2.スマートフォンと半導体、電子部品の生産動向、需要動向

 中国では、多くの工場が2020年1月24~30日の春節明けの工場再開を約1週間延期しました(2月上旬まで延期)。ただし、それでも労働者が集まらず、工場再開後も稼働率が低く、物流も混乱していたもようです。

 しかし、3月に入って各分野の生産が回復中です。中国政府が(様々な異論はあるにせよ)武漢を封鎖し、新型コロナウイルスを封じ込めたことが奏功していると思われます。

 また、半導体関連の生産、物流は最優先されています。例えば、シリコンウェハ、フッ化水素のような重要材料の物流は優先的に人手が割り当てられており、支障なく半導体工場に納入されています。その結果、半導体工場の稼働も基本的には問題がないもようです。

 ただし、半導体製造装置の据付は、人員不足で遅れている工場があるもようです。そのため、2020年1-3月期の業績が会社予想に対してやや未達になったり、上乗せ要因がなくなったりする半導体製造装置メーカーが出てきそうです。

 中国で各分野の生産が回復中であるならば、工場労働者が受け取る賃金も増え、新型コロナウイルス封じ込めの成果もあって社会にある程度の安心感が出てきて、消費が増え、景気が回復する道筋に入ると思われます。例えば、中国の大手通信会社は5G投資に意欲的ですが、新型コロナウイルスの騒ぎの中でも投資意欲は健全であるもようです。中国の2020年4-6月期は生産、消費、投資が回復する過程に入ると思われます。5Gスマホ需要について見ると、1-3月はこの騒ぎで人々は外出もままならず、大きく落ち込んだと思われますが、4-6月からは回復すると思われます。

 ただし、ヨーロッパとアメリカは事情が異なります。ヨーロッパは各国が大混乱しているため、経済の回復、スマートフォン需要の回復は当面期待できません。

 ただし、アメリカは大陸国家です。人口も多く国土も広く、金があります。この騒ぎが収まれば、巨額の財政予算によって景気回復が期待できると思われます。

 日本は、前述したように全くの私見ですが、この2~3週間なにもなければ(死亡者が増加しなければ)、新型コロナウイルス騒動は終息に向かうと思われます。諸外国に比べ死亡者数が少ないため、経済の回復は比較的早いと思われます。

 このように、半導体、電子部品、スマホ産業は、生産から需要に問題が移ってきました。当面は、中国と日本が景気回復の中心となり、半年ぐらい遅れてアメリカの景気回復が期待できると思われます。

グラフ2 5Gスマートフォンの世界出荷台数予想

単位:100万台
出所:2018年はiDCプレスリリースによる。2019年以降は楽天証券予想

3.新型コロナウイルスで変わること-在宅勤務は定着するか-

1)日本でも在宅勤務が普及する?

 新型コロナウイルスは私たちの生活を大きく変えました。今後どの程度の年数かわかりませんが、一定の感染症リスクを前提とした生活、経済活動を余儀なくされる可能性があります。

 まず、私たちの働き方が、ある程度は在宅勤務へシフトすると思われます。現在、日本でも海外でも在宅勤務をする人が多くなっています。このうち、オフィスに出社したほうが良い人たちはいずれオフィスに戻り、自宅でも十分仕事が可能な人たちは自宅で働き続けると思われます。毎日会社に通勤することが普通だった日本人にとって大きな変化と言えます。

 仕事だけでなく、感染症リスクがある社会では、外出を控える動きも時としてでてきます。そのため、仕事、日常生活、遊びなど様々な分野で、IT化、ネット化が更に進むと思われます。

2)会社と個人の両方で高性能パソコンへの買い替えが進む?

 仕事での大きな変化は、ありきたりではありますが、パソコンと通信回線に起こると思われます。5Gスマホだけ持っていても仕事は出来ないので、パソコンが必要になります。在宅勤務では多くの場合、会社の情報システムに自分のパソコンを接続して仕事をするため、会社のパソコンと同じスペックがあったほうが良いことになります。

 一方、普通の企業の情報システムはセキュリティ、各種システム、コミュニケーションツールなど、パソコンにインストールされるソフトの容量が大きくなっており、普及タイプ以下のスペックのパソコンでは動きが鈍くなる傾向があります。このため、企業が使う業務用パソコンでは、より高性能でスペックの高いものに買い替える動きがすでに出ています。

 例えば、これから買い替える場合は、

普及型パソコンのスペック:CORE i5+メインメモリ4GB+HDD

より高いスペック:CORE i7+メインメモリ8~16GB+SSD

 に業務用パソコンがグレードアップすることが考えられます。価格は、上記のCOREi5搭載パソコンで安いもので6.0万~6.5万円/台、COREi7搭載パソコンで同じく8万円前後(いずれも画面は15.6インチ、光学ドライブ有りで比較、価格.comを参考にした)なので、最低でも約30%価格が上昇することになります。このようなハイスペックパソコンを個人も購入するようになると考えられます。

