このレポートの要旨

  • NY原油相場下落の背景
  • 直近のマーケット:堅調な輸出・ドル安などを背景に穀物大幅上昇
  • 値位置・テクニカル:東京白金はさらに続伸。東京ガソリンは再び72,000円台へ下落
  • トピックス:冬~春のとうもろこしの傾向

NY原油相場下落の背景

NY原油先物(期近)日足と200日移動平均線

チャート出所:楽天証券提供「マーケットスピード」より

原油価格の下落について主な要因は以下のとおりと考えます。

  • 価格牽引役不在・・・2003年以降リーマンショックまで顕著に見られた価格上昇の牽引役だった中国の失速。中国の経済成長率の見通し引き下げの他、日欧の金融緩和継続に見られる足元の経済情勢の弱さは強含む米国経済情勢よりも材料視されている模様。
  • ドルの強含み・・・ドル建てのコモディティ(商品)にとってドルの強含みは、他の通貨建ての商品に比べ割高に映るため下落要因に。ドルの強含みの傾向が強まった米金融緩和(QE3)終了時期と原油価格の下落トレンドが鮮明になった時期はおよそ合致。
  • テクニカル面・・・上記のチャートのとおり、すでに中長期的なトレンドを映すとされる200日移動平均線を割り込んでいる。直近では同移動平均線の傾きは右下がりになりはじめ、NY原油価格が中長期的な弱気トレンド入りしつつあることが示唆されている模様。
  • 買い越し幅の減少・・・米商品先物取引委員会(CFTC)が週末に公表するその週の火曜時点の建玉明細では、大口投機家の買い越し幅(買いポジションの残枚と売りポジションの残枚数の差し引き)が減少傾向に。大口投機家において原油相場に先安感を見込んでいるものと考えられる。
  • OPECの動向・・・原油価格の調整の役割を担うとされるOPEC(石油輸出国機構)にて減産を見送るとの決定がなされている。直近ではOPECの価格調整能力に懐疑的な見方があるものの、教科書的にいえば、減産→生産量を絞り原油価格を押し上げる、増産→生産量を増やし原油価格を押し下げるなど、生産量の増減で価格を調整する役割を担っている。今回の減産見送りが原油価格の下落要因とされているのは、OPECが原油価格を押し上げる方針を見送った、言い換えれば足元の原油相場を押し上げないスタンスをとることを決定したということ。

上記は原油相場で起きている事象の一例ですが、今後の原油価格を見通す上で、これらの要素がどのように変化するかが大きなポイントになってくることと思います。

原油価格の動向についての分析、今後の価格を見通す上でのアイディアなどは次回のこのレポートで記すことといたします。

直近のマーケット:堅調な輸出・ドル安などを背景に穀物大幅上昇

2014年11月20日(木)始値と11月26日(水)終値の騰落率

出所:筆者作成

上記のグラフは、2014年11月20日(木)の始値と11月26日(水)の終値を比較した騰落率のランキングです。

コモディティ(商品)を中心に、株価指数・通貨の全体の1週間のおおよその値動きの流れを知ることができると思います。

値動きのポイントは以下のとおりです。

  • 貴金属:国内外の株価が続伸する中、工業用需要増加期待などからパラジウム・白金が上昇。同じ貴金属の金・銀も国内外ともに連れ高に。
  • 石油:おおむね続落。OPECの価格調整能力に懐疑的な見方が出ていることや引き続き世界的な景気減速懸念が意識されていることなどが要因。
  • 穀物:とうもろこし、大豆ともに輸出が堅調であることが示されたこと、同じ穀物の小麦がロシアの寒波の影響などで上昇していること、ドル安などを背景にシカゴ市場(ドル建て)の穀物銘柄が大幅上昇。国内の穀物銘柄も連れ高。
  • 株・通貨:一部の強気な経済指標を受けて米国株はやや反発。ドルはやや売られる傾向に。

値位置・テクニカル:東京白金はさらに続伸。東京ガソリンは再び72,000円台へ下落

チャートはすべて以下の条件で掲載しています。

限月:期先(先限)
種類:日足
移動平均線:紫「9日」・緑「26日」
出所:商品先物取引ツール「Formula(フォーミュラ)」

東京金

・約8ヶ月ぶりとなる4,560円台をつけた後は上昇一服で反落。
・11月はじめから11月の高値(25日の4,567円)までの上昇の半値戻しの目安は4,384円。
・反落している一方で、27日時点では、価格は9日移動平均線にサポートされている。

東京白金

・約1ヶ月半ぶりとなる4,600円台をつける
・今年10月上旬の急落以降、安値を切り上げながら続伸している。
・短期・中期移動平均線はともに右上がり。上昇トレンドの継続を示唆。

