本レポートに掲載した銘柄

デンソー(6902)、アイシン精機(7259)、ルネサス エレクトロニクス(6723)、クラリオン(6796)、SCSK(9719)、富士ソフト(9749)、小野薬品工業(4528)、村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770)、ソニー(6758)

特集:自動運転

1.ほとんど全てが繋がる未来と自動運転

今回の特集は、「自動運転」です。

まず始めに、図1は我々の未来図です。ほとんど全てのモノとヒトが繋がる未来です。その中に自動車が含まれます。自動車は、自動車同士、自動車と道路、各種インフラなどの間で繋がります(通信する)。人とも繋がります。これらの通信は各当事者に選択権がある場合も有りますが、繋がりたいか繋がりたくないかとは関係なく繋がっていく場合も多くなると思われます。便利な社会になるとは思われますが、リスクも大きい世界になるでしょう。

この図1は実はIoTの世界です。IoT(Internet of Things)はあらゆるモノが通信ネットワークで繋がる世界です。広い意味のIoTには自動車も含まれます。というより、自動車はIoTの重要分野と言えます。そして、この自動車の技術は、2つの大きな技術革新を経て完全自動化(完全電子化)へと向かっています。

一つは、駆動系です。HV(ハイブリッドカー)→PHV(プラグインハイブリッド)→EV(電気自動車)→(燃料電池車?)への進む過程で、車全体をファインチューニングして燃費を向上させ、かつ運動性能を改善するために、車全体を電子化、自動化します。例えば、プリウスの運転は云わばロボットの操縦になっています。

もう一つの技術革新は、制御系です。これが今回のテーマの自動運転ですが、手動運転でも、ハンドルの動きと車周囲の状況をセンサーで感知して、最適な曲がり確度を設定する制御系の自動化も既に行われています。

要するに、環境性能の向上(燃費の改善)と、自動運転は結びついて、自動車の完全電子化、完全自動化へと向かっているというのが今の自動車の流れです。

自動車のビジネスは、グローバルで、大きなお金が動くビジネスです。2015年暦年で8,968万台の新車が販売されています(国際自動車工業会による。乗用車、商用車合計)。このうち1,000万台に1台当たり10~20万円の自動運転関連機器を装着すると、年商1~2兆円のビジネスになります(後述の日産自動車のセレナの自動運転バージョンとそうでないものの価格差は14.6~17.6万円です)。世界第2位の自動車部品メーカーであるデンソーの今期予想売上高が4.4兆円ですので、自動運転関連ビジネスはデンソークラスの巨大企業を変貌させる可能性があるのです。

図1 ほとんど全てが繋がる未来

出所:楽天証券作成

2.自動運転とはどんなものか

自動運転を定義すると、次のようになります。

  • レベル1:加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行う状態。緊急自動ブレーキ、クルーズコントロール、車線維持支援などを含む先進運転支援システム(ADAS)がレベル1に相当する。
  • レベル2:加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う状態。ドライバーが常時運転状況を監視、操作する。
  • レベル3:加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが求めたときにドライバーが対応する。
  • レベル4:完全自動運転。加速・操舵・制動を全てシステムが行い、ドライバーは全く関与しない。

今回の自動運転ブームの火付け役はグーグルです。グーグルは2009年から自動運転の実車走行試験を繰り返しており、完全自動運転の技術では世界のトップレベルにあると思われます。

ただし、レベル1~3の技術はグーグルよりも、欧州系自動車メーカーのダイムラー(傘下のメルセデス・ベンツ)、フォルクスワーゲンなど、欧州系自動車部品メーカーのコンチネンタル、ボッシュなどの技術開発が先行している模様です。また、イスラエルのモービルアイは自動運転用画像センサーで世界トップです。

アメリカでは、電気自動車のテスラモーターズがレベル2の「AutoPilot」を「モデルS」に装着して人気となりましたが、今年5月に死亡事故を起こしました。

日本では、富士重工業の「アイサイト」がADASの先鞭をつけましたが、レベル2は現時点で日産のセレナ以外には日系メーカーの車には搭載されていません。レベル2と言っても、日産のレベル2は単一車線での自動運転ですが、メルセデスベンツEクラスとテスラのAutoPilotは高速道路での車線変更が可能なレベル2です。日産では、2018年には高速道路での車線変更を自動化する方針です。

