戦争勃発から三週間を振り返る

 ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」が、ロケット弾でイスラエルを攻撃してからおよそ三週間が経過しました。この間、イスラエル側が作った壁を隔てたガザ地区側とイスラエル側の死者は、合わせて9千人にのぼると報じられています(10月30日時点)。

図:イスラエル・ガザ戦争勃発後の騰落状況(2023年10月6日と23日を比較)

出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成

 戦争勃発直前の10月6日から今週初めまでの騰落率を確認すると、金(ゴールド)とそれに連動する傾向がある銀(シルバー)の上昇が目立っています。原油も上昇しています。

 戦争が、資金の逃避先を物色する動きを加速させ、その対象になり得る金(ゴールド)が上昇させたり、中東地域からの供給減少懸念を強めたりして、原油価格を上昇させていると、考えられます。同時に起きている株安は、戦争が長期化する気配を感じた投資家の動きを表していると、筆者はみています。

 株式・通貨・債券・コモディティ(商品)などの各種市場は、戦争がもたらす恐怖におののいているようです。足元、市場関係者らは、今週予定されている主要国の中央銀行の会合に関心の軸足を移そうとしているものの、やはり戦争を気にせざるを得ない、というのが実情でしょう。

金(ゴールド)高・原油高止まり

 以下は、戦争勃発直前(10月6日)を100とした、金(ゴールド)、原油、株価指数(S&P500)の価格推移です。金(ゴールド)は上昇継続。原油は一時反落したものの持ち直して高止まり、株価指数は下落が続いています。

図:イスラエル・ガザ戦争勃発後の価格推移(2023年10月6日を100として指数化)

出所:Investing.comのデータをもとに筆者作成

 イスラエル・ガザ戦争においては、被害状況を把握することが大変に難しいといわれています(特にガザ地区)。そしてそれと同じくらい、先行きを見通すことが困難だといわれています。今後どれだけ被害が拡大する可能性があるのか、いつ頃、何がきっかけで停戦が実現するのかなど、分からないことだらけです。

 被害の甚大さ、分からないことの多さは、不安心理を膨らませ、それが各種市場に波及しているのが今、だと言えるでしょう。ドル高でもドル建て金(ゴールド)価格が上昇するのは、ドル高起因の下落圧力を相殺して余りある上昇圧力がかかっているためです。その上昇圧力は、不安心理の集合体ともいえる有事ムードがもたらしていると考えられます。

 原油相場は戦争勃発後、反落したものの下げ止まり、高値水準を維持しています。戦争への不安が膨れ上がり、株価が下落して景気鈍化・需要減退懸念が浮上して、原油相場に下落圧力がかかっているものの、それを押しのけるだけの上昇圧力がかかっています。

 その上昇圧力は、戦争起因の供給減少懸念です。足元、下落と上昇、双方の圧力が拮抗(きっこう)しているため、価格は横ばい(長期視点の高水準)で推移していると考えられます。

 不安心理をふりまき、金(ゴールド)や原油相場に上昇圧力をかけ続けている戦争は、一体いつ終わるのでしょうか。

国連安保理は政治思惑で機能不全

 戦争勃発後、国連安保理(国際連合の安全保障理事会)で4回、採決が行われました。いずれの案も、迅速な停戦、迅速な人道支援を訴える内容でしたが、どれ一つ、採択されませんでした。迅速な停戦も迅速な人道支援も、誰しもが望むことだと感じるものの、なぜ採択されなかったのでしょうか。

 安保理決議は、5カ国の常任理事国(第二次世界大戦後に国連創立に関わった国≒戦勝国)と10カ国の非常任理事国、合計15カ国で行われます。採択のための条件は、九カ国以上の賛成および常任理事国が拒否権を行使しないこと(一カ国でもダメ)です。

 以下のとおり、10月16日と25日のロシア案に対し、ともに米国と英国が反対をしました(拒否権行使)。18日のブラジル案に米国が、25日の米国案にロシアと中国が拒否権を行使しました。

 ブラジル案と米国案では九カ国以上に達しましたが、一部の常任理事国の反対により採択できませんでした(米国のみが反対したブラジル案は、戦争を早期に終わらせるチャンスだったのかもしれない)。

 国連の発表や各種報道によれば、反対の理由は、ハマスに対する非難がないこと(16日のロシア案に対して米国・英国らが)、イスラエルの自衛権について言及がないこと(ブラジル案に対して米国が)、イスラエルの自衛権について言及があること(米国の案に対してロシアらが)、イスラエルによるガザ南部への市民の避難命令の即時解除を求めていること(25日のロシア案に対して米国らが)などと、されています。

図:国連安全保障理事会決議結果(2023年10月)

