です。市場や世論に対して影響力のある、リベラルな知識人や実業家が中国共産党の政策や体制を批判し、それが民間から歓迎され、流通していく局面を非常に恐れ、そういう流れを作り得る人物、勢力に目を付け、状況次第では拘束したりもします。

 これからの2年間、当局はそういう「異端勢力」を取り締まる意味でも、言論空間や市民社会への引き締めを強化するのは必至です。そのため、政治的に自由な議論はしにくくなります。

 と同時に、香港、台湾、南シナ海といった、中国にとっての「核心的利益」に関わる問題では妥協せず、断固として自らの主権や発展利益を死守しようとするでしょう。

 この過程で、西側、欧米諸国と外交的にもめる可能性は大いにあり、マーケットにとっても軽視できない地政学リスクは2021年も健在です。中国の対外的攻勢を注視しつつ、市場に参画すべきです。

7:日中関係は不安要素が残るも、安定的に推移する

 中国の対外的攻勢といえば、尖閣諸島問題を抱える日本も例外ではありません。中国公船の尖閣付近での挑発的行動が前代未聞に活発化しており、日本政府は主権侵害、領海侵犯といった観点から抗議していますが、先般の王毅国務委員兼外相の訪日時における姿勢や反応にも垣間見られるように、中国側が聞く耳を持ち、自制に努める様子は見られません。

 尖閣、香港、南シナ海といった問題で日中両国の溝は深く、近未来でそれが埋まる兆候は見出せません。2021年の間に、習近平国家主席の訪日が実現するかどうかも不明瞭です。

 とはいえ、両国政府はコロナ禍における経済、ビジネス、人的往来を再開すべく協議を続けており、外交関係を安定的に管理し、民間交流を促進させるという点では一致しています。日中関係が危機的な状況に陥るリスクは低いと言えるでしょう。新型コロナが終息し、両国間の往来が正常な状態に戻れば、日本に中国からの観光客が戻り(2019年は延べ959万人)、年間延べ1,000万に到達するのも時間の問題だと私は見ています。そうなれば、インバウンドビジネスを後押しするのは必至。日中関係の安定的推移は日本経済、マーケットにとっても軽視できない要素なのです。

8:デジタル人民元は初期段階、当局は本気だが急いでいない

 中国政府は、デジタル人民元の推進を、「米ドルの覇権的地位」切り崩し、人民元の国際化といった観点から戦略的に重視しています。アフリカや中東、南米、東南アジアといった地域における自国企業との決済で同通貨の使用が広まれば、中国の対外影響力の向上につながるとも認識しています。

 デジタル人民元を発行する中国人民銀行の幹部によれば、同行は、インターネット上ですでに偽のデジタル人民元を発見するなど、同通貨発行、流通のための整備を進めているようです。10月には、同通貨を本格的に流通させる試験区として設定した広東省深セン市で、1,000万人民元を実験的に発行しました。デジタル人民元の動向を追いかける上で、中央銀行以外に、深セン市にも注目です。

 ただ、中国政府は同通貨の推進に対しては「初期段階」(同幹部)という認識を持っていて、第14次五カ年計画の期間(2021~2025年)を通じて、実験結果を検証しながら、徐々に進めていくつもりのようです。中国が同通貨の発行に前のめりになりすぎていないのは、米国との間で生じ得る摩擦の管理という意味でも前向きな傾向です。と同時に、人民元の国際化、資本取引の自由化、金融体制改革、外資への市場開放、システミックリスクの回避といった、マーケットの関心が高い分野を占う上で、デジタル人民元をめぐる動向は注目する価値ありだと思います。

9:習近平氏の権力基盤を脅かす人物・勢力は見られない

 中国共産党の正統性を見積もる上で、党の核心である習近平氏がどの程度権力基盤を強固にしているのか、そこに風穴をあける人物や勢力はいるのか、というのは非常に重大な問題です。なぜなら、中国共産党内での権力闘争が激化すれば、当局として地に足の着いた理性的な政策を実行するための基礎が揺らぐからです。

 既存の政治体制や発展モデルが良いか悪いかは別として、中国では、政治、政権、政局の安定は、政府がマーケットの安定的推移・成長を保証する政策を実行するための前提なのです。その意味で、中国共産党研究を日課とする私から見ても、少なくとも党内に習近平氏の地位を脅かす勢力や人物は見当たりません。仮に政権運営が厳しくなるとすれば、それは反対勢力との権力闘争が原因ではなく、政策の失敗を引き金とする可能性が高いのです。

 そして、「政治の安定は政策の成功を保証する」という中国の国情を考えれば、2021年の中国政治はマーケットにとっては追い風という見方ができるでしょう。

10:経済外交は加速する。バイデン米政権の「アジア回帰」に注目

 前述のコロナワクチン開発を含め、2021年、中国の経済外交は加速するでしょう。先日、8年間の交渉を経て調印したRCEP(東アジア地域包括的経済連携)をめぐっては、中国はあくまでもASEAN(東南アジア諸国連合)のイニシアチブを重んじると言っていますが、各国がコロナ禍にある現状下、中国は自国の経済力を周辺地域に浸透させようとするでしょう。

 11月のAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議で、習近平氏が初めてTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への加盟を積極的に検討すると表明した事実には、バイデン新政権になって、米国が再び東アジアへの経済的、外交的、戦略的関与を強める可能性があり、事前に牽制(けんせい)しておきたいと考慮したのでしょう。

 中国が関税撤廃や投資の自由化といった政策を通じて、域内経済への貢献度を強めるのは前向きな現象ですが、地域経済をめぐる米国との覇権争いを演じるようであれば、それはマーケットにとっても不都合な真実。2021年、中国の経済外交がバイデン新政権の米国とどう共存、融合するかに注目したいところです。

2021年の中国はプラス要因が動かす

 以上、中国共産党がいま何を考えているか、何をしようとしているのかを含め、2021年に私が注目する動きを、政治、経済、企業、外交といった複数の分野から見てきました。マーケットへの影響としては、追い風となる要因、リスク、または両者を内包するものとありますが、全体的に見れば、2020年に比べて、プラスの要因のほうが多くなるというのが私の見立てです。

 そこには、中国が新型コロナ抑制と経済再生にある程度成功し、それが継続、進化する兆候を示していることが関係しており、中国共産党結党百周年という季節柄もそれらの動向を後押しするでしょう。バイデン政権の誕生がほぼ確実という米国側の状況も、マーケットにとってはプラス要因のほうが大きいです。

 中国という世界経済、グローバルマーケットにとっての影響力が日増しに拡大するプレーヤーの動向から見れば、2021年を通じて強気な投資を貫く土壌は、相当程度備わっているというのが私の予測になります。