お金を使って成長させる

篠田 「資産活用と社会的意義」について考えるにあたり、そもそも資産活用には「原資」が必要となるわけですが、野尻さんは個人資産の金額として「3,000兆円」という数字を示されていますね。

野尻 資産形成と資産活用というのは、お金との向き合い方という点では同じですが、異なる局面を表しています。資産形成期は、取り崩してはいけない局面。資産形成期が終わって、運用を継続しながら取り崩しを始めるという局面で初めて資産活用の社会的意義が生まれます。

 個人金融資産は1,800兆円あると言われていますが、個人が所有する土地と非金融資産(設備等)を合わせると約3,000兆円になります。個人金融資産の3分の2以上を保有しているのは60歳以上の層と言われていますが、土地と設備まで加えると、保有比率はもっと高くなると見ています。仮に3分の2としても3,000兆円のうちの2,000兆円になる。このお金をどうやって社会に役立てていくかという議論は重要です。

 先にお話した人口の構成比に戻ると、今後は、現役層が3,000万人減る一方で、高齢者層は3,300万人で変わらないという時代がきます。日本経済を活性化し、成長させていくためには、高齢者がお金を使う環境を作らないと大変なことになる。

 毎年約50兆円もの資金が相続されていますが、この10分の1の5兆円を使うだけでGDPを1%押し上げる力になります。この5兆円という金額は、高齢者が保有する資産のわずか0.25%に過ぎません。「人生100年時代」が、お金を使わずに貯め込んでしまうことに結びつかないよう願っています。

中野 日本社会に生きる人は、「将来が不安」という共通の感覚を抱いています。不安がどこから来ているのかというと、日本経済の長期衰退基調です。それならば、産業界にもう一度元気になってもらおうという発想になりがちですが、日本のように高度に成熟した国家は全く別の発想をすべきで、それが保有金融資産の活用です。1,800兆円のうち1,000兆円が現預金で、一切の富を生まない状態で保有されています。

 死蔵されているお金を新たな富を生むお金に換えるという考え方を持つと、景色が変わって見えます。これは米国に成功事例があります。日本における「所得」は、基本的に、働いて得る労働所得だけですが、米国人は労働所得と金融所得の二つの所得を持っています。だから生活の豊かさが違う。

 日本人も1,000兆円の現預金を保有しているのですから、その1%相当額を「リターンを生むお金」に換えるだけで年間10兆円の富の創出に繋がり、経済成長率を1.8%押し上げます。お金は素敵な人生をおくるためにあるのです。

最後に

篠田 今回のパネルディスカッションでは、資産形成と資産活用について、数々の気づきとヒントをいただきました。最後にぜひメッセージをいただきたいと思います。

野尻 資産運用から部分的に撤退する出口戦略を描き、高齢者が安心して資産を活用できる前向きな「超高齢社会」を作ること、それが日本の大きなテーマです。上手なお金との向き合い方を考えていきたいですね。

岩城 自分の未来は自分で支える時代です。いくら貯める必要があるのかを把握して、長期分散・低コストな方法で資産形成をしていただきたいと思います。

中野 大事なことは、最初の一歩を踏み出すこと。小さな金額でいいので、長期積立分散投資を始めれば景色が変わると思います。一緒に行動しましょう。

篠田 さまざまな示唆をいただいたパネルディスカッションになりました。野尻さん、岩城さん、中野さん、本日はありがとうございました。

>>(前編を見る)お金に悩まない老後つくり-人生100年時代の資産運用・前編-