人生100年時代の資産運用戦略」について、ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏、セゾン投信株式会社 代表取締役社長の中野晴啓氏、合同会社フィンウェル研究所 代表の野尻哲史氏の3名によるパネルディスカッションの後編です。

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篠田 ここからは、資産活用とその社会的意義について考えていきたいと思います。

どんな資産形成が向いているのかと篠田

 運用を継続しながら資産を取り崩す方法として、かつては毎月分配型の投資信託が使われていました。
 しかし、世界的な低金利環境により、毎月分配型の運用が難しくなっている。

 そこで、今後は「資産の計画的な取り崩し」がキーワードになると思いますが、運用を継続しながら計画的に取り崩すには、どのような方法が適しているのでしょうか。

野尻 私が取り崩しの議論をするときに必ずお伝えしているのは、毎月10万円ずつ取り崩すというような「定額の取り崩し」はリスクが高いということです。

定額の取り崩しについて警鐘を鳴らす野尻氏

 私の親の世代は運用をしなくていい時代を生きていたので「定額」で良かった。でも、運用をしながら取り崩す必要がある今の時代は、「定率」の考え方のほうが適しています。

 いちばん分かりやすいのは、「残高の4%を取り崩す」方法でしょう。

 一方で、運用で増やす部分は、年率3%を想定します。このような部分的な出口戦略を考えることが、これからの資産活用にとって大事になってきます。

篠田 3%で増やして、4%を取り崩すということはつまり、1%ずつ減っていくことになりますね。

野尻 60歳から75歳までの15年間、資産の減少の幅を1%にとどめることができれば、資産寿命を10年間延ばすことができます

篠田 岩城さんは、定額で取り崩して1年ごとに見直していくという方法でしたね。

岩城 私も基本的な考え方は野尻さんと同じです。運用しながら取り崩していくのが良いでしょう。定率という考え方は、合理的だと思いますが、少し難しく感じられる方もいらっしゃるかもしれません。楽天証券で新しく始まった投信定期売却サービスを使えば、難しい計算をしなくても、毎月「定率」で投信の売却代金を受け取ることができますね。

篠田 ありがとうございます(笑)。そうなんです。ご自身で計算していただかなくても、あらかじめ設定いただければ、自動的に「定率」で取り崩すことができるので、ぜひご活用いただきたいと思います。

資産形成の活用法

篠田 中野さんには、実際に投資信託を運用されている運用会社のお立場から、資産形成に有効な投信の活用法を伺いたいと思います。

中野 (金融庁から顧客本位ではない商品と批判されたことで)毎月分配型投信ブームは終わったと思っていたのですが、復活しそうで危機感を感じています。

毎月分散型には注意を、と中野氏

 購入時の毎月分配型投信の分配金の水準が未来永劫続く可能性は極めて低いし、分配金は運用会社が決めるので、投資家が必要とする額を約束されるわけでもない。しかも、ぼんやりしていると元本がどんどん取り崩されてしまう可能性もある。

 毎月分配型の仕組みを使わなくても、資産の取り崩しができるというのは、岩城さんや野尻さんのお話の通りです。今後は、一定の金額を取り崩す定額ではなく、資産価格が低いときには取り崩し額が減少する定口売却や定率売却が金融サービスの主流になってくると思います。

 それに適した投資信託というのは、世界経済の成長軌道にお金を乗せて、国際分散投資で運用することを目指したものです。世界経済の成長率は3%程度が想定されるので、先ほどの野尻さんの「3%の運用」も実現できます。

篠田 世界経済の成長率は3%程度が想定できるとのことですが、安定した成長が見込めるのでしょうか。

中野 1987年から2017年の世界の実質GDP(国内総生産)をグラフ化すると、安定した右肩上がりの成長を続けていることが分かります。同じ期間、世界全体の株価は激しく上下しながら、全体としては上昇を続けています。多くの投資家の方は、株価変動の波に乗って資産を増やすことを考えがちですが、世界経済の成長軌道に乗せておけば、着実に資産を増やすことができるのです。

お金を使って成長させる

篠田 「資産活用と社会的意義」について考えるにあたり、そもそも資産活用には「原資」が必要となるわけですが、野尻さんは個人資産の金額として「3,000兆円」という数字を示されていますね。

野尻 資産形成と資産活用というのは、お金との向き合い方という点では同じですが、異なる局面を表しています。資産形成期は、取り崩してはいけない局面。資産形成期が終わって、運用を継続しながら取り崩しを始めるという局面で初めて資産活用の社会的意義が生まれます。

 個人金融資産は1,800兆円あると言われていますが、個人が所有する土地と非金融資産(設備等)を合わせると約3,000兆円になります。個人金融資産の3分の2以上を保有しているのは60歳以上の層と言われていますが、土地と設備まで加えると、保有比率はもっと高くなると見ています。仮に3分の2としても3,000兆円のうちの2,000兆円になる。このお金をどうやって社会に役立てていくかという議論は重要です。

 先にお話した人口の構成比に戻ると、今後は、現役層が3,000万人減る一方で、高齢者層は3,300万人で変わらないという時代がきます。日本経済を活性化し、成長させていくためには、高齢者がお金を使う環境を作らないと大変なことになる。

 毎年約50兆円もの資金が相続されていますが、この10分の1の5兆円を使うだけでGDPを1%押し上げる力になります。この5兆円という金額は、高齢者が保有する資産のわずか0.25%に過ぎません。「人生100年時代」が、お金を使わずに貯め込んでしまうことに結びつかないよう願っています。

中野 日本社会に生きる人は、「将来が不安」という共通の感覚を抱いています。不安がどこから来ているのかというと、日本経済の長期衰退基調です。それならば、産業界にもう一度元気になってもらおうという発想になりがちですが、日本のように高度に成熟した国家は全く別の発想をすべきで、それが保有金融資産の活用です。1,800兆円のうち1,000兆円が現預金で、一切の富を生まない状態で保有されています。

 死蔵されているお金を新たな富を生むお金に換えるという考え方を持つと、景色が変わって見えます。これは米国に成功事例があります。日本における「所得」は、基本的に、働いて得る労働所得だけですが、米国人は労働所得と金融所得の二つの所得を持っています。だから生活の豊かさが違う。

 日本人も1,000兆円の現預金を保有しているのですから、その1%相当額を「リターンを生むお金」に換えるだけで年間10兆円の富の創出に繋がり、経済成長率を1.8%押し上げます。お金は素敵な人生をおくるためにあるのです。

最後に

篠田 今回のパネルディスカッションでは、資産形成と資産活用について、数々の気づきとヒントをいただきました。最後にぜひメッセージをいただきたいと思います。

野尻 資産運用から部分的に撤退する出口戦略を描き、高齢者が安心して資産を活用できる前向きな「超高齢社会」を作ること、それが日本の大きなテーマです。上手なお金との向き合い方を考えていきたいですね。

岩城 自分の未来は自分で支える時代です。いくら貯める必要があるのかを把握して、長期分散・低コストな方法で資産形成をしていただきたいと思います。

中野 大事なことは、最初の一歩を踏み出すこと。小さな金額でいいので、長期積立分散投資を始めれば景色が変わると思います。一緒に行動しましょう。

篠田 さまざまな示唆をいただいたパネルディスカッションになりました。野尻さん、岩城さん、中野さん、本日はありがとうございました。

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