東京ガソリン

・NY原油の下落につられて反落し、再び72,000円を割り込む。
・短期移動平均線は約2ヶ月ぶりに中期線を下抜ける。
・前回の安値を下回ったが、これ以上値が崩れた場合は前々回安値10月半ばの69,000円台も視野に。

東京とうもろこし

・26,160円をピークに反落し短期移動平均線を割れた後、中期移動平均線がサポートとなり反発。
・短期移動平均線の傾きは右下がりとなり10月から続いていた上昇トレンドの終息を示唆。
・今後は中期移動平均線がサポートとなり続けるか同線を割れて下落トレンド発生となるかに注目。

トピックス:冬~春のとうもろこしの傾向

前回は、前々回と同様、コモディティ(商品)の値動きの季節習性を題材としました。

前回のレポート「寒い冬は・・・「灯油先物」に注目

前々回のレポート「コモディティ(商品)の値動きに見られる季節習性を参考にしてみる

※マーケットはこの季節習性以外の要因が材料視されて価格が動くことはままにあり得ますので、必ず毎年習性とおりに動くとは限らないことをご承知おきください。

今回は、「冬~翌春」の値動きに注目したい「とうもろこし」に着目してみたいと思います。

とかく「穀物相場は天候の影響を受ける」とのイメージをお持ちの方は多いのではないかと思います。

確かに時期によってはそのとおりです。

2010年半ばに発生したロシアの大干ばつ、2012年の半世紀ぶりともいわれた米国での干ばつ・・・とうもろこし・大豆・小麦など複数の穀物銘柄の価格大幅上昇となり、天候と穀物相場が密接に関わっていることが強く印象付けられました。

ただ、今回ご紹介させていただくのは、穀物の中でも「とうもろこし」で、時期的には「需給相場」とよばれる時期の値動きです。

以下の図1は、世界最大規模の生産高を誇る米国におけるとうもろこしの年間生育ステージのイメージです。

図1:米国産とうもろこしの年間生育ステージ(イメージ)

出所:筆者作成

図1の左側の「天候相場」(おおむね4月半ばから11月下旬)と右側「需給相場」(おおむね12月中旬から3月下旬)の違いは何でしょうか?

それは「畑にとうもろこしが植えられているか、いないか」です。

当然、畑に植えられていれば、天候の動向によって、例えば、かんばつで生育の過程で最も大事な受粉がうまくいかなかったり、大雨で収穫作業が進まなかったりすれば、引いてはそれが生産量の減少要因となり、価格が上昇する・・・などと考えることができるかと思います。

しかし、「需給相場」の時期は、収穫後かつ、作付け前であるため、畑にとうもろこしは植えられておりません。(あくまでも米国の例ですが)

よってこの時期は、先ほどのかんばつや大雨などによって価格の動向が左右されるとは考えにくい時期であるということになります。

では、この「需給相場」の時期はいったい何が変動要因となっていると考えられるのでしょうか?

  • 収穫後であるため、在庫が豊富になる。
  • 消費者・消費国のからの需要に応じてその在庫が取り崩されていく。
  • 需給バランスと価格変動の関係における「在庫減少 → 価格上昇」が連想されやすくなる。

ということです。

では、このような理屈が本当にあてはまるものなのでしょうか?

過去15年間の冬から翌春にかけてのとうもろこし先物価格の値動きを以下のとおりまとめてみました。

条件は以下のとおりです

  • 価格は東京商品取引所の「東京とうもろこし先物」の価格。単位:円(1トンあたり)
  • 過去15年間の12月、翌1月、2月の各月の、月初と月末の価格を比較
  • 参照している限月はすべて、各年の12月の月初時点での期先限月である「11月限」
  • 月初の始値は前営業日の夜間取引の開始時点(夜間取引開始以前はその営業日の午前9時)の値段
  • 月末の終値は、その月の最終営業日の日中立会いの終値

図2

出所:筆者作成

図3

出所:筆者作成

図2より、毎年毎月、理屈どおり必ず上昇しているというものではないことがかわりますが、シーズンを通じての変動幅はややマイナスとなった2002年と2009年を除けば、15年間おおむねプラスだったことがわかります。(図1内の「3ヶ月分の変動幅の合計」を参照)

また、図3からは、毎年1月がほかの月に比べて下落する回数が多かったことがわかります。(図2内の「過去15年の同月の変動幅合計」を参照)

総じていえば、先述の「畑にとうもろこしが植えられていない」ため「天候の影響がないと考えられる中」、「在庫減少 → 価格上昇」となるとは必ずしも言い切れませんが、この時期は上昇する傾向があるということは言えるのではないかと思います。

皆様のご参考になれば幸いです。

※レポート内で使用しているデータについて
特にことわりがない限り、国内商品先物銘柄は6番目の限月(期先)を、海外商品先物はその時点で取引量が最も多い限月(中心限月)のデータを採用。