強い絆(きずな)よりも弱い関係性が重要

 先日、「日本で最も自殺の少ない町」である徳島県海部町(現海陽町)におけるフィールドワークに関する記事を読みました。住民アンケートで「隣人と日常的に生活面で協力している」と答えた人は16.5%だったとのことでした。(同県の自殺多発地域では44.4%だった)。

 近すぎない関係(立ち話や、あいさつ程度の付き合いとみられる)が、同町の日常であると考えられます。

 同記事は以下が同町における自殺予防因子だとしています。現在の世界にこうした因子が不足していると感じるのは、筆者だけではないはずです。

(1)多様性の重視
(2)本質的な人物評価
(3)自己肯定感、有能感の醸成
(4)緊密すぎない、ゆるやかな紐帯
(5)適切な援助希求行動
出所:情報システム研究機構による

 自殺が発生する原因・背景について厚生労働省は、経済・生活問題や家庭問題など、さまざまな問題が深刻化していることや、これらと連鎖してうつ病などの健康問題が生じることなどを挙げています。複数の重大な問題が閉そく性のある環境で同時進行することが、原因・背景だと言えるでしょう。

図:非西側がインフレを誘発する背景(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 強い絆(きずな)は、精神の安定に大きな効果があると考えられます。しかし、関係が近くて強すぎると、自分と相手の間だけでなく、その関係を周囲から見ている第三者と自分の間にも混乱が発生する場合があります。

 関係が近くて強すぎることでしがらみや、束縛、馴れ合いが生まれ、やがてそれが妬み(ねたみ)や哀れみ(あわれみ)を、悪い場合は支配・非支配の関係を生み、事態を悪化・停滞させるためです。強すぎる絆は、閉そく性を生み、一歩間違えば重大なリスク(市民単位では自殺、国単位では戦争や資源の武器利用)を発生させかねません。

 2010年ごろに西側諸国が「環境問題」と「人権問題」を提唱しはじめたころから、だんだんと西側諸国だけで絆を強める機運が高まりました(脱炭素推進など)。同時に、これらの問題を提起・解決することに前向きになれない非西側諸国でも絆を強める機運が高まりました(OPECプラス結成など)。

 こうした流れが「西側・非西側の分断」を生み、それがウクライナ戦争勃発(2022年2月)とイスラエル・ハマスの戦争の遠因になったと、筆者は考えています。

 すでに今、西側・非西側はそれぞれ強すぎる絆で結ばれ、ある意味閉そく性のある環境にいると考えられます。そのため、多様性を重視できなかったり(自分たち以外の存在を認められなかったり)、本質的な議論をすることができなくなったりしていると考えられます(国連の機能不全、APECで停戦を声明に盛り込めず)。

 西側・非西側がそれぞれにおいて、ある程度関係性を弱くすることが、こうした環境を打破するきっかけになると考えられます。そうすることで、非西側による原油や食料の「出し渋り・囲いこみ」は弱まり、コモディティ(国際商品)価格は下落し、物価高(インフレ)が沈静化すると考えられます。

 弱い関係は、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノベッター氏が発表した理論「弱いつながりの強さ(Strength of Weak Ties theory)」でも触れられています。弱いつながりだからこそ、情報が共有され過ぎず、気兼ねなくコミュニケーションをすることができ、有益な関係構築を構築できる、という趣旨です。