このレポートの要旨

  • 原油価格のロングチャートと関連レポート
  • 足元の原油価格下落の背景を探るには教科書(過去の常識)を捨てることが必要
  • 直近のマーケットは穀物高・原油安が継続。貴金属は弱含み
  • 値位置は、東京金4,500円、白金4,600円、東京ガソリン62,000円の節目割れ。とうもろこしは27,000円台へ上昇。
  • トピックス「原油・ルーブル安の中でにじみ出る「資源国ロシアの底力」」

    1.ルーブル建てのロシア株価指数は下落せず
    2.下落していない株価指数の背景にあるロシア関連資源の存在とその値位置
    3.ロシアによる外交カードとしての資源利用によりロシア関連資源が一段高になる可能性も

ロングチャートでみる原油価格の推移の歴史

図1.NY原油・東京原油先物ロングチャート

出所:楽天証券作成

原油価格に関する筆者の関連レポート

足元の原油価格下落の背景を探るには教科書(過去の常識)を捨てることが必要

図2.NY原油先物(期近)日足と200日移動平均線

チャート出所:楽天証券提供「マーケットスピード」より筆者作成

12月17日の米FOMC議事録公開の内容より、米国は着々と景気回復の道を歩み始めているように思われる。

教科書的には、「世界屈指の原油消費国であるアメリカの景気回復」→「個人消費の拡大・インフラ整備・輸送などで原油需要が拡大」→「原油価格上昇」という図式が描かれるところだが、価格は日が変わった18日・昨日も弱含み、今年6月からの下落トレンドに今のところ大きな変化は見られない。

なぜか?

  • OPECの価格調整能力の退化
  • 価格上昇の牽引役となった新興国の景気回復の遅れ
  • 米国主導のドル高策への転換でドル建て商品(コモディティ)の弱含みの継続

などがその原因と考えられる。

OPECの状況についてはこちらのレポートをご覧ください。

今後、価格はどうなるか?

原油は「経済の血液」とたとえられることがあるとおり、現代社会で人間が生きる上で、関わることから逃れることができないほぼすべての源となるエネルギー源ゆえ、その価格動向が与える影響はあまりにも大きい。

先進国・新興国を中心とした消費国。中東・ロシアを含めた産油国。原油価格の上昇によってメリットを享受できる国・企業・個人。デメリットをこうむる国・企業・個人・・・。

世界の末端までを巻き込んだ原油価格の動向は筆者が考えるに、原油価格急落の中、減産を見送るOPEC・・・。景気回復が鮮明になり米国の原油需要拡大が予想される中、さらに弱含む価格・・・などの状況から、以前では説明がつきにくい状況になっているものと思われる。

需給が増えれば価格が上がる・供給が増えれば価格が下がる、といった教科書どおりの考え(つまり過去の常識)を超えた現在の原油価格の値動きを目の当たりにして思うことは、現在の原油価格はさながら「利害関係」によって成り立っているのではないか?ということだ。

価格が上がってメリットを享受できる人と価格が下がってメリットを享受できる人の綱引きで価格が決まっており、今のところ、価格が下がってメリットを得られる人たちが優勢である、それが故に価格が下がっているのではないかということである。

「原油価格が下落することでメリットを享受する米国」についてはこちらのレポートをご覧ください。

直近のマーケットは穀物高・原油安が継続。貴金属は弱含み

図3. 2014年12月11日(木)始値と12月17日(水)終値の騰落率

出所:筆者作成

上記のグラフは、2014年12月11日(木)の始値と12月17日(水)の終値を比較した騰落率のランキングである。

コモディティ(商品)を中心に、株価指数・通貨の全体の1週間のおおよその値動きの流れを知ることができるだろう。

値動きのポイントは以下のとおり。

  • 貴金属:原油価格の下落、衆院選などをこなしながら上下に荒く動く場面が見られた。全般的には原油下落を横目にリスクをとって投資行うムードが減退したことなどで貴金属は総じて下落。
  • 石油:大幅続落。(詳細は上述のコメントを参照)
  • 穀物:ロシアの穀物輸出制限の報などで小麦を中心に穀物全般が強含み。
  • 株・通貨:先進国の需要国では原油価格下落が恩恵と映り株がやや強含み。一方、原油安でデメリットをこうむる企業などの存在が取りざたされてことはマイナス材料。