 パソコンは成熟商品あるいは衰退商品と考えられてきました。事実、グラフ3のように世界のパソコン出荷台数は2011年をピークとして減少トレンドに入っています。ただし、2019年はWindows7のサポート期間終了に伴う更新需要が発生したため横ばいになりました。

 また中身に変化が起きており、この2~3年の間に、ゲーミングPC、画像処理用PC、ディープラーニング用PCなど特殊用途用PCの販売が伸びています。ゲーミングPCの場合、台数では年率5%程度の伸びですが、価格が安いもので1台10万~15万円、高いもので30万円前後なのでパソコン市場に与えるインパクトは大きなものがあります。なお、2019年で世界パソコン出荷台数の約14%がゲーミングPCになっています。

グラフ3 世界のパソコン出荷台数

単位:100万台
出所:ガートナーより楽天証券作成

3)有線(光ファイバー)から無線(5G)へ

 通信回線は、5Gが普及した後は有線よりも5Gが便利になると思われます。企業や家庭で個人単位で使うものとしては、通信の歴史の中で初めて有線(光ファイバー)よりも無線(5G)のほうが回線スピードが早くなります。どこでも最低で2~3Gbps以上の高速大容量回線を使えるため、仕事上の利便性は増すと思われます。

4)感染症時代は日本企業の行動も変化する?

 感染症リスクのある時代には、ネガティブなものもあります。人の交流、特に海外との交流はある程度制限されるか、交流するときにリスクが生じます。例えば、海外旅行に行ってなんらかの感染症に感染した場合、日本に帰って来られなくなるリスクは考慮する必要があると思われます。

 日本の企業経営の在り方も変わる可能性があります。海外現地法人に日本の本社から社長と主だったスタッフを派遣するのではなく、現地で社長をリクルートし、主なスタッフも現地人から採用し、日本人はほんの少数という、これまで欧米の多国籍企業が採用してきた企業経営のやり方が日本でも定着するかもしれません。

4.新型コロナウイルスで変わらないもの-モノからコトへの流れは不変-

1)「コト」消費への流れは変わらない

 新型コロナウイルス感染症でも変わらないものがあると思われます。日本でこの5~10年間に起こっている、「モノ」から「コト」への消費の大転換です。

 モノが売れない、あるいは安いモノしか売れない時代が続いています。自動車では登録車から軽自動車への需要シフトが続いています。登録車(排気量1,000cc以上)の価格はおおむね120万~300万円以上、軽自動車(排気量660cc以下)は80万~200万円です。平均すると価格は50%から2倍以上違います。

 アパレルでも低価格化が進んでいます。一揃えすると2万円以上するユニクロから、1万円以下で買えるワークマンへの流れです。

 ところが、モノの世界でこれだけの低価格が起これば、モノだけでは日本経済は持ちません。そこで何が日本経済を補っているのか、あるいは引っ張っているのか、これが大きな問題です。

 それが、「コト」消費です。モノが売れない一方で、コト消費は大活況です。

 グラフ4、5を見ると、この9年間、音楽ライブ、舞台、ミュージカルの大ブームが継続しています。この3分野は、コト消費の代表格と言ってよいものです。2018年のコンサート・ライブ年間売上高(音楽ライブ、演劇、ミュージカル、ファンミーティングなど)は、3,448億円(前年比3.7%増)、年間公演本数3万1,482本(同0.6%減)、動員数(延べ人数)4,862万人(同1.7%増)、一人当たり売上高は7,092円(同2.0%増)となっており、安定成長していることがわかります。ちなみに、10年前の2008年の数字を見ると、年間売上高1,075億円、年間公演本数1万5,522本、動員数2,253万人、一人当たり売上高4,771円となっています。公演本数、動員数、一人当たり売上高のいずれもが伸びたことによって年間売上高が10年間で3倍以上になりました。

 最近の特徴は、日本では珍しくこの業界でインフレが起きていることです。チケット代が上昇しており、トップクラスの人気がある演劇、ミュージカル、音楽ライブでは、チケット代が年率で5~10%程度上昇していると思われます。劇場、会場の運営、設営のための人件費上昇、演出費用の増加、興行主の利益拡大などの理由があると思われますが、この結果、演劇、ミュージカルの分野で新規参入が起きています。アミューズ、エイベックス、東映が、演劇、ミュージカルの分野に進出しており、一定の成果を挙げています。

 新規参入が増えていることは、俳優、脚本家、演出家や各種スタッフにとってチャンスが増えることでもあり、歓迎されています。

グラフ4 日本のライブ・エンタテインメント産業

単位:百万円、暦年
出所:音楽ソフト生産高、音楽配信売上高は日本レコード協会、コンサート・ライブ売上高はコンサートプロモーターズ協会、演劇等のパフォーミングアーツを含む

グラフ5 ライブの年間公演数と動員数

出所:コンサートプロモーターズ協会より楽天証券作成