3.メモリ市況の動き

 NAND型フラッシュメモリとDRAMの大口価格に変化が表れています。

 日経産業新聞によれば、3月31日のNAND型128ギガビットの大口価格は、1.95~2.35ドル/個となりました。3月24日の1.90~2.30ドル/個から小幅上昇しました。NAND128ギガビット大口価格は、2019年7~8月の1.70~2.10ドル/個に底を付け、そこから緩やかに10~11月の1.82~1.22ドルまで上昇しましたが、一時12~1月に1.76~2.16ドル/個まで下がりました。それが2月に入って再び上昇し始め、3月末に1.95~2.35ドルの高値を付けたのです。

 新型コロナウイルス禍の最中のこの動きは重要で、明らかに、4月以降のデータセンター投資、パソコンの伸び、5Gスマホの伸びを見越してNANDを調達する動きが出ていると思われます。

 DRAM4ギガビットの大口価格は、2018年11月の4.00~4.20ドル/個をピークに下がり続けてきました。それが2019年12月下旬から2.10~2.30ドル/個で横ばいに入り、2020年3月31日に2.25~2.45ドル/個に小幅ですが上昇しました。この要因は、世界的な在宅勤務の急増によるパソコン需要増加とデータセンター向けサーバー需要の増加によります。

 また、DRAM4ギガビットスポット価格が、2019年12月の1.61~1.64ドル/個で大底を入れて、3月上旬に2.30~2.33ドルに急上昇したことによって、同時期の大口価格2.10~2.30ドルを上回りました。実は、DRAMスポット価格は長く大口価格を下回っていたため、需要家にとっては小口の需要であればスポットで調達することが有利だったのですが、今はある程度のロットがまとまれば大口価格で調達したほうが有利になったのです。折から4月以降のサーバー、パソコン、5Gスマホの需要に拡大が見込まれるため、需要家は大口価格での調達にシフトしている可能性があります。そのため、足元では大口価格が上昇し、スポット価格が下落するということになっています。DRAM需要の増加が続けば、大口価格の上昇が続き、それに合わせてスポット価格も上昇すると思われます。

 このように、メモリ市況にも重要な変化が表れてきました。

グラフ4 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ5 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、それ以降はDDR4)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ6 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金
出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成
注:2018年6月29日までは4ギガビットDDR3型、それ以降は同DDR4型

4.中国の状況

 中国と欧米の状況については、先週の楽天証券投資WEEKLY「特集:新型コロナウイルス感染症によって経済はどう変わるのか」で述べましたが、再度述べます。

 中国では、多くの工場が2020年1月24~30日の春節明けの工場再開を約1週間延期しましたが(2月上旬まで延期)、工場再開後も稼働率が低く、物流も混乱していたもようです。

 しかし、3月に入って各分野の生産が回復中です。中国政府が(様々な異論はあるにせよ)武漢を封鎖し、新型コロナウイルスを封じ込めたことが奏功していると思われます。

 また、半導体関連の生産、物流は最優先されています。半導体工場の稼働も基本的には問題がないもようです。ただし、半導体製造装置の据付は、人員不足で遅れている工場があるもようです。そのため、2020年1-3月期の業績が会社予想に対してやや未達になったり、上乗せ要因がなくなったりする半導体製造装置メーカーが出てきそうです。

 中国では各分野で生産が回復中です。生産の回復が続けば、工場労働者が受け取る賃金も増え、新型コロナウイルス封じ込めの成果もあって社会にある程度の安心感が出てきて、消費が増え、景気が回復する道筋に入ると思われます。例えば、中国の大手通信会社は5G投資に意欲的ですが、新型コロナウイルスの騒ぎの中でも投資意欲は健全であるもようです。中国の2020年4-6月期は生産、消費、投資が回復する過程に入ると思われます。

 5Gスマホ需要について見ると、2020年1-3月はこの騒ぎで人々は外出もままならず、大きく落ち込んだ可能性がありますが、4-6月からは回復すると思われます。

 中国約14億人の人口=消費者の中で、まず注目すべきなのは約6億人いるゲームユーザーです。主にスマホゲームとパソコンオンラインゲームのユーザーですが、彼らにとって5Gスマホは、今プレイしているゲームのパフォーマンスを上げ競争相手に打ち勝つ重要なツールです。中国のゲームユーザーが5Gスマホに対してどのような態度をとるのかが、第一のポイントです。