値位置は、東京金4,500円、白金4,600円、東京ガソリン62,000円の節目割れ。とうもろこしは27,000円台へ上昇。

チャートはすべて以下の条件で掲載

限月:期先(先限)
種類:日足
移動平均線:紫「9日」・緑「26日」
出所:商品先物取引ツール「Formula(フォーミュラ)」より筆者作成

図3) 東京金  (単位:円/グラム)

・先週約1年7ヶ月ぶりとなる4,700円台をつけたが上昇一服で大幅反落。
・短期・中期の両移動平均を割り込む場面が見られるもその後はやや反発。
・反発した値位置は節目となる4,500円。今後はこのラインをキープできるかがポイントとなるか。

図4) 東京白金  (単位:円/グラム)

・約2ヶ月継続した上昇トレンドが途切れる。
・短期・中期移動平均線をともに割り込み、4,550円台までとなる一時300円超の急落。
・急落後は反発し、4,600円を回復。
・回復した現在の水準をキープできるかが今後のポイントか。

図5) 東京ガソリン  (単位:円/キロリットル)

・NY原油の下落につられて大幅続落。
・約2年半ぶりの水準となる56,000円台まで下落
・短期・中期移動平均線はともに右下がり。下落トレンドの継続を示唆。

図6) 東京とうもろこし  (単位:円/トン)

・シカゴ市場の強含みなどで大幅続伸。
・短期・中期移動平均線ともに右上がりとなり上昇トレンドの継続が示唆される。
・12月18日(木)は1日の高安の幅が700円を超える大幅上昇となったが、その後の反落に警戒。

トピックス:原油・ルーブル安の中でにじみ出る「資源国ロシアの底力」

いまやさまざまなメディアで目にするようになった、NY原油価格とルーブル/ドル(以降ルーブル)(左)、NY原油価格とロシアRTS株価指数(右)の、2014年6月2日を100としたグラフである。

出所:楽天証券作成

メディアでの報道は、原油価格の下落はロシア経済に大打撃を与えているとの指摘しており、上記の図7・8が示すとおりルーブルとRTS株価指数がともに下落していることに原油価格の下落が結びついており、原油価格の下落が「株・通貨売り」いわゆる「ロシア売り」につながっている、というものである。

そう考える前にこちらのグラフを見ていただきたい。

  • ルーブル建てのロシア株価指数は下落せず

ロシアMICEX株価指数(左)とロシアRTS株価指数(右)である。

図9

MICEX指数は、RTS指数と同様にロシアの株式指数の一つで、ともにモスクワ取引所上場の大型成長株のうち流動性が最も高い50銘柄(RTS指数は国内銘柄)からなる時価総額加重平均指数、といわれている。(Bloombergより)

一番の違いは、RTS指数がドル建てであるのに対して、MICEX指数はルーブル建てであるという点である。

2008年より2014年7月までは、この2つの株価指数はほぼ同じ山と谷を描いて推移してきたことが分かるが、ルーブルが急落し始めた2014年6月から様相が変わり、ドル建てのRTS指数のみがルーブル同様に急落し、ルーブル建てのMICEX指数は横ばいか若干上昇という状態である。

ルーブル相場の急変が、これまで保たれてきた異なる通貨建ての2つの株価指数間に乖離をもたらしているのではないかと考える。

これらの値動きから、原油とルーブルと2つのロシア株指数の関係についての説明は、原油価格が株価を下げたのではなく、原油価格の下落によって押し下げられたルーブルが原因となり、異なる通貨建ての2つの株価指数間の値動きに差が生じ、その結果、ドル建ての株価指数と原油価格が同時に下落しているように見えている、ということになろう。

通常、われわれ国内居住者が日本の景気動向を計る上で、円建ての日経平均を参照するように、ルーブル急変事の今、ロシアの景気動向を計る上ではMICEX指数を参照することがより実態に近づけるのではないか?ということである。

ではMICEX指数はどのような推移になっているのか?

NY原油価格とロシアMICEX株価指数(右)の、2014年6月2日を100としたグラフである。

図10 

図10より、MICEX指数はルーブル・NY原油の急落がはじまった今年6月以降、ほぼ横ばい、という状況である。

MICEX指数がロシア経済の実態に近い動きとなっているのではないか?との筆者の推測が正しければ、ロシア経済は、トータルすれば、原油安からの外貨収入減少やルーブル安・株安に見られるロシア売りなどのマイナス要因を、何かしらのプラス材料で埋め合わせているということが考えられよう。

それが何か?

