前回は、相続が発生したときの相続人の「3つの選択肢」をご紹介しました。今回はそのうち、限定承認と相続放棄を選択する際の注意点をお話しします。「知らなかった」ではすまされないことばかりですので、ぜひ押さえておいてください。

限定承認では思わぬ「税金」に注意

限定承認(限定承認についての説明は以前のコラムをご参照ください)を選択した場合、他の選択肢である単純承認や相続放棄とは異なり、税務上注意すべき点があります。

亡くなった方(被相続人)が所有していた財産について、相続が発生した日(亡くなった日)に相続人に対して時価で譲渡したとみなされる規定があるのです。これを一般に「みなし譲渡所得課税」(所得税法59条)といいます。

これにより、例えば古くから所有して多額の含み益が生じている土地があるような場合、取得したときの価格と時価との差額に対して被相続人に対して所得税が課されることになります。

ですから、明らかにプラスの財産の方がマイナスの財産より多いような場合は、限定承認を選択すると余計な税金を払わなければいけなくなります。限定承認を選択するかどうか、慎重に検討する必要があります。

相続放棄をしたいなら相続財産に手を付けてはいけない

ご自身が相続放棄をする可能性があるのなら、被相続人が所有していた財産に手を付けてはなりません。

相続放棄とは、相続人をはじめから「相続人ではなかった」ことにする仕組みです。一方、そもそも相続財産に手を付けることができるのは相続人だけです。相続放棄をしたら相続人ではなくなるわけですから、当然、相続財産には手を付けられません。

そのため、もし相続財産に手を付けていたことが明らかになると、その人は「単純承認」を選択する意思表示があったものとされ、「相続放棄」をすることができなくなってしまう恐れがあるのです。

ですから、被相続人の預金を引き出して自分のために使ったり、被相続人が所有していた不動産を売却したりしないように十分に注意してください。車の名義を被相続人から自分に変える、といった行為も控えるようにしましょう。

自分が相続放棄しただけでは周りの親族に「借金の取り立て」が?

もう1つ、相続放棄をする場合の非常に重要な注意点があります。それは、「自分が相続放棄したら一件落着とはならない」ということです。

例えば、父・母・息子・娘という4人家族があり、父に多額の借金が残っていることが分かったとしましょう。父が亡くなり、母・息子・娘は相続放棄をしました。

その結果、母・息子・娘は借金の取り立てから逃れられることができ、めでたしめでたし・・・、とはいかないのです。

民法上、相続をする順位が第1順位、第2順位、第3順位と決まっています。上の例では母・息子・娘が第1順位の相続人です。この第1順位の相続人が全員相続放棄すると、次の第2順位の相続人が相続財産を引き継ぐことになります。

ですから、もし父の両親(祖父・祖母)がご健在であれば、何もしなければ祖父・祖母のところに借金の取り立てが来てしまうことになります。

そこで、祖父・祖母にも相続放棄の手続きをしてもらいます。これで、祖父・祖母のところにも借金の取り立ては来なくなり、ほっと一息・・・とはまだなりません。

相続放棄は第3順位の相続人まで行う必要がある

実は、第2順位の相続人が全員相続放棄をすると、次に第3順位の相続人が相続財産を引き継ぐことになるのです。第3順位になるのは、父の兄弟姉妹です。また、第2順位の相続人が既に死亡しているような場合、第1順位の相続人全員が相続放棄すると、第2順位を飛ばして第3順位の相続人に相続財産が引き継がれます。

ですから、父の兄弟姉妹(父より先になくなっている兄弟姉妹がいる場合はその子ども)にも、相続放棄の手続きをとってもらい、兄弟姉妹に借金の取り立てが来ないようにする必要があるのです。

このように、相続放棄は自分たち以外の親族にも多大な影響を与えかねない行為なのです。自分たちが相続放棄したことで、他の親族に多大な迷惑がかかってしまう恐れがあります。事前に親族間でよく話し合っておき、準備をしたうえで実行するようにしてください。

相続が起きたらまずは専門家に相談を!

多くのケースでは、相続放棄をするかどうかなど特に深く考えず遺産分割協議を行っていると思われます。それにより、結果的に単純承認になってしまっても問題とはならないことがほとんどです。

しかし、被相続人に多額の借入金があったり、多額の連帯保証をしているような場合は、よく考えて「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のどの承認方法を選択するかを決めなければいけません。

これは、相続人の方だけで考えるのには荷が重いといわざるを得ません。積極的に専門家の手を借りるべきです。相続はれっきとした「法律手続き」です。「私は知らなかった」といっても法律に規定されている事柄は、その通りに従わざるを得ません。くれぐれも、専門家への相談をしなかった結果、借金に追われて一生を棒に振るようなことがないようにしてください。

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