個人投資家の声「今は高い」

 先月末に実施した投資家アンケート「楽天DI」で、金(ゴールド)に関する質問をしました。楽天DIは毎月数千名の当社のお客さまから回答が寄せられる、国内屈指の投資家アンケートです。日経平均株価やドル/円など主要銘柄の目先の方向性を尋ねたり、月替わりの質問「今月の質問」にお答えいただいたりします(本稿下部に参考URLを記載)。

 先月末に行ったアンケートの「今月の質問」は金(ゴールド)に関する質問でした。その中で「金(ゴールド)に関わるエピソードを一つ、教えてください」という質問をしました。

図:投資家アンケートの結果(楽天DI10月実施分の回答より抜粋。文体を整えた箇所あり)

 この質問の回答全てに目を通しましたが、現在の金(ゴールド)価格の水準を「高い」と感じておられることがうかがえる回答が多数ありました。上記はほんの一例にすぎません。

 質問は「エピソード(=ちょっとした話題)」を尋ねるものであり、現在の価格水準をどう感じているかを尋ねるものではありませんでした。

 実際のところ、相続の際に金(ゴールド)の延べ棒が見つかった、ふとしたことがきっかけで数十年前に純金積立を始めたが、あのとき始めてよかった、金(ゴールド)といえば仏具というイメージがある、入れ歯として使っていた、といった趣旨の身近なエピソードを示す回答も多数ありました。

 こうした中で、価格水準に関する回答が多数寄せられ、かつそれらのほぼ全てが現在の価格水準を「高い」と感じている内容だったことを考えると、当該質問は、投資家の皆さまの現在の関心事を知る上で、ある意味有効に機能したといえそうです。

 投資家の皆さまのご認識のとおり、現在の価格水準は国内外ともに、史上最高値水準です(下図参照)。過去半世紀、価格が今の水準よりも高かったことはほとんどありません。この「高さ」が、投資家の皆さまの大きな関心事だといえます。

図:国内外の金(ゴールド)価格の推移(過去およそ半世紀)

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

※参考:個人投資家サーベイ 楽天DI

今「安い」プラチナの投資効率に注目

 現在の価格水準がとてつもなく「高い」銘柄を目の当たりにした時(金(ゴールド)に限らず)、投資家の皆さまはどのような考えをお持ちになるでしょうか。

・上がり切ってしまった。これから投資を始めても利益を得られないのではないか。
・今高いということは、今後安くなる可能性もある。保有した場合にリスクが発生し得る。
・以前にこれ以上上がらないと予想したが、予想に反して上昇した。相場予想は難しい。
・上がる前の安い時に買っていれば、利益を得られたのに。

 などではないでしょうか。「高い」ことは、例えばこれから投資を始める上で、ハードルの一つになり得ます。では逆に現在の価格水準が「安い」銘柄であればどうでしょうか。ここでは金(ゴールド 9,582円)と、それに比べて格段に「安い」同じ貴金属のプラチナ(4,303円)に注目します(ともに税抜)。

図:金(ゴールド)とプラチナの価格水準が生む印象 価格(税抜)は11月10日時点

出所:筆者作成

 価格水準が「安い」場合、上記のプラチナのような印象をお持ちになる方もおられると思います。金(ゴールド)に比べて価格が格段に安いため、プラチナ投資を始める上でのハードルは、金(ゴールド)投資のそれよりも低いといえるでしょう。

 以下の図のとおり、現在のプラチナ価格(4,303円)は金(ゴールド)価格(9,582円)の半値以下です。プラチナ単体で見た場合、現在の価格は自身の過去の高値(2008年7月の7,079円)に比べておよそ四割も安いです。また、現在の価格はリーマンショック(2008年)や新型コロナショック(2020年)時の安値(長期視点の安値目安)に程近いという特徴もあります。

図:国内の金(ゴールド)とプラチナの価格推移(税抜) 単位:円/グラム

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

 現在のプラチナ価格は、相対評価(金(ゴールド)との比較)でも、絶対評価(プラチナ自身との比較)でも、割安だといえるでしょう。この点は、投資家の皆さまの投資判断に大きな影響を及ぼし得る要因であると、筆者は考えています(もっと評価されても良い)。

 長期投資を前提にした一括投資や積立投資を効率化させるために必要なことは、今「安い」ことです。今安ければ、価格の上昇余地(利益の拡大余地)を確保したり、利益の源泉ともいえる保有数量を効率的に増やしたりすることが期待できるためです。金(ゴールド)とプラチナのどちらがこうしたメリットを享受しやすいでしょうか。割安なプラチナだと、筆者は考えます。

プラチナの将来性

 2015年9月、「フォルクスワーゲン問題」が発覚しました。ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが違法な装置を使い、不正に排ガステストを潜り抜けていました(テスト時に限り、有害物質の排出量が少なくなる装置を使っていた)。

 これを機に、同社の主力車種だったディーゼル車(燃料が軽油、欧州で広く流通)を否定する動きが強まりました。そして、同車の排ガス浄化装置向けに多く使われる「プラチナ」に関する悲観論が膨れ上がりました。

 同装置は、プラチナが持つ触媒作用(一定の条件下で自分の性質を変えずに相手の性質を変える作用)を利用し、エンジンから排出される排気ガスに含まれている有害物質を水や二酸化炭素、比較的毒性の少ない物質に変える役割を担っています。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス

