執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 先週は1月11日のトランプ記者会見をきっかけに円高が進み、日経平均が売られた。保護貿易主義の過激発言が復活し、対米で貿易黒字を稼ぐ中国・日本・メキシコが批判されたことがネガティブであった。
  • 今週の日経平均は上値が重くなると予想。1月20日に大統領に就任するトランプ氏から円安を批判する発言が出ないか、警戒を要する。日本株にとって、日本の景気・企業業績の回復色が強まることが強材料、トランプ氏の暴言復活が懸念材料になる。

(1) トランプ氏の大統領就任を1月20日に控え、円高リスクが再燃

今週の日経平均は、上値の重い展開と予想します。1月11日に開かれた大統領当選後初の記者会見でトランプ氏が、中国・日本・メキシコを悪者扱いする保護貿易の主張を展開したことから、先週は円高が進みました。円高→日本株安、円安→日本株高の相関は強く、円高を嫌気して、先週の日経平均は下落しました。

ドル円為替レートの動き:2016年10月1日―2017年1月13日

トランプ氏は、大統領当選前、選挙キャンペーンの中で、円安を批判してきました。日本が円安誘導策をとっていると主張してきました。当選後、大幅な円安が進んでいますが、今のところ、為替についてコメントしていません。

今回の記者会見でも、為替については、コメントしていません。ただ、貿易相手国としての日本を批判したことから、「いずれ円安も批判する」との連想が働き、円高が進みました。

今後、トランプ氏が直接円安を批判する発言を行う可能性もあり、注意が必要です。先週は、トランプ会見を受けて一時1ドル113円台まで円高が進みましたが、その後、115円前後に戻しました。

(2)購買力平価より20%以上の円安が進むと、米国が円安を問題視する

過去の経験則では、購買力平価(企業物価ベース)より20%以上、円安が進むと、米国が円安を問題視し、円高誘導の政治圧力をかけてきます。過去に2回、具体例があります。

1984年の円安と、1985年のプラザ合意

1984年、レーガン政権のもとで、ドル円は購買力平価対比で20%以上の円安にふれました。この時、米国は「強いドルは国益」として、ドル高を許容していました。ところが、その後、米国の双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)拡大が問題となり、日米貿易摩擦が起きると、米国は、一転して「円安の是正が必要」と主張を変えました。1985年12月のプラザ合意で、米国主導で「円安是正」の合意が行われると、国際的な協調介入によって、急激な円高が進みました。

2015年の円安と2016年の円高

2015年も、ドル円は購買力平価より、20%を超える円安が進みました。

購買力平価(企業物価ベース)とドル円為替レートの動き:2007年1月―2017年1月13日

(出所:購買力平価(企業物価)は公益財団法人 国際通貨研究所)

そこでトランプ次期大統領、ヒラリー・クリントン氏、ルー財務長官などが、一斉に日本を円安操作国として非難し始め、2016年に円高急伸を招きました。

トランプ氏の大統領当選後、再び、急激な円安が進んでいます。トランプ氏の経済政策への期待から、米国でインフレ期待が高まり、米金利が上昇し、ドル高(円安)を招いています。現在、購買力平価は1ドル96円ですので、1ドル115.20円が、購買力平価から20%の円安水準です。今、為替はまさに、その辺りにあります。過去の経験則では、米国が円安を問題視し始める「危険水域」に入っていると言えます。

トランプ氏が貿易相手国として日本の批判を再開したこともあり、当面、トランプ氏から円安批判発言が出ないか、警戒が必要と思います。

(3)景気・企業業績の回復期待と、トランプ・リスクの綱引きに

トランプ氏の大統領就任が近づくにつれ、再び、日経平均が乱高下する局面が生じる可能性があり、注意を要します。日本の景気・企業業績の回復色が強まることが強材料、トランプ氏の暴言復活への懸念が弱材料になると、考えます。

トランプ氏当選から、世界景気の回復色が強まり、世界株高が始まっています。今の株高は、トランプ氏に期待する「トランプ・ラリー」と呼ばれていますが、私は、そうではなく、「世界景気の回復を買うラリー」と考えています。トランプ氏の政策には、期待よりも不安が大きいと考えています。

世界景気の回復を買う流れは、簡単には終わらないと考えていますが、トランプ氏の現実の姿が見えてくることが、株式市場にとってリスクと考えます。特に、為替についてコメントする時が、要注意と考えます。