※この記事は2018年6月15日に掲載されたものです。
投資小説:もう投資なんてしない⇒
第4章 合理的だという自意識過剰。「行動ファイナンス」で損失は減らせるか
<第3話>お得感に潜む罠。「アンカリング効果」とは?
「君はいつも背広を着ていますが、趣味は悪くないですね」
「いや、そんなことないですよ。僕にとっては、作業着ですから。安物ですよ」
先生にしては珍しいお世辞に、隆一は謙遜しつつ、嫌な予感がした。
どちらを買う?最初から2万円、4万円から半額
「ところで質問ですが、A店では君の気に入った背広が2万円で売っていた。B店では、セールと称して、定価4万円の似た作りの背広が2万円で売っていた。君は、どちらを買いますか」
先生は「趣味は悪くない」と言いながら、どうせ隆一の背広は2万円程度だろうと思っているわけである。しかし、まずまず当たっているので、隆一はそこには触れず先生の質問に答えた。
「そりゃ、定価4万円の背広が2万円で買えるんですからB店で買いますね」
「どちらの店も2万円で買えるんですよ」
「そうですけど、B店で買った方がお買い得ですから」
先生は、我が意を得たとばかりに、うなずいて続けた。
「つまり君は、『定価4万円の背広がセールで2万円』という情報から、『本来4万円の価値がある背広が2万円で手に入る』と思ったのでしょうね。さらに言えば、どんな生地を使って、どんな縫製で、どんなデザインか、着心地はどうか、というような<性能>よりも、セールで半額で買える、という<値段>の方に注目したともいえます。AとBは似た作りの商品、つまり性能は近い、という情報は無視したのでしょうね」
隆一は、<ずいぶん嫌みな言い方だな、予感的中だ>と思ったが、これまた先生の言うとおりだったので、黙っていた。