ただし、日本では昨年まで自動運転に積極的でなかったトヨタ自動車が、今年に入って2020年までに完全自動運転車を日本で走らせると宣言するようになりました。シリコンバレーに人工知能の研究所を建てるなど、動きが活発になっています。これが、他の完成車メーカーや自動車部品メーカーを刺激しています。自動運転では日系自動車メーカー、部品メーカーともに少し出遅れたことは否めませんが、今後急速にキャッチアップすると思われます。

ドライバーを支援する先進運転支援システム(ADAS)と自動ブレーキは2010年代前半に急速に進歩し、今では多くの新車に装着されています。半自動運転とも言うべき「レベル2」は2016年から本格的に実車装着され始めており、2018年頃には「レベル3」装着車の販売が始まると思われます。そして、2020年頃には日米欧の各国の公道を完全自動運転車が走る光景を見ることが出来るようになると思われます。

このように2020年にかけて自動運転が現実のものとなっていく道筋が見えてきました。

表1 自動運転搭載車の市場予測

グラフ1 自動運転関連製品・部品(車載用情報安全市場)の市場規模

(単位:兆円、出所:各種資料より楽天証券予測)

3.自動運転は新車販売に寄与するだろう

自動車メーカーが自動運転に注力する理由は簡単で、自動運転になれば便利になって事故も減って車が売れるだろうという期待があるからです。この見方については、自動運転ブームを起こしたグーグルと自動車メーカーとの見方は異なるようです。グーグルは車が売れるかどうかは関係ない企業ですが、自動車メーカー、自動車部品メーカーは車が売れなくては困ります。

販売の現場に即してみると、レベル1、レベル2までの自動運転は販売増加に寄与しています。自動運転は車をより多く売るツールであるということです。レベル3も、自分で運転するか自動運転に任せるかは個人の選択肢になりますので、よく話題になる自動運転では運転する楽しさがなくなるため、車を買う人は減るだろうという観測は当てはまらないと思われます。また、自動運転が普及すると交通事故が減少すると思われるため、これも車の需要を増やす要因になると思われます。

一方、レベル4の完全自動運転では、ドライバーは必要なくなります。車を所有する必要がないと考える人が増える可能性もあります。この問題は、実際に完全自動運転車が発売されなければ明確にならないと思われます。

また、自動駐車システム(低速自動運転)は便利なので、販売への寄与は大きいと思われます。自動駐車システムには、2016年から実車装着され始めたパーキングアシストシステム(運転手がアクセルを操作するがハンドル操作は自動で駐車する)、2018年頃に始まるオートパーキング(運転席にドライバーが座るが、あとは自動で駐車する)、2020年頃と言われるバレーパーキング(車の外からコントローラで車に指示を出して自動駐車)の各段階がありますが、駐車はドライバーの多くが悩むことなので(特に都市部のドライバー)、自動車ユーザーから歓迎されると思われます。

4.自動運転の諸問題

自動運転技術はごく一握りの企業にしか出来ない高度技術というわけではありません。車は地図と交通ルールに従って道路を走るもので、未開地を自動運転で走るわけではないのです。簡単ではありませんが、多くの自動車メーカーや一定規模以上の自動車部品メーカー、半導体メーカー、電子部品メーカーにとっては、自動運転システムそのものや重要部品は十分開発可能でビジネスになりうるものです。

ただし、自動運転は、人の命を預る自動車に関わる分野だけに、様々な問題、課題を抱えています。

1)自動運転でも事故は起こる

自動運転では交通事故が今の数分の1以下に減ると思われます。ただし、交通事故自体がなくなるとは考えられません。以下のようなケースが問題になると思われます。

  • 悪意のドライバーが運転する高性能車が、性能が低い自動運転車に突っ込んできた時、回避不能。
  • 渋滞中の追突、玉突きも回避不能。
  • 完全自動運転車と半自動運転車(レベル2,3)、手動運転車(レベル1と完全手動運転)が混ざって道路を走っている場合に事故が起きやすい?
  • レベル2、3で運転手は緊急時に迅速に行動できるのか?

2)完全自動運転における「悪魔の選択」の問題。

完全自動運転では、回避できそうにない、死亡事故になるような状況での動作を、コンピュータや人工知能にどうプログラミングするのかという問題が発生すると言われています。例えば、走行中、子供が前に飛び出した。左の歩道は高齢者、対向車線と後続は大型トラックが迫っている、という状況です。これは倫理的な問題と事故が起きた後の法律の問題を引き起こすと思われます。

3)ハッキングのリスク

自動運転車は完全電子化されるためハッキングのリスクが大きくなります。そのため、二重三重の防護が必要になります。例えば、主要回路をセキュリティ用回路で多重化防護する必要がありますが、これには有形無形のコストがかかります。

4)交通事故の責任の所在は?

