関税引き上げは大きなマイナス要因に
日本メーカーは、米国の現地生産で中国製部品の使用を減らしてきました。一方、メキシコ生産を増やし、メキシコからの調達を大幅に増やしてきました。輸入品に一律10~20%の関税を課し、メキシコからの輸入も対象となると、日本メーカーにとって大幅なコスト増要因となります。
ただし、これは日本メーカーだけの問題ではありません。メキシコからの輸入が大きいのは、米国の自動車業界全体の問題であり、今後、ロビー活動を通じてメキシコからの調達が不利にならないように陳情を続けることになると思われます。
中国からの輸入品に60%の関税を課すことは、中国メーカーとの競合上は有利に働きますが、中国からの調達品のコストがアップするというネガティブな面もあります。
日本製鉄のUSスチール買収阻止はマイナス
トランプ氏は、日本製鉄によるUSスチール買収を絶対阻止すると述べています。
日本製鉄がUSスチールを買収すれば、USスチールに技術導入し、電磁鋼板や自動車向けハイエンド・スチールの米国生産を拡大することが可能になります。そうなると、日本の自動車大手は、日本製鉄からヒモ付きで仕入れている鋼材の一部を米国内の調達に切り替えることができるようになります。
それは、日本製鉄にとっても日本の自動車メーカーにとっても、戦略的に極めて重要です。買収が阻止されると、自動車業界にとって大きなマイナスとなります。
ちなみに、日本製鉄による買収は、USスチールにも大きなメリットがあります。USスチールは、1960年代には世界トップの製鉄企業でした。ところが、高コスト体質に加え、汎用(はんよう)品の生産比率が高いために、1970年代以降に競争力が低下して日本にトップの座を奪われました。さらに2000年代以降は、中国にトップの座を奪われ、その差は拡大する一方です。
米国は自国の鉄鋼産業に対して度重なる保護主義政策を打ち出してUSスチールを守ろうとしましたが、保護すればするほど高コスト体質の改善が遅れ、衰退が加速するという皮肉な結果となりました。米国トップの座も、電炉大手ニューコアに奪われ、かつての名門の面影はありません。
万年赤字だったUSスチールは、トランプ政権下の保護策で米国内の鉄鋼市況が大幅に上昇したことによって黒字化してやっと息を吹き返したところです。USスチールの高コスト体質は簡単には改まりません。ニューコアが同社を買収しても、建て直しは困難です。抜本的な体質改善には、日本製鉄からの技術導入が最適解と考えられます。