長期投資なのに、底値で買いたい、という矛盾

「そして、損が実際のものとして目の前に現れると、これまた危ない。人は誰しも損を抱えると合理的な判断が鈍るからです。他人の損害には冷静でいられても、自分の損害には冷静でいられないのが、普通の人です。だから、自分が損を抱えると、非合理的な投資行動に走ってしまうことがあります」

「たしかに、損は、誰でも嫌でしょうね」
 隆一は、自分のことを「誰でも」と言った。

「ええ、でも、心のメカニズムを知っていれば、防ぎやすくなります。投資の初心者に、よくあるケースですが、長期投資のつもりで投資を始めたら、

〇購入時の価格を下回って元本割れをしてしまった。慌てて売ってしまったら、今度は値上がりして、損失だけが残った。

こんな経験です。こうした失敗をするのは、利益への期待が、思いもよらぬ損失という結果となったことで、冷静な判断ができなくなるからです。投資では、株価が底値の時に買いたい、と誰もが思います。でも、底値かどうかは、後でないと誰もわかりません。でも、長期投資のつもりで始めたのであれば、合理的に考えれば、底値で買えなかったことは、慌てて売る理由にはならないはずです」

「確かに、自分に都合よくないと、あわてるのか。メンタルだな」