レベル1~3では運転手の関与が必要になるので、交通事故の責任主体はまず運転手になります。後は、交通法規や警察、裁判所が最終的に誰の責任(罪)と認めるかです。

一方で、完全自動運転車の責任主体が誰になるのは、あいまいです。ハンドルが付いていない完全自動運転車がシステム不良などによって事故を起こしたとき、自動車メーカー、車の所有者、自動運転システムの開発会社のいずれかが責任主体になると思われますが、法的な責任主体が決まるまで誰の責任になるのかは今の時点では不明です。ハンドルが付いて運転可能な完全自動運転車ではもっとややこしいことになるかもしれません。完全自動運転モードを選択した運転手や所有者の責任が問われる可能性がないわけではないからです。この問題の解決には、完全自動運転時代に合わせた新しい交通ルール、法律と、交通事故が起こった場合の判例の積み上げが必要でしょう。

完全自動運転車は2020年以降順次発売されると思われますが、それが社会の中で定着するにはある程度時間がかかる可能性があります。

5.自動運転関連銘柄

自動運転関連銘柄は、自動車メーカー、自動車部品メーカー、半導体メーカー、電子部品メーカー、カーナビメーカー、IT企業、地図会社など多種多様です。主な企業を挙げると下のようになります。

日本企業では、デンソー、アイシン精機、ルネサス エレクトロニクス、日立製作所、クラリオン、パイオニア、アルパイン、富士ソフト、SCSK、ゼンリン、アイサンテクノロジー、アーム(ソフトバンクグループ)、ZMP(未上場)、ディー・エヌ・エー、ソニーなどです。

世界市場では、コンチネンタル、ボッシュ、モービルアイ、エヌヴィディア(パソコン用画像処理半導体から自動運転用の画像処理半導体に進出)、NXPセミコンダクターズ(世界最大の車載用半導体会社)などの名前が挙がります。

ここでは、自動運転関連システムを既に特定の自動車メーカー、大手自動車部品メーカーに販売している会社に絞ってコメントします。自動運転に限らず自動車部品ビジネスは、よほど特別な技術力を持つ会社でない限り、かなり大きな資本力が必要になります。特に、特定の部品やソフトウェアではなく、セットを完成車メーカーに納入する場合は、技術だけでなく資本力の勝負になります。これは自動車部品の製品サイクルが約5年(新車サイクルが約5年)と長く、その間次の新車に向けての研究開発と設備投資が必要になるためです。また、完成車メーカーも部品メーカーも、タカタのエアバッグ問題のような人命に関わる重大事故が起こったときの補償を考えなければならないためです。自動運転の世界市場で、自動車部品世界ランキング1~3位のボッシュ、デンソー、コンチネンタルが目立つのは、このような理由もあると思われます。

デンソー

世界2位の自動車部品メーカーです。トヨタ自動車の系列ピラミッドの筆頭です。自動車用電装品の技術力には定評があります。売上高の44.9%(2017年3月期1Q)がトヨタグループですが、残りは日系から外資系まで幅広く自動車メーカーに販売しています。扱う製品も、エアコン、ラジエーター、エンジンコントロールユニット、HVシステムなど、電気・電子系製品中心に広い範囲にわたっています。

2017年3月期約1,000億円の自動運転関連事業(ミリ波レーダー、画像センサーなど)を、2021年3月期に1兆円(ADAS、自動運転システム、車間通信、路車間通信システムなど)にする計画です。自動運転関連は研究開発が先行しているため今は赤字ですが、2019年3月期の収支均衡を目指しています。日本における自動運転関連の中核銘柄といってよい銘柄です。

なお、トヨタ自動車とスズキとの提携交渉入りについては、提携が実現するとデンソー、アイシン精機の様なトヨタ系部品メーカーにとって大きなビジネスチャンスが生まれると思われます。例えば、スズキのインド子会社マルチ・スズキでは、インドの所得水準の向上に合わせて販売する車が1,000~1200ccクラスから1,400~1600ccクラスにサイズアップする傾向が見られます。その時に、デンソーやアイシン精機の技術が使えます。このことはスズキにとっても大きなメリットがあると思われます。スズキは軽自動車の技術では卓越した会社ですが、小型車(日本でいう登録車)ではそうではないからです。

