まだまだ予断を許さないものの、ひとまず株価急落は一段落したような形です。筆者は、個人投資家の皆様が無事にこの急落を乗り切ったかどうかとても心配です。前回前々回のコラムでは伝えきれなかったことがまだまだあります。どれも筆者がとても重要だと思っていることです。

怒涛の売り越しを見せた外国人投資家・対する個人投資家はやっぱり・・・

今回の株価急落局面において、外国人投資家がどのような投資行動を取っていたか、その内容が明らかになりました。

株価が急落を始めた8月第3週から9月第1週までの投資主体別売買動向をみると、以下のようになっています(+は買い越し、△は売り越し)。

  8月第3週 8月第4週 9月第1週
外国人投資家 △4,004億円 △7,070億円 △4,817億円
信託銀行 △89億円 +2,631億円 +2,553億円
個人投資家 +3,270億円 +4,277億円 +3,378億円

「外国人売り」・「信託銀行・個人投資家買い」という、まさにいつもと同じ光景が繰り広げられていました。外国人はこの間、先物取引でも大量の売り越しとなっていて、今回の株価急落ではリスクオフの姿勢を明確にしていたことが分かります。

一方の個人投資家は、毎度といいますか、やはりといいますか、大量の買い越しとなっています。個人投資家は株価が大きく下落したところで買うという、「逆張り」の姿勢が今回も如実に現れています。

果たして、今回の「逆張り」は成功するのか?その鍵を握るのは・・・

しかし、今回の個人投資家の大量買い越しが成功するかどうかは、ここから株価が再度上昇基調に転じるかにかかっているのも事実です。言い換えれば、大量売り越しをした外国人投資家が再度大量の買いを入れてくるのか、ということです。

ご承知の通り、個人投資家は全体で見れば「逆張り」の傾向です。一方、外国人投資家は「順張り」の傾向にあります。つまり、個人投資家は高値を買いあがるような買い方はしないのです。外国人投資家が、再び大量の資金を株式市場に投入し続けるという流れにならなければ、株価が上がることはなかなか考えにくいというのが実態です。

もし、今後外国人投資家が上値を買いあがるような買いを見せず、逆に保有株の売却を進めたとしたら、株価は値下がりを続け、個人投資家が逆張りで買った株がどんどん塩漬け状態になっていくでしょう。「うまく安いところで買えた」と思っても、もしここから中長期的な株価下落が続き、日経平均株価が10,000円割れなどということになれば、今回の個人投資家の買いは大失敗に終わってしまいます。

さすがに筆者もそのようなことはないとは思いますが、やはり何が起きてもおかしくないのが株式投資です。想定外の事態にも適切に対応できるようにしておくことが重要なのです。そのためには、株価が下がっている途中での逆張りの買いは慎むべきだというのが筆者の一貫した主張です。

個人投資家の逆張りは果たして本当に「花の山」なのか?

有名な相場格言の1つに「人の行く裏に道あり花の山」というものがあります。これは、株式投資では皆と同じような行動を取っていては儲からない、そこであえて逆の行動を取ることで大きな成功を収めることができるというものです。

今回の株価急落で、急落の安値を逆張りで買い進めた個人投資家は、おそらく自分はまさに「花の山」に向かって進んでいると思っていたことでしょう。ところが、上の投資主体別売買動向をみれば、実は株価急落を逆張りで買い向かうという行動は、個人投資家の中では多数派であったことが明らかとなりました。もちろん、実態としては売り買いをせず「何も行動できなかった」個人投資家が最も多いのでしょうが、それでも個人投資家は3週間で1兆円も株を買い越しているのは事実です。

残念なことに、過去の経験上、個人投資家の投資行動は結果として正しくなかったケースが多いのが実態です。個人投資家の9割は満足のいく投資成果を得られていないといわれていることからも明らかです。

そんな中、今回の株価急落局面において、個人投資家トータルでみれば1兆円以上も買い越していることを勘案すると、仮に今回は成功を収めたとしても、同じことを繰り返していれば最終的には株価急落局面での逆張り買いは、大きな失敗に結びついてしまう可能性が高いのではないかと筆者は心配してしまいます。

今回の急落時に本当にふさわしい相場格言とは

別の相場格言として、「名人天井売らず底買わず」とか、「落ちてくるナイフをつかむな」というものがあります。前者は、株式投資が上手な人は天井を狙って売ろうとか、底値を狙って買おうとはせずに、天井を確認できてから売り、底打ちを確認できてから買う、という意味です。後者は、株価が下がっている途中に逆張りの買いを入れるのは非常に危険だから、株価が底を打ったことが確認できてからゆっくりと買いを入れるべきであるという意味です。

