100%で25万円。50%で50万円。仕事するならどっち?

 先生はそんな訝しげな隆一の反応を見て続けた。
「ではたとえば、『Aという仕事では確実に25万円もらえる』『Bという仕事では50%の確率で50万円もらえる』という選択を迫られた時、どちらを選びますか」
「そりゃ、Aですよ。だって、Bだと、せっかく仕事をしても、半分の確率で何にも得られないじゃないですか。やっぱり、確実にもらえる方がいいですよ」

「そうですね。多くの人は、Aの仕事を選ぶかもしれません。でも、期待収益額を計算すれば、どちらも25万円で同じです。ではなぜ、多くの人がAを選ぶのかといえば、Bの方は、何ももらえないというリスクがあるからですよね」
「それは、嫌ですよ、みんな」

「実は、この質問、Aが20万円、Bが50%の確率で50万円と、若干、Bの方の期待収益額を多くした場合(Bの期待収益額は25万円でAより5万円多い)でも、Aの仕事を選ぶ人が多くいることがわかっています。もちろん、リスク選好度は人にもよりますよ。ギャンブル好きの人は、Bを選ぶというようにね。でも、君はAを選ぶタイプ。確実に儲かる方がいい、といって、期待収益額の高い投資Bを選ばないのは、『損失回避』タイプだということです。別の言い方をすると、『確実性効果』といって、無意識に0%や100%など、確実性の高い選択の方が望ましい、という心理が働くということです」
「そう言われてみれば、そういうタイプかもしれません」と、隆一は頷く。

「『プロスペクト理論』という理論があります。人は<利益を得られる場面ではリスクを回避して確実に手に入れる>選択をし、<損失をこうむる場面では損失を回避するようにリスクをとってしまう>心理的傾向がある、ということも知られています。さっきは、『Aという仕事では確実に25万円もらえる』『Bという仕事では50%の確率で50万円もらえる』という、儲かる方の質問だったけど、同じ人に『Aというクジでは確実に1万円損する』が、『Bというクジでは50%の確率で損はしないけど、50%の確率で2万円損する』という、損する方の選択だと、今度は同じ人がBを選んだりします。確実に損するのは、みんな嫌がるのでしょうね。君はどうですか。Bを選びそうですね」