執筆:窪田真之

今日のポイント

  • JR九州は今期(2017年3月期)、創立来初めて、鉄道事業が黒字化する見込み。前期に行った鉄道固定資産の減損と、新幹線利用料の前払いによって、今期から鉄道事業の費用が約320億円減少することが、黒字化の主な要因。
  • JR九州の強みは、駅ビル不動産など多角化事業で安定的に高収益を上げていること、インバウンド需要の追い風で九州新幹線や豪華観光列車の業績が伸びていること。
  • JR九州は成長性では先に上場しているJR3社に見劣りするが、想定価格2,450円での年率配当利回りは約3%と、まずまずの水準となる見込み。

(1) 鉄道事業を黒字化させ、悲願の上場を実現

10月25日にJR九州が東京証券取引所に上場します。想定価格2,450円で計算される時価総額は3,920億円で、大型IPO(新規上場)となります。

JR九州は、分割民営化によって発足した1987年以降、鉄道事業が黒字になったことが一度もありませんが、今期初めて黒字になる見通しです。

 

JR九州の連結業績

(出所:JR九州の開示資料より、楽天証券経済研究所が作成)

前期は鉄道事業を含む運輸サービスが▲105億円の営業赤字でしたが、今期は230億円の営業黒字への転換を見込んでいます。鉄道事業の黒字化により、今期の連結営業利益は、会社予想によると前期比2.5倍の518億円となる見込みです。一見すると、とても美しい決算見通しですが、その裏には、前期(2016年3月期)に行った特殊な決算処理が絡んでいます。

(2)鉄道事業を黒字化させるのに貢献した2つの会計処理

過去29年赤字だった鉄道事業がいきなり黒転するのは、前期に行った2つの会計処理の結果です。鉄道事業の競争力が突然強くなったわけではありません。

  • 前期に、鉄道事業の固定資産で5,000億円を超える減損損失を認識しています。その効果で、今期から鉄道事業の減価償却費が約220億円減少します。
  • 前期に、九州新幹線の鉄道施設使用料2,205億円(約20年分)を全額一括前払いしています。その効果で、今期から新幹線貸付料が約100億円減少します。

①と②を合わせ、今期、鉄道事業の費用は約320億円減少します。今期、JR九州の運輸サービス事業の営業損益は335億円の改善(▲105億円の赤字から230億円の黒字へ)を見込んでいますが、ほとんど全てが、前期の2つの会計処理から生じていることがわかります。