出所:国連の資料より筆者作成

 米国は徹底してイスラエルを擁護し(米国にとってイスラエルを建国したユダヤ人は政治・経済・文化などさまざまな面で重要な位置にある。来年の米大統領選にも影響がある)、ロシアはイスラエルを擁護する米国に批判的な姿勢を取り続けていると言えます。

 また、迅速な停戦・人道支援がうたわれていたとしても、非常任理事国(アルバニア、エクアドル、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、スイス、UAE、ブラジル、モザンビーク)が、ロシア案に賛成するケースは少ない傾向にありました。国連安保理は政治思惑で機能不全に陥っていると言えるでしょう。

国連総会は西側・非西側の分断目立つ

 安保理で停戦を採択できなかったことを受け、10月27日に国連総会(緊急特別会合)で、193カ国による採決が行われました。ヨルダンが提出した案は、ロシアやサウジアラビア、UAE、パレスチナ自治区など40の国・地域の連名でした(ほとんどが非西側諸国)。そして、ヨルダンの案にカナダが加筆する形で修正案を出しました。

 この日行われた二件の決議は以下のとおりでした。一件目となったカナダによる修正案は、採択に必要な賛成・反対の合計に三分の二以上に届かず、採択されませんでした。およそ五分後に行われた二件目(ほぼ非西側諸国40カ国連名の案)は採択されました。

図:国連総会決議結果(2023年10月27日の2件)

出所:筆者作成

 40カ国の国・地域が提出した案は、「パレスチナ占領地におけるイスラエルの違法行為について」というタイトルで、内容は人道目的の即時停戦、ガザ地区に物資・サービスを提供、占領国であるイスラエルにパレスチナ市民にガザ南部に移るよう命じたことを撤回させるなどを要求する、ガザ地区を擁護かつイスラエルに不利な内容でした。この内容に対し、賛成120、棄権45、反対14という結果で採択されました(法的拘束力はない)。

 カナダが加筆した文言は、「ハマスによるテロ攻撃と人質拘束を明確に拒否し非難」というものでした。このカナダ案は賛成88、棄権23、反対55で否決されました。反対した55カ国には「ハマスを否定することを否定する」思惑がありそうです。筆者分析によると55カ国中35カ国が原案を提出した40カ国のいずれかでした(採決時、会場が拍手に包まれた)。

 また、40カ国連名の案とカナダによる修正案の両方で、賛成をした国は193カ国中35カ国にとどまりました(フランス、スペイン、スイス、ノルウェー、シンガポール、ブラジル、エクアドル、コスタリカ、チリなど)。

 ハマスを否定するカナダ案が存在したことで、ハマスを否定することを否定する国が多いこと(全体の三分の一強)や、ハマスを否定しようがイスラエルを否定しようが、即時停戦と人道的対応を実施すべき(両方賛成)と回答した国が全体の二割に満たないことなどが、浮き彫りになりました。

 一部では、今回の国連決議で世界が一枚岩であることが確認できたという趣旨の報道がありましたが、カナダ案の結果を同時に確認してみると、決して一枚岩とはいえないことが分かります。

「ウクライナ戦争」と同じ理由

 筆者は、今回の戦争は以下の経路が一因(主因ではない)で起きたと考えています。リーマンショック後に大きくなった西側と非西側の分断が解消するまで、イスラエル・ガザ戦争(ウクライナ戦争も)は続く可能性があると考えています。

図:西側と非西側の分断深化が与える金(ゴールド)・原油相場への影響

 分断が長引けば、また別の戦争が世界のどこかで起きたり、金(ゴールド)や原油相場に上昇圧力がかかり続けたりする可能性があるとみています(別文脈の強い下落圧力がかかった場合は短中期的に下落することもある)。

 また、インフレ(物価高)が長期化する可能性があります。以下のようなアイデアを持ち、各種市場を観察することが非常に重要だと、考えます。

図:近年の世の中の全体像

出所:筆者作成

[参考]金(ゴールド)・原油関連の投資商品

長期:

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能)
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド

中期:

関連ETF
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

短期:

商品先物
国内商品先物
海外商品先物
CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム

エネルギー関連の投資商品例

国内株式
INPEX
出光興産
・国内ETF・ETN
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア
・外国株式
エクソン・モービル
シェブロン
オクシデンタル・ペトロリアム
・海外ETF
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
グローバルX MLP
グローバルX URANIUM
ヴァンエック・ウラン原子力エネルギーETF
投資信託
UBS原油先物ファンド
米国エネルギー・ハイインカム・ファンド
シェール関連株オープン
海外先物
WTI原油(ミニあり)
CFD
WTI原油・ブレント原油・天然ガス