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1.新型コロナウイルス感染症による感染の現状

1)なぜか日本の新型コロナウイルス感染者数と死亡者数が少ない

 今回は、新型コロナウイルス感染症が日本の産業に与える影響を考えてみたいと思います。

 まず、日本と世界の感染者数と死亡者数の現状を見たいと思います。表1がそれであり、Yahoo!Japan掲載のものをまとめました。

 2020年3月26日19時現在の日本の感染者数は1,292人、海外は41万2,274人、日本の死亡者数は45人、海外は1万8,390人です。

 一目でわかるのは、日本の感染者数と死亡者数の少なさです。

 日本の都道府県別の感染者数は、3月26日19時現在で東京都201人、北海道166人、愛知県144人、大阪府129人となっています。これも一目でわかりますが、人口527万人で人口密度の低い北海道と、人口1,395万人で人口密集エリアが多い東京を比較すると、東京が若干多い程度というのは不自然です。3月24日18時現在では、北海道161人、東京都146人、愛知県136人、大阪府116人となっています。表2を見てもわかりますが、東京都の感染者数の増え方が急です。

 以前のデータを見ると、3月1日12時時点での全国の感染者数は206人、多い順に北海道69人、東京35人、愛知県29人、神奈川県20人、千葉県12人、和歌山県11人、熊本県5人、大阪府4人です。最近のデータよりももっと不自然です。

 何故このような不自然な数字になるのかというと、一つの解釈ですが、2月に入って医師からPCR検査の要請が各都道府県の保健所に対して急増したとき、よく言えば各保健所の体制不備を理由にして断られ、悪く言えば検査拒否があったためと思われます。医師の間では東京都の検査拒否あるいは患者の選別が最も厳しかったと言われているようです。要するに、2月の検査が少なすぎるため、また、各都道府県の検査に対する積極性に差があったため、あまりにも不自然な数字になったと思われます。これについては、日本医師会が2月26日に検査拒否の問題を問題提議しました。

 この状況は3月に入って随分と改善されているようであり、東京都でも検査件数が増えているもようです。

表1 新型コロナウイルス感染症の発生状況

注:2020年3月26日19時現在
単位:人
出所:ヤフーより楽天証券作成。元出所は厚生労働省、WHO等。

表2 新型コロナウイルス感染症の都道府県別発生状況

単位:人
出所:厚生労働省より楽天証券作成。

2)2月に何があったのか、検査が少なくて何が起きたのかわからなくなったのではないか

 新型コロナウイルス感染症の日本における最初の感染者は、2020年1月15日に神奈川県で確認されました(武漢に渡航歴のある人ですが、回復したのでその日のうちに退院)。その後感染者数は2月中旬から増え始め、3月初旬から更に増加しました。

 日本と中国のビジネス、観光両方の関係の強さ、日本ではライブハウス、劇場だけでなく、地下鉄等人が密集する場所が多いことを考えると、1月からウイルス保有者が国内に入り、2月にかけて感染が広まったと考えるのが妥当と思われます。

 これに対して検査は十分ではなかったと思われます。厚生労働省の資料(新型コロナウイルス陽性者数[チャーター便帰国者を除く]とPCR検査実施人数[都道府県別][1/15~3/24]、2020年3月25日掲載分)によると、1月15日から3月24日の間に、北海道(人口527万人[2019年12月末])では1,794人のPCR検査が行われ、そのうち163人が陽性でした。同じ時期の東京都(人口1,395万人(2020年1月、以下同様))は2,013人の検査に対して陽性は172人でした。継続性のある自治体の数字を挙げると、愛知県(人口755万人)が検査人数1,895人に対して陽性148人、兵庫県(人口546万人)は検査人数1,607人に対して陽性115人となっています。

 もともと熱心にPCR検査を進めてきた北海道(東京の人口は北海道の2.6倍)を基準に考えると、東京ではPCR検査をもっと多く行うべきだったということになります。人口比で考えると、東京では400~500人の感染者がいてもおかしくないということにもなります。東京の感染者数が最近になって増えているのは(3月26日に過去最大の増加数47人を記録)、実際に感染者数が増えているのではなく、もともと北海道の2~3倍いた感染者(2月時点の感染者から2次感染、3次感染した人もいると思われます)が検査によって表に出てきただけかもしれないのです。

 ちなみに、全くの私見ですが、現在増加中の東京都の感染者数が200~300人台で止まれば(検査をちゃんと行っているという前提でです)、北海道との比較から言って実際の感染者数が減り始めていると言えるかもしれません。

 今更どうにもなりませんが、国も東京都も感染初期に検査を増やそうとしなかったため、新型コロナウイルス感染症の感染実態がよく分からなくなっている可能性があります。もしそうであれば、効果的な政策は期待できません。
(もっとも、新型コロナウイルス感染症の感染者は、無症状者と軽症者[病院に行くほどではない程度の症状と言われています]が多く、もともと実態解明が難しいと思われます。)

 ただし、不幸中の幸いですが、死亡者数は海外と比べてかなり少ないと言えます。もちろん、国が発表している数字は、検査を受けることができず、病院をたらいまわしにされ、新型コロナウイルス感染症であるにもかかわらず通常の肺炎として診断され死亡した人は含まれていないため、実態はこれよりも多い可能性はあります。しかし、例えば1,000人を超えるような多さではないと思われます(年間死亡者が9万人強の肺炎の死亡者が1月以降急増すれば目立つはずです)。

 新型コロナウイルス感染症の死亡者数が海外に比べて少ないのは、環境、公衆衛生、医療に加えて、多くの日本人の病歴や医療の在り方など様々な要因が複合的に絡み合っていると思われます。残念ながら感染初期の検査等の対応がうまくいかなかったため、実態解明は難しく、時間がかかる可能性があります。

 3月20日に劇場が再開されました。私の意見ですが、ここから2~3週間、死亡者が急増するなどがなければ、事態は終息に向かう可能性があると思われます。理由は、2月27日から約3週間の自粛で感染の連鎖が断たれた可能性があるからです。ただし、帰国者と訪日外国人の発症が増えているのは要注意です。

グラフ1 国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施状況

単位:件
出所:厚生労働省より楽天証券作成、2020年2月18日以降、結果判明日ベース