国連安保理は政治思惑で機能不全

 戦争勃発後、国連安保理(国際連合の安全保障理事会)で4回、採決が行われました。いずれの案も、迅速な停戦、迅速な人道支援を訴える内容でしたが、どれ一つ、採択されませんでした。迅速な停戦も迅速な人道支援も、誰しもが望むことだと感じるものの、なぜ採択されなかったのでしょうか。

 安保理決議は、5カ国の常任理事国(第二次世界大戦後に国連創立に関わった国≒戦勝国)と10カ国の非常任理事国、合計15カ国で行われます。採択のための条件は、九カ国以上の賛成および常任理事国が拒否権を行使しないこと(一カ国でもダメ)です。

 以下のとおり、10月16日と25日のロシア案に対し、ともに米国と英国が反対をしました(拒否権行使)。18日のブラジル案に米国が、25日の米国案にロシアと中国が拒否権を行使しました。

 ブラジル案と米国案では九カ国以上に達しましたが、一部の常任理事国の反対により採択できませんでした(米国のみが反対したブラジル案は、戦争を早期に終わらせるチャンスだったのかもしれない)。

 国連の発表や各種報道によれば、反対の理由は、ハマスに対する非難がないこと(16日のロシア案に対して米国・英国らが)、イスラエルの自衛権について言及がないこと(ブラジル案に対して米国が)、イスラエルの自衛権について言及があること(米国の案に対してロシアらが)、イスラエルによるガザ南部への市民の避難命令の即時解除を求めていること(25日のロシア案に対して米国らが)などと、されています。

図:国連安全保障理事会決議結果(2023年10月)

出所:国連の資料より筆者作成

 米国は徹底してイスラエルを擁護し(米国にとってイスラエルを建国したユダヤ人は政治・経済・文化などさまざまな面で重要な位置にある。来年の米大統領選にも影響がある)、ロシアはイスラエルを擁護する米国に批判的な姿勢を取り続けていると言えます。

 また、迅速な停戦・人道支援がうたわれていたとしても、非常任理事国(アルバニア、エクアドル、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、スイス、UAE、ブラジル、モザンビーク)が、ロシア案に賛成するケースは少ない傾向にありました。国連安保理は政治思惑で機能不全に陥っていると言えるでしょう。