表2 デンソー:事業別売上実績

ルネサス エレクトロニクス

世界第3位(インターシル買収後は2位?)の車載用半導体会社です。トヨタ自動車筆頭に日系自動車メーカーのほぼ全てと、デンソー、ボッシュ、コンチネンタルなどの大手自動車部品メーカーなど、優良顧客を多数持っています。

今期(2016年12月期、9カ月決算)は熊本地震と円高の影響で大幅減益となると思われます。2016年4-6月期は42.7%営業減益でした。ただし、自動車向け中心に受注は堅調です。自動運転関連は、レベル1、2を出荷中で、レベル3の受注が増加中です。来期は業績回復が期待できそうです。

表3 車載用半導体市場売上高ランキング

アイシン精機

トヨタ系です。自動車の機械系部品に強い会社で、オートマティックトランスミッションで世界トップです(前期の市場シェアは14.7%)。自動運転については、デンソーは公道を走る高速自動運転に注力していますが、アイシン精機は、自動ブレーキと自動駐車システムに注力しています。

クラリオン

日立製作所系のカーナビ会社です。日産自動車筆頭に、日米欧の自動車メーカー中心にカーナビを販売しています。

自動運転関連へ進出しており、パーキングアシストシステムを日系自動車メーカーに販売開始しました。2018年にはオートパーキングシステムを販売開始する予定です。また、2020年頃にバレーパーキングと自動運転システム(レベル2~3)の販売を計画しています。日立と密接に連携し、特に中国の完成車メーカーの開拓を目指しています。

SCSK、富士ソフト

車載用ソフトウェアの市場は今後拡大が予想されています。これは、自動車の電動化の進展、自動運転、セキュリティ対策など様々な需要増加要因が重なるためです。

ちなみに、金融、自動車などの有力企業で業務用システムの新設、増強が続いていること、通信、自動車、機械などでの制御系ソフト(半導体やメモリーに読み込んで、機械を制御するソフト)も自動化、ネットワーク化(あるいはIoT)の進展で需要が増えていることから、業務系、制御系を問わず、既にSE、プログラマーは不足しています。そのため、従来のように個別に車載用ソフトウェアを作りこむやり方では、SE、プログラマーの不足が一層深刻になることが予想されます。

そこで、パソコンやスマートフォンのように車載用ソフトウェアでもOSを開発し、その上にミドルウェア、アプリケーションソフトを重ねていくやり方が効率的です。

このような構想の中で最も有名なのが、欧州の自動車メーカー、自動車部品メーカーが中心となって結成された車載用ソフトウェアのコンソーシアムである「AUTOSAR(オートザー)」です。今では欧州、アメリカ、日本の完成車メーカー、自動車部品メーカー、半導体メーカー、システムインテグレーターなど、幅広い自動車関連企業が集まる団体になっています。このオートザーが車載用ソフトウェアの国際的な標準仕様を策定しています。

オートザ―には日本企業としては、コア・パートナーとしてトヨタ自動車、プレミアム・パートナーとしてデンソー、ルネサス エレクトロニクスなどが参画しています。SCSK、富士ソフトはオートザーのアソシエイト・パートナーです。

SCSK、富士ソフトの狙いは、オートザー準拠の車載用OSを日系自動車メーカーに広めて、その上に構築するミドルウェアとアプリケーションソフトウェアを受注しようというものです。日本の車載用ソフトウェアのトップであるルネサス エレクトロニクスも同様の狙いは持っていますが、より独自色の強いものになっています。SCSKは「QINeS(クインズ)」のブランドで、車載用BSW(ベーシックソフトウェア)、開発ツール、ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の開発サービスなどを提供しています。SCSKの自動車向け組み込み用ソフトの売上高は年間40~50億円と思われ、まだ小規模ですが、今後伸びると思われます。

富士ソフトの場合は、オートザーのアソシエイト・パートナーである車載用ソフト開発のベンチャー「APTJ」に出資して、自動車向け事業を拡大しようとしています。もともと富士ソフトは、独立系としては日本トップの制御系ソフトの会社です。2016年12月期の自動車関連(制御系)売上高は110~120億円、前年比20%以上の伸びが予想されます。

