相続でもめると様々なデメリットが生じてしまうことは、前回のコラムでお話ししたとおりです。今回はそれを踏まえ、相続でもめないために事前にどのような準備をしておくべきか、そしてその際にどのような点に注意すべきかについて考えていきます。

とにもかくにもまずは現状把握

実際問題として、非常に多くの方が我が家の財産の実態を把握しないまま、様々な相続税対策を実行してしまっています。

でも、現状どのような財産があるのかをしっかりと把握しなければ、どんな対策が効果的なのか、そもそも相続税対策自体が必要なのかどうか、適切な判断を下すことができません。

それに加えて、将来相続人となる家族・親族の状況もよく確認しておきたいものです。家族・親族間の仲が良ければよいですが、仲が悪いならば事前に対策を打っておく必要があります。

また、子どもが遠方に住んでいるなど、子供同士が顔を合わせる機会が少ない場合、知らぬ間に価値観の違いが蓄積され、いざ相続が生じた時に主張のぶつかり合いになることは少なくありません。相続をきっかけとして、兄弟がいがみ合うケースは、親が想像するよりはるかに多いのです。

相続税対策を第一に考えない

「相続」と聞くと、すぐに「相続税を安くする」というほうに意識が向きがちですが、それは良くありません。

相続税対策の多くはいわば財産を渡す側が一方的に行う「テクニカルなもの」が多く、残される相続人の気持ちがあまり尊重されていません。

例えば養子縁組をすれば、相続財産の額や相続人の人数によっては、相続税をかなり軽減させることができます。でも、養子縁組を実行すれば、もともと相続人である人から見れば、自分の取り分が少なくなるため、良い気分にはどうしてもなれないわけです。

また、賃貸アパートやマンションを建設すれば、相続財産を圧縮することができますが、キャッシュを不動産に換えたことがかえって相続財産を分割しにくくし、結局は相続争いにつながりかねません。そこまでいかなくとも、将来どうなるか分からない賃貸アパートをもらうより、多少の相続税を払ってでもよいからキャッシュで受け取りたかった、と考える相続人は少なくないはずです。借金をしてアパートやマンションを建てた場合はなおさらです。

相続人の納税資金を確保できるようにしておく

相続人の間でもめているようなときは、遺産分割協議もなかなかまとまりません。でも、遺産分割協議がまとまらなければ、相続人が被相続人の銀行預金を使って納税することはできません。相続人自らが納税資金を工面しなければなりませんが、納税額が多額になると、それも非常に大変なことです。

したがって、財産を次世代に残す立場の人としては、相続人が相続税の納税で苦しむことのないよう、事前に納税資金を準備してあげることをお勧めします。

例えば、相続人それぞれが受取人となる生命保険に入っておけば、生命保険金は遺産分割の対象になりませんから、相続発生後速やかに相続人の口座に入金されます。これを相続税の納税資金として使ってもらえばよいのです。

財産が不動産に偏りすぎている場合は、生前から不動産を売却するなどしてキャッシュなど流動性の高い資産に換えておけば、とりあえずキャッシュだけ遺産分割して納税資金に充当することもできます。

どうしてももめそうなら「遺言書」を残しておく

「遺言書」は、自分自身が持つ財産の分け方を、自らが決めたうえで書面に記載したものです。

遺言書を書けばもめないかといえば、決してそんなことはありません。でも、遺言書がなければもっともめる可能性もあります。

遺言書により、財産の行き先を事前に決めてあげれば、たとえ残された家族・親族が不仲であっても、誰がどの財産を相続するかは確定させることができます。

もし、遺言書がなければ、もともと相続人が不仲なのに遺産分割がまとまるはずもなく、下手をすると何年も争い続けることになってしまいます。

「不仲だけど遺産分割は済んでいる」のと、「不仲でかつ遺産分割が全くできていない」のと、どちらが残された相続人にとって好ましいかは一目瞭然です。

なお、遺言書を残す場合はできるだけ「公正証書遺言」としてください。「自筆証書遺言」の場合、要件不備で無効となってしまったり、紛失してしまったり、相続人の誰かが無効を主張して訴えたり、遺言書を見つけて捨ててしまったりするリスクがあるからです。

また、遺留分の侵害があると、遺言書があっても結局はもめることになります。遺留分を侵害しない形での財産分与が望まれます。

渡す側の「思い」を伝える

遺言書には、誰にどの財産を渡すかを明確に記載しておく以外にも、「付言事項」といって、自らの「思い」を文章にて伝えることができます。

例えば、なぜ長男だけ相続させる財産を多くしたのか、なぜ自社株を後継者1人に集中して相続させたのかなど、相続人間で一見不平等に見える方法をなぜ選んだのか、その思いを付言事項として残しておくのです。

長男だけ相続させる財産を多くしたのは、次男には生前に多額の教育資金を費やしたものの長男にはそれをしてやれなかったからだ、とか、自社株を後継者1人に集中して持たせたのは、各相続人が自社株を分散して保有すると、相続人間が将来不仲になった場合に企業経営に支障をきたしかねないリスクがあるからだ、といったようにです。

他に比べて一見不利な相続人に対して「思い」を伝えてあげれば、不満を解消してあげることができるかもしれません。そうした意味で、付言事項は非常に有用であると思います。

もめない相続のためには「家族会議」が有効

年末年始はご実家に帰られたり、ご家族・ご親族が集まって過ごした、という方も多くいらっしゃったのではないでしょうか。

実は、お正月やお盆の時期は、「我が家の相続」について話し合う良い機会なのです。最初は一つ屋根の下で暮らしていた家族も、子供が成長するに伴い実家を離れ、親も兄弟もバラバラに住んでいる、というのが当たり前の世の中です。そんな中、普段離れて生活している家族が一堂に会する機会が、このお正月とお盆なのです。

そもそも相続の際に家族がもめる原因というのは、意思疎通の欠如や情報の隔たりによるものが大きいのです。そこで、家族会議を開き、財産を渡す者の思いや、なぜそのように渡したいのかをしっかりと伝るようにすることをお勧めします。

また、養子縁組や賃貸アパート建築などの相続税対策を行う前には、事前に家族に説明し、合意形成をしたうえで実行するようにしてください。

遺言書をつくるときも、その内容を家族会議で公開し、皆が納得する形で作成すれば、もめない相続が実現するはずです。

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