円高を止めた異次元緩和

この考え方に準じると、円高を止めるためには実質金利を下げればよいという考え方になります。実質金利を下げるためには、名目金利を下げるか、物価を上昇させればよいということになります。当時、日本はゼロ金利政策を取っていったため、それ以上金利を下げることが出来ません。従って、円高を止めるためには物価を上昇させる手段しかありませんでした。2013年4月、日銀の黒田総裁が行った異次元金融緩和は、資金の大量供給によって物価を2%に持っていくという政策でした。この政策によって株価も上昇し、株価上昇による資産効果と資金の大量供給による景気回復期待から物価は上昇しました。この結果、ドル円は90円台から100円台に上昇しました。更に、2014年10月には第2弾を決定し量的緩和を拡大しました。この結果、ドル円は110円から120円台に上昇しました。しかし、上昇してきた物価もここへきて、再び下落傾向が見られ、今やゼロ近辺となっています。日銀の見方は、原油下落が影響しており、物価トレンドは上昇基調であると強気の姿勢を崩していませんが、再び物価は下落することはないのでしょうか。もし、物価下落傾向となれば、日銀が第3弾を実行しない限り、再び円高傾向になる可能性があります。ただし、2年前と違って欧米も物価が下落傾向にあるため、2年前ほどの円高圧力はないかもしれません。

日米実質金利の比較

下表は日米欧の中央銀行政策金利とCPI(2014年消費者物価指数〈日本は2014年度)、前年比)を使って実質金利を算出した表です。日米の実質金利の比較を何の金利で見るか、いろいろな考え方がありますが、ここでは中央銀行の政策金利で比較してみます。日米の実質金利は両国ともマイナスですが、米国の方がマイナス幅は小さいことから、実質金利は米国の方が高いことになります、従って、ドル高・円安方向に働きやすくなる可能性があります。その下の表は、直近の2015年7月の月間CPIで算出した実質金利です。これを見ると、直近では日本の方が実質金利が高くなっています。現在の円安に行かない背景、もしくは円高への傾向は、世界的な株の下落によるリスク回避からの円高だけではない、もう一つの背景かもしれません。

このように為替の予測をする時に、物価動向を加味した実質金利も参考にすると大きな流れを捉えるのに役に立ちます。

  中央銀行政策金利
(名目金利)
CPI(前年比)
2014年
実質金利
(名目金利-CPI)
日本 0% 2.8% -2.8%
米国 0% 1.6% -1.6%
  中央銀行政策金利
(名目金利)
CPI(前年比)
2015年7月
実質金利
(名目金利-CPI)
日本 0% 0.0% 0.0%
米国 0% 0.2% -0.2%