スーパー・マイクロ・コンピューター
1.スーパー・マイクロ・コンピューターはIR電話会議を開催
スーパー・マイクロ・コンピューター(以下スーパーマイクロ)は、2024年11月5日(火)に2025年6月期1Q(2024年7-9月期)の業績概要と10K提出等に向けての進捗に関してプレスリリースを発行し、同日に業績に関する電話会議を開催しました。
1)特別委員会の調査では不正行為はなかった
まず、2024年8月27日付けで空売りファンドの「ヒンデンブルグ・リサーチ(Hindenburg Research)」が公表したレポートで指摘されたような不正行為があったのかについてですが、10月24日付けでスーパーマイクロの監査を行っていたアーンスト&ヤングが辞任しました。辞任の理由は、スーパーマイクロのガバナンスと透明性に懸念があることです。現在、スーパーマイクロは後任の監査人を探しているところです。
ただし、11月5日付けプレスリリースでは、スーパーマイクロ取締役会が設置した特別委員会が調査した結果、経営陣または取締役会による不正行為や不正行為の証拠はなかったとしています。
2)10K提出期限の延長が認められるか、9月16日までがヤマ場
2024年9月17日にスーパーマイクロは、2024 年6月期のForm10-K年次報告書 (以下「10K」) の提出が遅れたため、NASDAQ上場規則に準拠していないことを示すNASDAQからの通知書を受け取りました。10Kの提出期限は2024年8月29日でした。
ナスダックの規則では、通知の日から60日以内に10Kを提出するか、ナスダックの上場規則への準拠を回復するための計画書をナスダックに提出する必要があります。計画が提出され承認された場合、スーパーマイクロは10Kの提出期限から最大180日間の猶予が与えられ、準拠を回復できます。ナスダックがスーパーマイクロの計画を承認しない場合、スーパーマイクロはナスダックの審問委員会にその決定について不服申し立てする機会が与えられます。
ナスダックの通知日、9月17日から60日目は11月16日になります。監査人が決まっていない状態での10K提出は不可能なので、11月16日までにNASDAQに10K提出と上場維持のための計画書を提出し、承認を得る必要があります。この承認を得ることができれば、10K提出期限である8月29日から最大180日(2025年2月25日まで)の猶予期間が与えられます。
このように、今後の第一のヤマ場は、11月16日までにスーパーマイクロが10K提出と上場維持に向けての計画書をNASDAQに提出できるかどうかです。計画書が提出期限の11月16日までに提出できた場合でも、NASDAQがスーパーマイクロの10K提出期限の延長を承認するかどうかが次の問題です。NASDAQが10K提出期限の延長を承認しない場合、スーパーマイクロは不服申し立てができますが、それが通らなかった場合、時期はわかりませんが、上場廃止になる可能性があります。
2.2025年6月期1Q売上高は会社予想に対して未達となった模様
11月5日に出されたプレスリリースと同日開催された電話会議では、2025年6月期1Q(2024年7-9月期、以下今1Q)業績の概略について会社側から説明がありました。
それによれば、今1Q売上高は59~60億ドル(レンジ平均値59.5億ドル、前年比2.81倍)となり、前4Q決算発表時の今1Qガイダンス60~70億ドルに届かなかった模様です。直接液冷方式の大型AIサーバーが好調でした。売上総利益率は13.3%で、前1Qの16.7%を下回りましたが、前4Qの11.2%を上回りました。今1Q売上高が会社予想に届かなかった理由は、競争激化とともに、後述のように「Blackwell」の出荷開始を待つ顧客がいることによると思われます。
今2Qの会社側ガイダンスは、売上高55~61億ドル(レンジ平均値58億ドル、前年比58.3%増)です。売上高が今1Qよりも減少する見通しなのは、一部の顧客が今年末から本格出荷されるエヌビディアの最新型AI半導体「Blackwell」を待っているためと会社側は説明しています。今後のAIサーバー事業については、会社側は強い見方をしており、エヌビディアの「Blackwell」の製品体系の中にある「GB200」「GB200NVL72」「B200」を使った水冷式、空冷式のAIサーバーを開発中です。
なお、今回の電話会議では2025年6月期通期の会社側ガイダンスはありませんでした。
会社側は、現時点では10Kの提出遅れは事業には影響していないとしています。ただし、今後はこの問題が事業に影響することがあるかもしれないともしています。
会社側はエヌビディアとの長年の関係は強固であり、GPUの割当を減らされることはないと言っています。ただし、仮に上場廃止になれば、それを理由にエヌビディアからAI半導体の供給を減らされてしまう可能性があるのではないかと考えるのが自然だと思われます。事業の維持のためにも早期の10K提出と上場維持が望まれます。
表7 スーパー・マイクロ・コンピューターの業績
3.上場維持が可能か、上場廃止リスクが高くなるかで、株価見通しは大きく異なる
2024年6月期の監査済みの10Kが提出されていないため、2024年6月期決算が真正のものか、確認できません。そのため、今期、来期業績予想、それによる目標株価の設定と投資判断もできる状況ではありません。アナリストの業績予想と投資判断は全て会社側の決算資料が真正であるという大前提に基づいているからです。従って、業績予想と投資判断は10Kが提出されてからになります。このため、表7の業績表には会社予想のみを記載しました。
仮に、2024年8月6日に公表された2024年6月期4Qと2024年6月期通期決算が真正のものであったとすると、2024年6月期EPS1.89ドル、11月8日終値24.52ドルから前期実績PERは13.0倍となります。AIサーバーの競争は激化していますが、10Kを提出して上場が維持できるならば、2025年からの成長を期待してよいと思われます。この場合、今の株価には割安感があると思われます。
一方で、10Kの提出ができない場合は、時期は不明でも上場廃止になるリスクが高くなることになり、その場合、株価はさらに下落する可能性があると思われます。
当面の問題は、新しい監査人が早期に見つかるかどうか、11月16日が期限のNASDAQへの10K提出と上場維持のための計画書の提出が期限内に行われ、かつ、NASDAQが10K提出期限の延長を認めるかどうかです。監査済み10Kを(NASDAQが提出期限の延長を認める場合)NASDAQが指定する期限内に提出して、その内容が正常であれば、会社側のガバナンスに問題がなく、不正行為もなかったことになると思われます。
本レポートに掲載した銘柄:テスラ(TSLA、NASDAQ)、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI、NASDAQ)