世の中には相続税の節税対策があふれています。中には複雑な仕組みを用いたものも少なくありませんが、もっと簡単・単純な方法があります。それは生前に財産を贈与することです。今回は、生前贈与がどれだけ相続税の節税に効果があるかをお話しします。

最も簡単な相続税の節税対策は「生前贈与」

平成27年以降、基礎控除額の縮小などにより相続税が課税される方が急増しています。平成27年の実績はまだ国税庁から公表されていませんが、税理士の立場から見て、相続税の申告を手掛ける件数が明らかに増加していることを強く実感します。

空前の相続対策ブームこそ一段落した感がありますが、アパート建築、タワーマンション購入など、不動産を用いた対策を中心に、業者や金融機関、果ては税理士までもが様々な相続税節税対策を提案しています。

しかし、筆者からみれば、果たしてそうした相続税の節税対策は必要なのかと疑問に思うことが少なくありません。特に不動産を用いた対策は、良く注意して実行しないと後々遺産分割の際に苦労する可能性が高い、相続税納税資金の不足を招く恐れがあるなど、デメリットも少なくありません。

実は、わざわざ大掛かりな相続税対策などしなくても、あることさえすれば十分に相続税を節税できることをご存知でしょうか。それは生前に自身の財産を贈与してしまうことです。

生前贈与は「政府お墨付き」の相続対策

我が国には「贈与税」という税金があり、これは「相続税」を補完するものです。

もし贈与税がなければ、自分が生きている間に、生前に財産を子どもなどに渡してしまう人が続出するでしょう。しかしそれでは国は相続税を徴収することができません。

しかし、裏を返せば、贈与税という税金さえしっかり払えば、贈与をすること自体は自由に行ってよいともいえます。

実は、平成27年以降、20歳以上の直系卑属(自分の子どもや孫)に対して贈与を行う場合、贈与税が軽減されるようになりました。さらには、通常の贈与の他、おしどり贈与、相続税精算課税、教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与、住宅等取得資金贈与など、様々な特例が設けられており、これらは通常の贈与より有利な仕組みになっています。

これらのことから分かる通り、政府は国民に対して、積極的に贈与をしてもらいたいと考えているのです。贈与により財産が若い世代に移転すれば、それが消費に回って景気回復にもつながります。生前贈与は、いわば政府お墨付きの相続対策なのです。

「税金を払って節税する」という考え方

今は雑誌、新聞でも贈与についての特集が組まれることが多くなりました。そのため、意識の高い方は、税理士等に相談することなく自ら率先して贈与を実行されている場合も少なくありません。それは大変結構なことなのですが、そうした方の多くに共通する点があります。それは「年間110万円の非課税枠の範囲内で贈与を実行している」という点です。

その根底には、税金を払わずに贈与を行うことが最も有利であるというイメージが浸透しているのかもしれません。確かに雑誌等の特集では、「年間110万円までなら贈与税が非課税」という事実が強調されていることが多いです。

でも、実はあえて贈与税を払って、年間110万円を超える金額を贈与する方がはるかに効果的となるケースも少なくないのです。

なぜ生前贈与が相続税の節税に効果的なのか

なぜ生前に財産を贈与することが相続税の節税につながるのか、それは贈与税と相続税の税率構造の差や、課税方法の違いにあります。

相続税は相続財産の額により税率が異なり、相続財産が多くなるほど税率も高くなります。最高税率は55%です。一方の贈与税も贈与財産が増えるほど税率が高くなり、最高税率も同じ55%です。

しかし、相続税は被相続人が死亡したときに一度だけまとめて課税されるのに対し、贈与税は1年間に贈与を受けた金額につき、1年ごとに課税されます。

そこで、1年ごとに金額を小分けにして贈与することで、低い税率で財産を確実に次世代に移すことができます。

例えば、相続税が40%かかるような財産を保有している場合、20歳以上の子もしくは孫に対して生前に500万円を贈与すると、48.5万円(9.7%)の贈与税で済むことになります。相続税の節税額は500万円×(40%-9.7%)=151.5万円になります。これを10年間、3人の子どもに続ければ、151.5×3人×10年=4,545万円の相続税節税につながります。

(厳密には相続税の税率構造の影響等で上記とは多少異なります。具体的な計算例は少し複雑になるので次回にて詳しく説明します)

贈与税を払ってまで節税することが有効かどうかは、ご自身の財産がどのくらいあって、相続が発生したときに相続税がどの程度かかるかによって異なります。もし相続税がかからないほどの財産しかないならば、贈与税がかかるほどの金額を無理して贈与する必要はありません。ご自身の財産がどのくらいあるか、一度しっかりと試算することをお勧めします。

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