損を取り返そうとして、より大きなリスクを取る

「ふむ。損失によって生じる心理効果は、他にもあります。相場には『損して休むは上の上』という格言があります。損を出した後に、『何とか取り戻そう』という気持ちになるのを、いましめる経験則です。損を取り戻そうとはやる気持ちになったら、冷静になるまで、しばしの間、休むのが肝要ということですが、実際には、これがなかなかできないわけです。その結果、

〇損を出すと、その損を取り戻そうとして、普段よりも大きなリスクをとってしまいます。
10%の収益を目指して100万円の投資をしたけど、逆に20%も損してしまった。それなら、次は、その20%を取り戻すように、より大きなリスクをとってしまったりします。これは『ブレークイーブン効果』と呼ばれています。

〇反対に、いったん損をしてしまうと、また損をするのではないかと、リスクを取らなくなる
こんな心理状態に陥ることもあります。合理的に考えれば、過去に損失が出たということと、将来も損失が出るということは、因果関係があるわけではありません。でも、損の記憶が、心理を委縮させ、次の収益チャンスを見逃す結果につながるということです。こちらは、『スネークバイト効果』とよばれています。

どちらも、表裏一体の心理効果ですよね」

「先生、よくわかりました。つまり、損が嫌だという気持ちにならなければ、投資で成功するんですか?」

「いや、そこまで単純な話でもありません。とはいえ、自分はどんなことに後悔するタイプなのか、損失を避けようとする心理がどのような投資行動につながるのか、を知っていれば、いまより合理的な投資行動ができますよ」

 隆一が「はぁ」と、とりあえず頷いたので、先生も一息ついた。

第16話:「お得感に潜む罠。「アンカリング効果」とは?」を読む

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