安全確実だが、それでも「物価に対して実質マイナス」であることはお忘れなく

 銀行預金と個人向け国債の魅力は安全性です。いずれも満期保有すれば元本と利息が戻ってきます。銀行預金は基本的に解約金利を設定(満期までの金利より低くなる)するので、中途解約でも元本割れは起きません。

 個人向け国債の場合は、解約時の手数料という考え方に基づきますから、初期に解約をするとマイナスになる可能性がありますが、大きなものではありません。

 そう考えると、預金金利や個人向け国債金利の上昇傾向は魅力が高まっているように見えます。安定的に高利回りが期待できるなら資金をシフトしたくなります。

 しかし、「実質マイナス」であることには注意したいところです。ここで比べるべきは物価上昇率です。物価上昇率と同等の金利設定でない限り、「安全、確実、実質マイナス」だからです。

 ここ数年の物価上昇率を考えれば年3~4%くらいの金利提示が欲しいところですが、まだまだそこに近づく情勢にはありません。

 もちろん、普通預金と定期預金であれば定期預金のほうが高金利提示を行うようになりました(マイナス金利政策時は、いくら預けても何年預けても一律に0.001%だったので十分に大きな変化ではあります)。しかし、定期預金でも物価上昇率には追いついていないのです。

全体の運用リスクを整えるバランサーとして活用したい

 資金移動するほどでないなら、保有する必要がないか、というとそうでもありません。

 資産形成は「大きく元本割れしたくない」というニーズと「大きく増やしたい」ニーズとの兼ね合いです。これは額面としても、実質価値としても考える必要があります。

 このとき「預金ポジション+投資ポジション」を同時に持つことはおかしなことではありません。若い人や投資性向が強い人は「生活資金の数十万円以外は、全額投資!」ということもあるでしょう。

 しかし、資産全体の管理としてマイナス20~30%のような暴落が生じても耐えられるように(可能ならリバランスして下落時に投資額を増やせるように)、安全性のある資産を持っておくことは普通の選択です。

 安全性の高い資金の投資における使い勝手はまず、「全体としてのリスクを抑える」ということに意義があります。

 預金や個人向け国債の保有割合を高めると、残念ながら期待リターンの方も抑制してしまいますし、物価上昇率にも負けてしまうことがほぼ確実ですが、市場の急落時に「資産全体」としては急落を防ぐことになります。

 単純に投資割合を5割にすれば、マイナス30%の下落時にも「資産全体としてはマイナス15%」に抑えられます。誰でも無意識にやっている「投資に回すのは資産の半分くらいかな」は、これを狙ってやっている投資選択なのです。

 近年の急落(コロナショックなど)は短期的に回復していますが、一般的には数年から5年くらいの回復期間を見込むべきです。焦って値下がりした投資信託や株を売らずに済むことのできる投資割合づくりに定期預金や個人向け国債を位置づけて保有してみてください。

 よく、ネットで拡散されているような「郵貯で年7%の金利がもらえる時代は良かった」は、物価上昇を加味していません。預貯金金利が高い時期は、同程度あるいはそれより高い物価上昇が起きているので、「預金だけでお金が増える」というのは正しくないわけです(それどころか、ほとんど増えていない)。

 今後もう少し金利上昇があったとしても、やはり私たちはリスク資産と付き合っていく必要があるといえるでしょう。私たちは、投資と付き合っていく世代なのです。