 次に注目すべきなのは、一般の家庭です。中国はもともと儒教の国なので男尊女卑の国でしたが、社会主義中国になってから国民の思想を変え、男女平等になりました(地方ではまだ根強く男尊女卑が残っているようですが)。男女平等の程度は欧米には及びませんが、日本よりは高いです。このため、女性の社会進出も盛んで多くの家庭が共働きです。中国人は、国や社会にあまり信頼をおいていないといわれますが、逆に家族を大変大事にするといわれています。また、新しいものが好きな消費社会です。

 その結果、中国では家族のために使う財布が一つの家庭に二つあることになります。このことは、5Gスマホのような新しい民生用電子機器の需要を考える際に重要なことです。

 グラフ7は楽天証券による世界のスマートフォン出荷台数予想です。今年の年初(新型コロナウイルス禍の前)に予想したものです。2020年の5G出荷台数予想は2.5~3.0億台ですが、今のところこの予想は変えません。この主役はおそらく中国です。

グラフ7 5Gスマートフォンの世界出荷台数予想

単位:100万台
出所:2018年はiDCプレスリリースによる。2019年以降は楽天証券予想

5.欧米の状況

 ヨーロッパとアメリカは事情が異なります。

 ヨーロッパは各国が大混乱しているため、経済の回復、スマートフォン需要の回復は当面期待できません。この混乱は今年中に収まらず、長期化する可能性もあります。

 一方で、アメリカは事情が異なると思われます。アメリカは大陸国家です。人口も多く国土も広く、金があります。もし一つの大都市の回復が絶望的なれば、別の場所に新都市を建設するという大陸国家特有の考え方ができる国です。この騒ぎが収まれば、巨額の財政予算によって景気回復が期待できると思われます。経済対策の2兆ドル(約210兆円)は半端な数字ではありません。すでにパソコン需要は在宅勤務の急速な普及で増加していますが、スマートフォン需要も遅れて回復に向かうと思われます。

 このように、半導体、電子部品、スマホ産業は、生産から需要に問題が移ってきました。当面は、中国の景気が急速に回復し、それの恩恵を日本が獲得し、今年夏から秋以降にアメリカの景気回復が期待できると思われます。(日本の諸情勢をどう見るかについては後述します。)

6.半導体設備投資の動向

 日本製、北米製半導体製造装置の販売動向も、新型コロナウイルス禍の中では意外な数字になっています。

 2020年2月の日本製半導体製造装置販売高は前年比14.4%増となりました。2020年1月に比べても1.3%増と横ばいでした。前年比は2019年12月からプラス転換しましたが、2月は二けた増となりました。

 また、先行して回復している北米製販売高は、2019年10月から前年比プラスとなり、2020年1月は同22.7%増、2月は同26.2%増と高い伸びを示しています。5ナノ半導体の新規投資、7ナノ追加・増強投資、NAND投資が足元の半導体設備投資をけん引していると思われます。

 ただし、3月がどうなるのか慎重に見極める必要があります。新型コロナウイルス禍の影響で設備投資の延期はありうると思われます。特に、アップルの新型iPhoneは当初予定の今年9月から数カ月間発売が延期になる可能性があると報道されています。実際にそうであれば、5ナノ新規投資が後づれする可能性はあります。

 もっとも、その場合、ファーウェイ、サムスン、シャオミなどのアップルの競合相手が7ナノチップセットを搭載した5Gスマホによってアップルの市場シェアを侵食する可能性や、7ナノ半導体の設備投資が増える可能性があるため、2020年ないし2021年3月期の半導体設備投資が従来計画よりも減るとは必ずしも言えないと思われます。

表2 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)

単位:日本製は百万円、北米製は百万ドル、%
出所:日本半導体製造装置協会、SEMIより楽天証券作成

表3 大手半導体メーカーの設備投資

出所:各社会社資料、報道より楽天証券作成
注1:2020年12月期はTSMC、インテルは会社計画、サムスンは楽天証券予想。
注2:1ウォン=0.9円、1ウォン=0.0008ドル。