実質金利

名目と実質は金利の世界にもあります。名目金利とは、定期預金3%などと表示されている見かけの金利です。対して実質金利は、この見かけの金利から物価上昇率を差し引いた金利のことです。物価上昇率が2%だと、名目金利3%-物価上昇率2%=実質金利1%となります。この実質金利の考え方は、投資の世界では極めて重要な考え方であり、投資マネーなどは相対的に実質金利の高い国へお金が流れていきます。

なぜ、実質金利を重視するのでしょうか。例えば、100万円の定期預金の名目金利が年3%で、物価上昇率(インフレ率)が2%の場合を考えます。100万円の定期預金は1年後には利息が3万円付いて103万円になっています。一方、これまで100万円で購入できた商品が物価上昇によって2万円値上がりし、102万円になっていたとすると、1年後に103万円受け取っても、1年前と比べると同じ商品を購入するためには102万円支払わなければならないことになります。そのため、実質的には利息3万円-値上がり2万円=1万円の利息しか付いていないということになります。これを実質金利は1%と呼びます。お金の価値がインフレによって下落したことを意味します。このように実質金利とは、実質的なお金の購買力を考える見方のことです。

物価が下落している場合はどうでしょうか。物価が下落している時は名目金利も下がっています。定期預金の名目金利が1%で物価下落率(デフレ率)が2%の場合を考えます。100万円の定期預金の1年後の利息は1万円となります。一方、これまで100万円で購入できた商品は物価の下落(デフレ)によって2万円値下がりし、98万円で購入できることになります。従って実質的には利息1万円-値下がり(-2万円)=3万円の利息が付いたことになり、実質金利は3%ということになります。お金の価値がデフレによって上昇したことを意味します。実質的なお金の購買力が上がったことになります。

実質金利 = 名目金利 - 物価上昇率

  名目金利 物価上昇率 実質金利
物価上昇
(インフレ)
3% 2% 1%[3-2=1]
物価下落
(デフレ)
1% -2% 3%[1-(-2)=3]

日本が2000年以降デフレの時代に入っていった時、欧米は景気刺激を優先し、低金利政策をとっていました。低金利政策はお金が投資や消費に回るため景気を刺激する効果はありますが、物価上昇など経済にとっては副作用が生じやすい経済環境となります。この結果、欧米の物価は日本と比べると高い水準にありました。一方、日本も低金利政策を取っていたのですが、デフレスパイラルの悪循環に陥っていたため、景気も良くならず、物価も下落傾向が長く続いていました。上記の表を日本と米国に当てはめると以下のようになります。

  名目金利 物価上昇率 実質金利
米国
(インフレ)
3% 2% 1%
日本
(デフレ)
1% -2% 3%

表のように、米国の実質金利は1%、日本の実質金利は3%となります。米国の名目金利の方が3%と高いのですが、実質金利で見ると日本よりも低くなります。米国に100万円の預金をして3万円の利息が付いたとしても、1年後に米国で100万円の資産を買おうとした場合、2万円値上がりしているため、103万円受け取って、102万円支払うことから、実質1万円の効果しかありません。一方、日本で100万円を預金すると、1万円の利息しか付きませんが、1年後に日本で100万の資産を買おうとする場合、値下がりによって98万円で購入することが出来ます。従って、101万円受け取って、98万円の支払いで済むことから、実質3万円の投資効果があることになります。

2000年代以降のドル円の円高の背景に、この実質金利の違いが大きく影響していたという見方があります。名目金利が低くても物価下落によって実質資産価値が日本の方が高いとみて、投資マネーは日本に流れ込んできたため円高になったという見方です。

円高を止めた異次元緩和

この考え方に準じると、円高を止めるためには実質金利を下げればよいという考え方になります。実質金利を下げるためには、名目金利を下げるか、物価を上昇させればよいということになります。当時、日本はゼロ金利政策を取っていったため、それ以上金利を下げることが出来ません。従って、円高を止めるためには物価を上昇させる手段しかありませんでした。2013年4月、日銀の黒田総裁が行った異次元金融緩和は、資金の大量供給によって物価を2%に持っていくという政策でした。この政策によって株価も上昇し、株価上昇による資産効果と資金の大量供給による景気回復期待から物価は上昇しました。この結果、ドル円は90円台から100円台に上昇しました。更に、2014年10月には第2弾を決定し量的緩和を拡大しました。この結果、ドル円は110円から120円台に上昇しました。しかし、上昇してきた物価もここへきて、再び下落傾向が見られ、今やゼロ近辺となっています。日銀の見方は、原油下落が影響しており、物価トレンドは上昇基調であると強気の姿勢を崩していませんが、再び物価は下落することはないのでしょうか。もし、物価下落傾向となれば、日銀が第3弾を実行しない限り、再び円高傾向になる可能性があります。ただし、2年前と違って欧米も物価が下落傾向にあるため、2年前ほどの円高圧力はないかもしれません。

日米実質金利の比較

下表は日米欧の中央銀行政策金利とCPI(2014年消費者物価指数〈日本は2014年度)、前年比)を使って実質金利を算出した表です。日米の実質金利の比較を何の金利で見るか、いろいろな考え方がありますが、ここでは中央銀行の政策金利で比較してみます。日米の実質金利は両国ともマイナスですが、米国の方がマイナス幅は小さいことから、実質金利は米国の方が高いことになります、従って、ドル高・円安方向に働きやすくなる可能性があります。その下の表は、直近の2015年7月の月間CPIで算出した実質金利です。これを見ると、直近では日本の方が実質金利が高くなっています。現在の円安に行かない背景、もしくは円高への傾向は、世界的な株の下落によるリスク回避からの円高だけではない、もう一つの背景かもしれません。

このように為替の予測をする時に、物価動向を加味した実質金利も参考にすると大きな流れを捉えるのに役に立ちます。

  中央銀行政策金利
(名目金利)
CPI(前年比)
2014年
実質金利
(名目金利-CPI)
日本 0% 2.8% -2.8%
米国 0% 1.6% -1.6%
  中央銀行政策金利
(名目金利)
CPI(前年比)
2015年7月
実質金利
(名目金利-CPI)
日本 0% 0.0% 0.0%
米国 0% 0.2% -0.2%