自動運転関連としてIT企業に注目する理由は車載用ソフトウェア以外にもあります。これまで見てきたように、自動運転の世界では、車同士、車と道路や各種インフラが通信ネットワークで繋がります。その場合、自動車メーカーがその繋がり具合を監視、管制、制御する必要が出てくると思われます。大量の自動運転車が公道を走るようになると、自動車メーカー自体が自動車のネットワーク管理のための大規模システムを持たなければならなくなるかもしれないのです。今期も自動車メーカーは販売、生産など各種社内システムの増強を続けている模様ですが、自動運転が本格化すると自動車関連のネットワークシステムの需要が発生する可能性があります。広い意味でのIoT関連になりますが、SCSK、富士ソフトのような大手システムインテグレーターに注目したいと思います。

表4 自動車部品メーカーの世界ランキング(2015年度)

銘柄コメント:小野薬品工業

1.ブリストル・マイヤーズ スクイブがCheckMate-026試験の結果を公表

10月9日、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)とメルクから、オプジーボとキイトルーダについて重要な発表がありました。

まずオプジーボについて、BMSは8月5日速報したCheckMate-026試験(非小細胞肺がんのステージⅣ患者に対するファーストラインの試験で、オプジーボ単剤と既存の化学療法剤との比較試験、PD-L1発現率5%以上の患者に対するもの)の詳細を公表しました。

それによると、026試験におけるPD-L1発現率5%以上の患者の無増悪生存期間(PFS、治療後、がんが進行せず安定した状態である期間のこと)の中央値はオプジーボ群で4.2カ月、プラチナ製剤を含む2剤併用化学療法群では5.9カ月でした。026試験の主要評価項目はPFSなので、これは悪い結果と言えます。

また、全生存期間はオプジーボ群14.4カ月に対して、化学療法群13.2カ月と、オプジーボ群のほうが長くなりましたが、大きな差ではありませんでした。

2.メルクもキイトルーダの臨床試験を中間報告

オプジーボの競合薬であるキイトルーダに関しても、メルクからリリースが発表されました。この中で、KEYNOTE-021試験(現在フェーズⅠ/Ⅱ)において、非小細胞肺がんの非扁平上皮がんで、キイトルーダ、カルボプラチン、ペメトレキセド(後の2つは化学療法剤)の併用剤の奏効率(治療患者総数に対する完全奏効(腫瘍が完全に消失した状態)と部分奏効(腫瘍が全体の30%以上消失した状態)の患者数の比率)が55%だったのに対して、化学療法剤単独では29%でした(いずれもPD-L1発現率の制約をつけない)。

3.非小細胞肺がんファーストラインの併用療法では結論は出ていない

これらの報告を受けて、10月10日のニューヨーク市場でメルク株が1.8%上昇し、BMS株は9.5%下落しました。11日の東京市場では小野薬品株も11.0%下落しました。CheckMate026試験の速報は既に公表されているため、私見ですが、メルクのKEYNOTE-021試験のインパクトが大きかったよう思われます。つまり、非小細胞肺がんファーストラインでは、単剤だけでなく、併用剤でもキイトルーダがオプジーボに対して優位に立ったという印象が出てきたと思われます。

ただし、必ずしもそうではないというのが私の見方です。まず、非小細胞肺がんファーストラインについて、オプジーボとキイトルーダを単剤での使用について比較すると、PD-L1発現率5%以上のオプジーボは結果が出ず、PD-L1発現率50%以上の制約があるキイトルーダは十分効くという臨床試験の結果が出ています。

一方で、併用剤については、BMS=小野薬品のCheckMate-227試験がフェーズⅢで進行中です(終了予定は2018年1月)。オプジーボ単剤、オプジーボ+ヤーボイ(いずれもPD-L1発現率1%以上)、オプジーボ+ヤーボイ、オプジーボ+化学療法剤(カルボプラチン、シスプラチン、ゲムシタビン、ペメトレキセド)(いずれもPD-L1発現率1%未満)を比較します。上述のメルクのKEYNOTE-021試験は2016年11月までフェーズⅠ/Ⅱで、その後フェーズⅢに移行すると思われます。フェーズⅢに2~3年かかることを考えると、もし、BMS=小野薬品のCheckMate-227試験が成功すれば、BMS=小野薬品が非小細胞肺がんファーストラインで広い範囲の患者に効くことが期待される併用剤治療で優位に立つことになります。

非小細胞肺がんファーストラインの単剤での治療はキイトルーダが優位にはなっていますが、PD-L1発現率50%以上の患者に投与するという制約があるため、切り捨てられる患者が多くなることに難点があります。併用剤治療についてはまだ臨床試験が行われているところですので、決着は付いていないと思われます。ただし、KEYNOTE-021試験のフェーズⅢでも結果が良い場合は、フェーズⅢが早期終了になる可能性もあります。その場合は、とりあえず非小細胞肺がんファーストラインでのキイトルーダの優位性が決まることになります。この問題はまだまだ予断を許しません。