  • 下落していない株価指数の背景にあるロシア関連資源の存在とその値位置

筆者は以下の点がその一因であると考えている。

  • 一部のロシア関連の資源価格が上昇傾向にある
  • 自国通貨ルーブルの大幅安が、自国の資源を売って外貨を獲得する際に有利に作用している

ロシアは資源を持っている国である。

原油、天然ガスなどのエネルギー、白金、パラジウム、金などの貴金属、小麦をはじめとした穀物など、その広大な国土で、人間が生きる上での必需品となる「多岐にわたる種類の資源」を「豊富に」「保有・生産し続けている」、世界一の資源国といっても過言ではない。

筆者が考える特に注目したいロシア関連資源銘柄は、ロシアが世界の供給シェアの多くを占める「パラジウム」と「小麦」である。

※パラジウムは、プラチナ(白金)と同属の貴金属で、用途は主に、自動車のマフラーの排気ガスを浄化させる触媒の部品、電子部品、宝飾品、歯科器具などである。

両銘柄のロシアの生産動向については、小麦においては、生産は世界第4位(USDA World Production, Markets, and Trade Reportsより)、パラジウムにおいては、生産が世界第1位、世界の生産量の40%以上の生産シェアをしめている(トムソン・ロイターGFMS プラチナサーベイより)。

両銘柄の共通点は、ロシアの世界の供給シェアが高いこと以外に、足元の価格上昇が著しいことが上げられる。

以下のチャートが示すとおり、パラジウムは6年(リーマンショックの大幅下落を除けば10年)にも及ぶ超長期上昇トレンドにあり、NY・東京の先物市場ではともに14年前につけた高値を目指そうという過程にあるものと思われる。

小麦は直近で5年ぶりの底値から急反発しており、両銘柄ともに原油相場とは一線を画した状況である。

図11  東京パラジウム先物 期先 月足(左軸)単位:グラム / 円
NYパラジウム先物 期近 月足(右軸)単位:トロイオンス / ドル (ともに1997年1月から2014年12月)

チャート出所:取引ツール「Formula(フォーミュラ)」より

図12  シカゴ小麦先物 期近 月足 単位:ブッシェル / セント(1998年1月から2014年12月)

チャート出所:取引ツール「Formula(フォーミュラ)」より

これらのロシア特有の資源価格の強含みは、ロシア経済を支えるひとつの要因になり得、足元の原油価格下落の折、株価指数(ルーブル建て)が下落していない要因であると筆者は考える。

  • ロシアによる外交カードとしての資源利用によりロシア関連資源が一段高になる可能性も

たびたびロシアが中央アジアを経由した同地域や欧州へのパイプラインによる天然ガスの供給をストップするとアナウンスするのを耳にする。

エネルギー供給の途絶をちらつかせ、交渉を有利に進めようとする「資源の外交カードとしての利用」ともいわれる。

ガスに限らず、2010年のロシアの大干ばつで穀物価格が急騰した際は、ロシアは自国民への食料供給という大義名分の下、自国で生産した小麦の禁輸措置をとっている。

その結果、禁輸が解除されるまでの約1年間、小麦価格は干ばつ直前の1.5~2倍高の水準で推移し続けた。

そしてそれらの資源価格を押し上げるため、価格上昇後に売り抜けるという行為を行っていると思われる。

最近では2014年12月17日、ロシアは小麦の禁輸措置を始める可能性についてアナウンスを行ったと報じられた。

今回の小麦の禁輸措置も外交カード利用の一環であると筆者は考える。

原油価格の大幅下落の中であるからこそ、今後、ロシア関連の資源において、ロシアの外交カードとしての自国資源利用により、需給が細ぼる可能性から関連銘柄で価格上昇が見られてもおかしくないと考える。

原油下落の中で窮地に立たされていると報じられる中でも、ロシアはしたたかな資源戦略に打って出ている点は注目すべきであると考える。

今後の原油価格の動向に注意しつつ、パラジウム、小麦を含むロシア関連資源銘柄に着目していきたいところだ。

本レポートが皆様のご参考になれば幸いです。

※レポート内で使用しているデータについて
特にことわりがない限り、国内商品先物銘柄は6番目の限月(期先)を、海外商品先物はその時点で取引量が最も多い限月(中心限月)のデータを採用。