筆者は、今回の株価急落局面での相場格言としてふさわしいのはこの2つだと思います。

実は、個人投資家の中での少数派に入るための正解は、逆張りの買いではなく、保有株の売却を進めることでした。奇しくもそれは、勝ち組である外国人投資家と行動を共にすることでもありました。個人投資家にとっての「花の山」とは、実は着々と保有株を売却し、キャッシュ比率を高めて嵐を小さな傷で乗り切ることだったのです。その上で、底打ちを確認した後で買いを入れていくのが王道です。

株価の乱高下に振り回されないようにするためには?

9月9日、日経平均株価はなんと1日で1,343円43銭も上昇し、史上6番目の上昇率となりました。そこまでの株価下落がうそのような急上昇でした。ところが、翌9月10日には470円89銭の急落となり、相変わらず株価の乱高下が続いています。

このとき、例えば9日の上昇をみて慌てて買ったものの、翌10日の急落をみてすぐに投げ売ってしまうようなら、完全に相場の動きに翻弄されてしまっています。これではいつまでも「勝ち組」にはなれません。

そして、9日に慌てて買った後の急落で投げ売らずに含み損を我慢するのもよくありません。ここからさらに株価が下落すれば、塩漬け株になって身動きが取れなくなってしまうからです。

また、急上昇した9日の前日である8日に空売りをし、9日の急上昇で慌てて買い戻すのもうまくありません。8日の空売りは、売りタイミングとして遅すぎます。空売りをするなら、下降トレンドに転じて間もない時期に行わなければリスクが高まります。

筆者の9日の投資行動といえば、ほとんど売買はしませんでした。日経平均株価の派手な上昇にかかわらず、個別銘柄のほとんどは上昇トレンドに転じず下降トレンドのままでしたので、新規買いやヘッジ空売りの買戻しをすることもなかったからです。

株価トレンド分析を実行すれば、9日の急上昇や10日の急落も、慌てず冷静な目で見ていることが可能です。実際、筆者は9日の時点で実質的な買い持ちはほとんどありませんでしたが、「買い遅れる」といったような心配や焦りは一切持ちませんでした。

変に安く買おうと思わずに、「上昇トレンドに転換してからできるだけ安く買う」ことを心掛けるようにすれば、株価の乱高下に翻弄されることもなくなるはずです。

そろそろ専門家の「下値予測」にすがるのはやめよう

株価がここまで本格的に調整してくると、多くの個人投資家は、「専門家」が発信する下値予測にすがるようになります。しかし、株式投資で本当に勝ち組になりたいのであれば、そこから卒業しなければなりません。

はっきり言って専門家の「下値予測」は当たりません。実際、今回の株価急落を急落前の時点で言い当てることができた専門家は一体どれだけいたでしょうか。

今回の株価急落では、株価がかなり下がった後で、「ここからの下値は知れている」というコメントを多くの専門家が出していました。でもはっきり言って、株価が下がってから専門家のコメントを聞いたところで、筆者にとっては大した価値はありません。なぜなら、保有株の大部分は、下降トレンドに転じた時点ですでに売却し終わっているからです。

株価が大きく下がった状態で、そこからの株価の下値予測が気になる個人投資家というのは、損切りができずに保有株の大半を持ち続けている人たちなのです。

「持ち株の株価が下がって含み損が拡大してしまった。この株価下落にいつまで耐えていればよいのか?」と不安で夜も眠れない個人投資家が、「もうこれ以上は下がりませんよ」という専門家のコメントにわらをもすがる思いを寄せているのです。

もちろん、損切りをせず、株価下落を耐え抜いた結果、株価が再度上昇して事なきを得る可能性も高いと筆者も思います。でも、相場に「100%」はありません。99%大丈夫でも、残り1%で簡単に財産が吹き飛ぶのが株式投資なのです。

保有株を十分に減らした状態でいれば、落ち着いた精神状態を保ちつつ、株価急落を本当に気楽に眺めていることができます。今回の株価下落を損切りせずに我慢して耐え抜いた方も、次回からは下降トレンド入りした個別銘柄を一旦売却してみてください。我慢しないことが精神衛生上こんなにも楽なものなのか、身を持って経験できると思います。