同じ1万円。利益への期待よりも、損失への不安が大きくなる?

「ええ、そうすると思います」
 意図がいまだにつかめない隆一は不満そうだ。そんな表情をみて先生は少し愉快そうだ。

「こんな話をしたのは、人は、同額のおカネだったら、利益から得られる満足より、損失で受ける苦痛の方が大きい。だから、損失を利益より大きく評価してしまう、という心理傾向を伝えたかったからです」

「当たり前な気がしますよ。でも、それがどうしたんですか? 別に、悪いことでもないと思いますが」

「もちろん、人柄や好みの善し悪しを言っているのではありません。ただ、自分がどういう心理で選択をしているのか、は知っておかねばなりません。投資では、君のようなタイプの人が陥りやすい罠があるからです」

 どうやら、ここからが本題のようだ、と隆一は椅子に座りなおした。

「自分が『損失回避』を優先する行動をとりやすいのなら、投資において、どういうことに気を付けないといけないのか。たとえば、そういう人は、

〇損を嫌いますから、株価が下がっても、あらかじめ決めた通りに損切りができません。決めた通り損切りができないのは、損失が現実になるのが嫌だからです。

〇値上がりした場合、タイミングよく利益確定の売りができません。利益確定売りができないのは、今売ったら儲け損なうのでは、という心理が働くからです。

そういうことに注意しないと、得るべき利益が小さくなったり、大損したりします」

 隆一は、「ああ、おれのことね、やりがちだ」と、先生が何を言いたかったのか、やっとわかりはじめた。