4.小野薬品に対する投資判断は変えない

9月30日付け、10月7日付けの楽天証券投資WEEKLYでの小野薬品工業に対する投資判断、即ち3,500~4,000円までの戻りの相場が期待できるという投資判断は変えません。

非小細胞肺がんファーストラインの臨床試験の結果は、まずCheckMate-227試験の結果を待つ必要があります。227試験が失敗なら、小野薬品単独で、日韓台の3ヶ国で独自に臨床試験を行うことになると思われます。結論が出るには時間がかかります。

一方、非小細胞肺がんファーストライン以外のがんに対する臨床試験の結果、あるいは中間報告は今のところいずれも良好で、これは株価にとって好材料です。

ただし、これは薬品バイオ株全体に言えるリスクですが、臨床試験の失敗リスク、学会での発表による株価変動リスクは常に考慮する必要があると思われます。

セクターコメント:電子部品

1.サムスン電子が「ギャラクシーノート7」の生産、販売を中止した

サムスン電子は8月19日にスマートフォンの最上位機種「ギャラクシーノート7」を発売しました。ところが発売後直ぐに発火事故の報告が相次ぎました。当初は電池の問題と思われていましたが、時間が経つに連れて回路設計のミスではないかと言われるようになりました。サムスン電子は、9月2日にギャラクシーノート7を回収、交換すると発表し、10月1日にそれまで中止していた販売を再開しました。しかし、その後も交換後の端末からの発火がアメリカ、韓国、台湾で報告されました。そして10月11日、遂にギャラクシーノート7の生産販売の打ち切りが発表されました。

ギャラクシーノート7は価格が約10万円とiPhone7シリーズと競合する高級スマホです。表5のように、世界のスマートフォン市場ではサムスン電子が1位でアップルは2位です。サムスン電子がクリスマス商戦を前にして旗艦製品のギャラクシーノート7の生産販売を中止することになったことは、同じ高級スマホカテゴリーに属するiPhoneのシェア上昇に結び付く可能性があります。

表5 スマートフォンのメーカー別出荷台数と市場シェア

2.大手電子部品株に投資妙味

電子部品の観点から今回の動きを見ると、日本の大手電子部品メーカー、村田製作所、TDK、アルプス電気、ソニーの得るものは大きいと思われます。サムスン電子は、系列に大手電子部品メーカーであるセムコ(サムスン・エレクトロニック・メカニクス)や電池会社(サムスンSDI)を抱えており、アップルや中国スマホメーカーのように電子部品の全量を外部の電子部品メーカーに発注するわけではありません。今回の発火事故で最初に原因を疑われた電池には、サムスンSDIとTDKの電池が使われていた模様です。

したがって、サムスン電子のシェアが低下し、アップルと中国スマホメーカーのシェアが上昇することになれば、日本の電子部品メーカーには直接利益になると思われます。

また、12月には当初はiPhone独占という形で任天堂のスマホゲーム「スーパーマリオラン」が配信開始されます。アップルの立場から見ると、良好な販売環境でクリスマス商戦を迎えることになります。村田製作所、TDK、アルプス電気、ソニーに注目したいと思います。

各社の注目点は、村田製作所は、チップ積層セラミックコンデンサ(電圧制御を行う。電子機器に多用される)、SAWフィルタ(電波のノイズを取り除く。スマートフォンのグローバルモデルは10本以上の電波を拾うため、ノイズも多くなり、SAWフィルタの搭載個数も多くなる)など重要部品でトップシェアを持っていること、TDKはスマホ向け電池に強く、それ以外の重要部品のシェアも高いこと、アルプス電気は高級スマホ用アクチュエーターで世界トップであること(iPhone7シリーズは手振れ補正用アクチュエータが全面採用され、iPhone7Plusにはデュアルカメラが採用された)、ソニーはスマホ用高級イメージセンサーで世界トップであり、iPhone7シリーズではカメラの性能が大幅に向上していることです。

表6 主なスマートフォン用電子部品の概要

本レポートに掲載した銘柄

デンソー(6902)、アイシン精機(7259)、ルネサス エレクトロニクス(6723)、クラリオン(6796)、SCSK(9719)、富士ソフト(9749)、小野薬品工業(4528)、村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770)、ソニー(6758)