出所:World Platinum Investment Councilのデータをもとに筆者作成

 同装置向けはプラチナの最も大きな用途です(同装置向け39.9%、その他産業向け32.4%、宝飾向け23.0%、投資向け4.7%。2023年WPICの見通し)。同問題が発覚したことを機に、世界で(日本でも)「プラチナの需要は減る一方だ」「プラチナはもうダメだ」「プラチナ価格はもう上がらない」などと、プラチナを否定的に見る論調が広まりました。

 こうした「まことしやかな」批判によって、プラチナは注目されなくなりました。価格が2015年ごろからリーマンショック直後の安値付近まで下落したのはそのためです。

 しかし実際は、上図のとおり、同需要は減る一方でも、プラチナがダメになるわけでもありませんでした(このことを風評被害と言うアナリストがいる。同感である)。確かに欧州の同需要は減少しましたが、近年は、全体的に増加しています。

 WPICは増加の理由を、(1)北米でハイブリッド車の生産が増加(プラチナをより多く使う)、(2)中国で小型車生産増加、大型車生産増加(2023年7月発効の「中国VIb」排ガス規制対応)、ガソリン車でパラジウムの代替としてプラチナを使う動きが目立つ(価格が割安)、(3)燃料電池車向け需要が増加、などとしています。

 さらに、WPICは2023年の同需要が2015年(同問題が発覚した年)を上回るという見通しを示しました。全体として、プラチナは風評被害から回復しつつあるといえます。この点は、価格低迷期を明確に脱するきっかけになると筆者は考えています。

図:プラチナの水素関連の新しい需要

出所:筆者作成

 また、超長期視点でプラチナ価格を上昇させ得る材料もあります。西側諸国が進めている「脱炭素」をきっかけに水素社会を目指す動きが加速する中で、グリーン水素の生成装置やFCV(燃料電池車)の発電装置向けのプラチナの需要が増加する可能性があります。「脱炭素」という後戻りしにくい長期視点のテーマは、プラチナ相場を長期視点で支える可能性があります。

有事ムードは見えないリスクに昇華

 では、金(ゴールド)に長期視点の投資妙味はないのでしょうか。筆者は金(ゴールド)にも投資妙味があると、考えています。以下の通り、短中期のテーマの一つ「有事ムード」が超長期視点の「見えないリスク」に昇華(さらに高度な状態へ飛躍すること)しつつあると考えるためです。

 足元、イスラエルとハマスの戦争も、ウクライナ戦争も、「有事ムード」を強め、資金の逃避先と目される金(ゴールド)を物色する動機となり、相場に短中期的な上昇圧力をかけています(別途文脈起因の下落圧力が強まった時、これらの上昇圧力は相殺され、相場は下落することがある)。

図:金(ゴールド)市場を取り巻く7つのテーマ(2023年11月時点)

出所:筆者作成

 ただ、足元の諸情勢を見てみると、これらの戦争が、全く別の地域にマイナスの影響を及ぼしていることが分かります。先月、国連(国際連合)の安保理(安全保障理事会)と総会では、戦争を停止するための決定打を示すことができませんでした。常任理事国のいずれかが反対したためです。ウクライナ戦争勃発以降続いている「国連の機能不全」は続いたままです。

 西側と非西側の間で分断が深まっている中での決議は、「どちらに属しているかを公表する」機会になっているといえます。決議のたびに、西側・非西側のリーダー格の国々の顔色をうかがう国が現れ(スタンスを示したくない国が投票を棄権する場合もあり)、世界が一つになることが困難になってしまっています。

 こうした傾向はウクライナ戦争勃発以降、続いています。国連の機能不全は、戦争を止めさせる第三者が不在であることと、ほぼ同義です。

図:世界(西側・非西側)の分断深化が与える金(ゴールド)相場への影響

出所:筆者作成

 各国の世論に目を向けると、パレスチナ人を支持するかユダヤ人を支持するかで、二分されている国・地域があります。

 中東からの移民が多い欧州では、国のトップはユダヤ寄り、一部の市民はパレスチナ寄り、米国では歴史的背景を踏襲して年配の人がユダヤ寄り、戦争に反対する若者がパレスチナ寄り、などという具合です。特に米国では、来年の米大統領選にも影響を及ぼし得る話です。

 また、戦争が続いていることでエネルギーや食料の価格が高止まりし、インフレ(物価高)が世界各地で国の財政や人々の生活をむしばんでいます。インフレ対策と称し、各国政府は国民に莫大(ばくだい)な額の補助金を付与しています。

 また、米国の主要都市の一部で治安の悪化が深刻化しているとの報道がありますが(サンフランシスコの繁華街など)、リモートワークが進んで街が空洞化したことのほか、インフレも治安悪化の原因であると考えられます。

 国連の機能不全、欧米での国内世論分断、長期化するインフレによる社会問題急増…。こうした西側・非西側の分断起因の事象は束になり、超長期視点のリスクを膨張させていると考えられます。

 こうしたリスクは戦争のような目に見える分かりやすいリスクではないため、「見えないリスク」であると考えます。今まさに、激化の一途をたどる「有事ムード」は、超長期視点で金(ゴールド)相場を支え得る「見えないリスク」に昇華しつつあると、言えるでしょう。

 超長期視点で、金(ゴールド)は有望な投資対象であり続けるでしょう(米国の利上げなど別文脈の短中期的な下落圧力に要注意)。それでもなお、金(ゴールド)が割高だと感じる方は、金(ゴールド)に比べて割安なプラチナに注目いただくと良いように思います。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入

投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能)

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド

中期:

関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

短期:

商品先物

国内商品先物
海外商品先物

CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム