トランプ氏再選は自動車産業に影響大
米国第一主義を掲げるトランプ氏は、「(地球温暖化対策を進める)パリ協定から離脱する」「輸入関税を一律10%か20%引き上げる」「中国の輸入品に60%の関税をかける」「トランプ減税を恒久化し、米国内で生産する企業にはさらに減税する」など多数の公約を掲げています。
トランプ氏が果たして大統領就任後、どこまで公約通りに政策を実施できるか不透明です。本稿では、トランプ氏が全て公約を実現することを前提に、日本の自動車業界に及ぶ影響を考えます。
トランプ氏公約で、自動車業界に影響が特に大きいと考えられるのは、「パリ協定離脱」「一律10~20%の関税引き上げ」「対中関税60%へ引き上げ」「日本製鉄によるUSスチール買収阻止」です。まず、その影響を考えます。
トランプ氏がGHG規制を緩和すれば日本の自動車メーカーに恩恵
トランプ氏は、脱炭素に否定的で、石油・石炭・LNG産業を擁護する姿勢を鮮明にしています。公約通りならば、米国はパリ協定から即座に離脱します。米国は、トランプ氏が最初に大統領となった2017年にパリ協定から離脱を宣言しましたが、2021年に大統領となったバイデン氏が復帰を決めました。大統領が代わるたびに、米国はパリ協定からの離脱・復帰を繰り返すことになります。
トランプ氏は、パリ協定離脱とともに、米国のGHG(温暖化ガス)規制の緩和に進むのが確実です。GHG規制は、米国内で販売される自動車の燃費の改善を義務づけるもので、それを達成するために、自動車メーカーは新車販売に占めるゼロエミッション車(EV、燃料電池車、プラグインハイブリッド車)の販売比率を急速に引き上げなければなりません。
米国政府は2030年までに新車販売に占めるEV比率を50%に引き上げる目標を掲げています。その達成の行程を示すのがGHG規制です。トランプ氏はそれに待ったをかけることになるでしょう。
環境規制が最も厳しいカリフォルニア州では独自のZEV規制(ゼロエミッション車の販売比率を高めることを義務づける規制)を定めています。トランプ氏が再選すれば、その有効性をめぐり再び法廷闘争が起こる可能性もあります。
トランプ効果は、既に一部現れています。バイデン政権の元、米国環境保護庁は2024年3月にGHG規制の一部緩和を発表しました。大統領選が近づくにつれてトランプ氏との競争上、バイデン政権でも規制緩和に配慮する必要が生じたためと考えられます。大統領になればトランプ氏は、そこからさらに大幅な緩和を進めると考えられます。
北米でのEV販売で出遅れた日本メーカーは、GHG規制への対応が間に合わずに多額のペナルティーを支払うことになる可能性がありますが、トランプ氏による規制緩和があれば、規制対応に猶予を与えられることになります。