プラチナの将来性

 2015年9月、「フォルクスワーゲン問題」が発覚しました。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが違法な装置を使い、不正に排ガステストを潜り抜けていました(テスト時に限り、有害物質の排出量が少なくなる装置を使っていた)。

 これを機に、同社の主力車種だったディーゼル車(燃料が軽油、欧州で広く流通)を否定する動きが強まりました。そして、同車の排ガス浄化装置向けに多く使われる「プラチナ」に関する悲観論が膨れ上がりました。

 同装置は、プラチナが持つ触媒作用(一定の条件下で自分の性質を変えずに相手の性質を変える作用)を利用し、エンジンから排出される排気ガスに含まれている有害物質を水や二酸化炭素、比較的毒性の少ない物質に変える役割を担っています。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス

出所:World Platinum Investment Councilのデータをもとに筆者作成

 同装置向けはプラチナの最も大きな用途です(同装置向け39.9%、その他産業向け32.4%、宝飾向け23.0%、投資向け4.7%。2023年WPICの見通し)。同問題が発覚したことを機に、世界で(日本でも)「プラチナの需要は減る一方だ」「プラチナはもうダメだ」「プラチナ価格はもう上がらない」などと、プラチナを否定的に見る論調が広まりました。

 こうした「まことしやかな」批判によって、プラチナは注目されなくなりました。価格が2015年ごろからリーマンショック直後の安値付近まで下落したのはそのためです。

 しかし実際は、上図のとおり、同需要は減る一方でも、プラチナがダメになるわけでもありませんでした(このことを風評被害と言うアナリストがいる。同感である)。確かに欧州の同需要は減少しましたが、近年は、全体的に増加しています。

 WPICは増加の理由を、(1)北米でハイブリッド車の生産が増加(プラチナをより多く使う)、(2)中国で小型車生産増加、大型車生産増加(2023年7月発効の「中国VIb」排ガス規制対応)、ガソリン車でパラジウムの代替としてプラチナを使う動きが目立つ(価格が割安)、(3)燃料電池車向け需要が増加、などとしています。

 さらに、WPICは2023年の同需要が2015年(同問題が発覚した年)を上回るという見通しを示しました。全体として、プラチナは風評被害から回復しつつあるといえます。この点は、価格低迷期を明確に脱するきっかけになると筆者は考えています。

図:プラチナの水素関連の新しい需要

出所:筆者作成

 また、超長期視点でプラチナ価格を上昇させ得る材料もあります。西側諸国が進めている「脱炭素」をきっかけに水素社会を目指す動きが加速する中で、グリーン水素の生成装置やFCV(燃料電池車)の発電装置向けのプラチナの需要が増加する可能性があります。「脱炭素」という後戻りしにくい長期視点のテーマは、プラチナ相場を長期視点で支える可能性があります。