前回前々回にて生前贈与が相続税の節税対策に非常に効果的である理由や具体的な活用方法をお話してきました。

しかしその一方で、実行にあたり気を付けなければいけない点もいくつかあります。今回はそんな注意点のうち「特に気を付けたい」点をご説明したいと思います。

贈与した「つもり」が贈与と認められないケースが多発

贈与というのは民法に規定された行為で、これは贈与者(あげる側)の「あなたにあげます」という意思表示に対して受贈者(もらう側)が「もらいます」という意思表示をすることにより成立します。これを「諾成(だくせい)契約」といいます。

ですから、民法上はお互いが「あげます」「もらいます」の意思表示をすることで贈与契約は成立することとなり、書面での契約は必ずしも必要ありません。

しかし「そうは問屋が卸さない」のが税金の世界です。もし書面によらない贈与を無制限に認めてしまったら、相続税の課税逃れが横行してしまいます。そこで相続税・贈与税の課税上は、「本当に贈与したという実態があるかどうか」に重きが置かれます。

生前贈与のトラブルで最も多いのが、「本人は贈与したつもりだが税務署が贈与と認めない」ケースです。非常に頻繁に出てくるのが「名義預金」の問題です。

例えば、父親が子や孫の名義で預金口座を開設し、その口座に父親の口座から預金を振り込みます。しかし父親は子や孫にその事実を伝えず、子・孫名義の通帳や印鑑も父親がずっと管理していました。父親はこれで子や孫に対して贈与をしたと思っています。

しかしこれでは税務署が贈与と認めてくれません。実態は、単に子や孫の「名義」の通帳に父親自身のお金を移しただけであり、父親がこのお金を管理・所有している(子や孫が自分のものとして自由に使えない)ことが明らかだからです。

なお、「名義預金」と同様「名義株」も問題になります。子や孫の名義で株を保有しているが、その実態は父親自身が管理・所有しているようなケースです。

贈与が行われたことを示す客観的証拠を残しておくことが重要

上記でも申し上げましたが、実際に贈与が実行された「実態」がなければ税務上は贈与となりません。したがって、贈与が行われたという客観的証拠を残しておくことが必要です。

贈与を実行するごとに毎回契約書を作成しておく

税務署は書面による証拠を重視します。そのためには面倒がらずに贈与を実行するごとに贈与者・受贈者双方の署名・押印をした契約書を作成しておきましょう。贈与者・受贈者の双方の意思表示が確実になされていることを示す証拠になります。

必ずしも公証人の確定日付は必要ありませんが、あった方がより客観的証拠能力は増します。

また、実際に贈与があったかどうか後々相続人間で言い争いになることを防止するためにも契約書をしっかり作成しておくべきでしょう。

贈与税の申告・納税をする

「贈与税の申告・納税をすること=贈与が実際にあった証明」にはなりませんが、贈与が行われたかどうかの事実認定を税務署がする際有利に働きます。逆に言えば、贈与税の申告・納税をしていないと、「本当に贈与が行われていたのか」と疑いの目を強く持たれることになります。

また、基礎控除額(年間110万円)以下の贈与では贈与税がかかりませんから贈与税の申告は不要ですが、「証拠」という観点から、あえて申告をしておくのも有用です。贈与税額ゼロ円で申告書を提出しても怒られることはありません。

何より重要なのは、「本当に贈与が行われた」という実態が伴っていること

上記2つは、客観的な証拠を残すという意味で非常に重要ですが、もっと根本的なことを言えば、「本当に贈与が行われた」という実態が伴っているかどうかがより重要です。

通帳や印鑑は受贈者が管理する

契約書の作成や贈与税の申告はいわば形式要件であり、いくら形式が整っていても実態を伴っていなければ意味がありません。

贈与が成立しているのであれば、受贈者の側がそのお金を自由に使えるようになっているはずです。通帳や印鑑を贈与者が管理しているのでは、受贈者がお金を自由に使えない=贈与が成立していないと税務署に判断されてしまいます。

受贈者の生活用口座(普段お金が動いている口座)に振り込む

贈与専用の口座を作成し、そこにお金を振り込むケースがありますが、その口座のお金が動いていないと、実態は受贈者がお金を自由に使えない=贈与が成立していないと捉えられてしまう危険があります。贈与を受けたお金を自由に使うことができていることを客観的に示すため、受贈者が普段生活用に使用していてお金が頻繁に出入りしている生活用口座に贈与するようにしましょう。

親御様の立場から考えると、「相続税は減らしたい」「しかし子や孫にお金を贈与して無駄遣いをされるのも困る」という気持ちになるのも良く分かります。だからこそ、相続の現場では「名義預金」が常に問題になっているのです。

しかし贈与というのは財産を相手に渡すことであり、もらう側はそれを自分の意思で自由に使うことができるというのが大前提です。贈与の際によく話し合って、渡したお金を有意義に使うよう渡す側の意思をしっかり伝えることが大事だと思います。

「連年贈与」にはこう対応する

生前贈与の注意点として上記の名義預金とともに良く取り上げられるのが「連年贈与」の問題です。連年贈与とは、同じ金額の贈与を毎年続けて行うことをいいます。

例えば、国税庁のホームページに連年贈与についての記載があり、「毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合は、毎年の受贈額が110万円の基礎控除額以下なので贈与税がかからないということでよいか」という質問に対し、「10年間にわたって毎年100万円ずつ贈与を受けることが贈与者との間で約束されている場合は、1,000万円の贈与を受けたとして贈与税がかかる」と回答されています。

これに対し、「贈与の金額を毎年変える」とか「贈与する日を毎年ずらす」、「時々基礎控除より少し多い額の贈与をして贈与税の申告・納付をする」、「贈与しない年を作る」といった対策が必要といわれています。

しかし、実際に重要なのは、「10年間にわたり、毎年100万円ずつの贈与を受けること」が贈与者との間で約束されているかどうかです。ですから、これに該当しないという客観的な証拠を残しておけばよいのです。具体的には、毎年贈与を受けるごとに、その都度贈与契約書を作成し、贈与者・受贈者とも署名押印をしておくことです。

仮に、毎年100万円ずつの贈与が続いたとしても、それは「たまたまそうなっただけ」です。今年100万円の贈与をしたとしても、来年も同様に贈与をするかどうかは今年の時点ではまだ分からないからです。あくまでも、100万円の贈与をするという意思表示は契約書を作成することにより「毎年」行われていることが主張できます。

とはいえ、税務署があらぬ疑惑をかけてきて面倒に巻き込まれないとも限りません。念のため、毎年の贈与契約書作成に加えて上記のような対策をしておけばより安心です。

もちろん、名義預金の注意点のところでご説明したように、実際に贈与の事実があり、かつ贈与の事実が客観的に認められるような対策をしっかりとしておくことが大前提です。

生前贈与は非常に有効な対策であるもののその実行には細心の注意が必要となります。中途半端な知識で進めてしまうと、後々税務署からの厳しい洗礼を受けることになりかねません。「こんなはずではなかった」と後で後悔しないためにも、税理士など専門家のアドバイスを受けながら実行することを強くお勧めします。

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