本レポートに掲載した銘柄

デンソー(6902)、アイシン精機(7259)、ルネサス エレクトロニクス(6723)、クラリオン(6796)、SCSK(9719)、富士ソフト(9749)、小野薬品工業(4528)、村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770)、ソニー(6758)

特集:自動運転

1.ほとんど全てが繋がる未来と自動運転

今回の特集は、「自動運転」です。

まず始めに、図1は我々の未来図です。ほとんど全てのモノとヒトが繋がる未来です。その中に自動車が含まれます。自動車は、自動車同士、自動車と道路、各種インフラなどの間で繋がります(通信する)。人とも繋がります。これらの通信は各当事者に選択権がある場合も有りますが、繋がりたいか繋がりたくないかとは関係なく繋がっていく場合も多くなると思われます。便利な社会になるとは思われますが、リスクも大きい世界になるでしょう。

この図1は実はIoTの世界です。IoT(Internet of Things)はあらゆるモノが通信ネットワークで繋がる世界です。広い意味のIoTには自動車も含まれます。というより、自動車はIoTの重要分野と言えます。そして、この自動車の技術は、2つの大きな技術革新を経て完全自動化(完全電子化)へと向かっています。

一つは、駆動系です。HV(ハイブリッドカー)→PHV(プラグインハイブリッド)→EV(電気自動車)→(燃料電池車?)への進む過程で、車全体をファインチューニングして燃費を向上させ、かつ運動性能を改善するために、車全体を電子化、自動化します。例えば、プリウスの運転は云わばロボットの操縦になっています。

もう一つの技術革新は、制御系です。これが今回のテーマの自動運転ですが、手動運転でも、ハンドルの動きと車周囲の状況をセンサーで感知して、最適な曲がり確度を設定する制御系の自動化も既に行われています。

要するに、環境性能の向上(燃費の改善)と、自動運転は結びついて、自動車の完全電子化、完全自動化へと向かっているというのが今の自動車の流れです。

自動車のビジネスは、グローバルで、大きなお金が動くビジネスです。2015年暦年で8,968万台の新車が販売されています(国際自動車工業会による。乗用車、商用車合計)。このうち1,000万台に1台当たり10~20万円の自動運転関連機器を装着すると、年商1~2兆円のビジネスになります(後述の日産自動車のセレナの自動運転バージョンとそうでないものの価格差は14.6~17.6万円です)。世界第2位の自動車部品メーカーであるデンソーの今期予想売上高が4.4兆円ですので、自動運転関連ビジネスはデンソークラスの巨大企業を変貌させる可能性があるのです。

図1 ほとんど全てが繋がる未来

出所:楽天証券作成

2.自動運転とはどんなものか

自動運転を定義すると、次のようになります。

  • レベル1:加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行う状態。緊急自動ブレーキ、クルーズコントロール、車線維持支援などを含む先進運転支援システム(ADAS)がレベル1に相当する。
  • レベル2:加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う状態。ドライバーが常時運転状況を監視、操作する。
  • レベル3:加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが求めたときにドライバーが対応する。
  • レベル4:完全自動運転。加速・操舵・制動を全てシステムが行い、ドライバーは全く関与しない。

今回の自動運転ブームの火付け役はグーグルです。グーグルは2009年から自動運転の実車走行試験を繰り返しており、完全自動運転の技術では世界のトップレベルにあると思われます。

ただし、レベル1~3の技術はグーグルよりも、欧州系自動車メーカーのダイムラー(傘下のメルセデス・ベンツ)、フォルクスワーゲンなど、欧州系自動車部品メーカーのコンチネンタル、ボッシュなどの技術開発が先行している模様です。また、イスラエルのモービルアイは自動運転用画像センサーで世界トップです。

アメリカでは、電気自動車のテスラモーターズがレベル2の「AutoPilot」を「モデルS」に装着して人気となりましたが、今年5月に死亡事故を起こしました。

日本では、富士重工業の「アイサイト」がADASの先鞭をつけましたが、レベル2は現時点で日産のセレナ以外には日系メーカーの車には搭載されていません。レベル2と言っても、日産のレベル2は単一車線での自動運転ですが、メルセデスベンツEクラスとテスラのAutoPilotは高速道路での車線変更が可能なレベル2です。日産では、2018年には高速道路での車線変更を自動化する方針です。

ただし、日本では昨年まで自動運転に積極的でなかったトヨタ自動車が、今年に入って2020年までに完全自動運転車を日本で走らせると宣言するようになりました。シリコンバレーに人工知能の研究所を建てるなど、動きが活発になっています。これが、他の完成車メーカーや自動車部品メーカーを刺激しています。自動運転では日系自動車メーカー、部品メーカーともに少し出遅れたことは否めませんが、今後急速にキャッチアップすると思われます。

ドライバーを支援する先進運転支援システム(ADAS)と自動ブレーキは2010年代前半に急速に進歩し、今では多くの新車に装着されています。半自動運転とも言うべき「レベル2」は2016年から本格的に実車装着され始めており、2018年頃には「レベル3」装着車の販売が始まると思われます。そして、2020年頃には日米欧の各国の公道を完全自動運転車が走る光景を見ることが出来るようになると思われます。

このように2020年にかけて自動運転が現実のものとなっていく道筋が見えてきました。

表1 自動運転搭載車の市場予測

グラフ1 自動運転関連製品・部品(車載用情報安全市場)の市場規模

(単位:兆円、出所:各種資料より楽天証券予測)

3.自動運転は新車販売に寄与するだろう

自動車メーカーが自動運転に注力する理由は簡単で、自動運転になれば便利になって事故も減って車が売れるだろうという期待があるからです。この見方については、自動運転ブームを起こしたグーグルと自動車メーカーとの見方は異なるようです。グーグルは車が売れるかどうかは関係ない企業ですが、自動車メーカー、自動車部品メーカーは車が売れなくては困ります。

販売の現場に即してみると、レベル1、レベル2までの自動運転は販売増加に寄与しています。自動運転は車をより多く売るツールであるということです。レベル3も、自分で運転するか自動運転に任せるかは個人の選択肢になりますので、よく話題になる自動運転では運転する楽しさがなくなるため、車を買う人は減るだろうという観測は当てはまらないと思われます。また、自動運転が普及すると交通事故が減少すると思われるため、これも車の需要を増やす要因になると思われます。

一方、レベル4の完全自動運転では、ドライバーは必要なくなります。車を所有する必要がないと考える人が増える可能性もあります。この問題は、実際に完全自動運転車が発売されなければ明確にならないと思われます。

また、自動駐車システム(低速自動運転)は便利なので、販売への寄与は大きいと思われます。自動駐車システムには、2016年から実車装着され始めたパーキングアシストシステム(運転手がアクセルを操作するがハンドル操作は自動で駐車する)、2018年頃に始まるオートパーキング(運転席にドライバーが座るが、あとは自動で駐車する)、2020年頃と言われるバレーパーキング(車の外からコントローラで車に指示を出して自動駐車)の各段階がありますが、駐車はドライバーの多くが悩むことなので(特に都市部のドライバー)、自動車ユーザーから歓迎されると思われます。