残る重要課題

 以下、私が重視する二つの課題についてコメントします。

【1】イオンリテールの収益性が低い。SM事業の構造改革が遅れている

 すでに説明した通り、イオンの重要課題は、イオンリテール(小売業)の利益率が低いことです。前期(2023年2月期)に全部門が黒字化しましたが、リテールの利益率は低いままです。

 収益性を高めるための構造改革は、着実に進んでいますが、まだ十分な成果が出ていません。商品力強化・デジタル売上の拡大の他に、セルフレジの導入・省エネ投資・在庫削減などのコストカット策を進めていますが、生鮮品の仕入れ価格高騰・電気代や人件費の上昇に追いついていません。

 GMS(総合スーパー)は構造改革が進み、高い競争力を持ちつつありますが、SM(その他スーパー)の構造改革が遅れています。SMには、構造改革の遅れた小型の食品スーパーや、旧ダイエーから引き継いだ不採算店が残っています。

 SMは食品比率が高いので、コロナ禍の内食特需(家庭内での食事が増えたことによる特需)で一時高い利益が出ました。

 ところが、リオープンで外出が増えたため、前期は減益となりました。内食特需で、構造改革の遅れが一時見えにくくなっていましたが、リオープンで改めて構造改革を急ぐ必要が明らかになりました。

 デジタル売上(ネットスーパーや各種Eコマース)拡大も、リテール収益を高める切り札となります。イオンは、2025年にデジタル売上1兆円達成を目標として掲げていますが、2023年2月期でデジタル売上はまだ1,400億円程度にとどまっています。

 食品分野でデジタル売上の拡大が軌道に乗りつつありますが、そこでできたタッチポイントを使って衣料品などでもデジタル売上を拡大できるかどうかが、今後の売上拡大のカギとなっています。

【2】構造改革のための特別損失が大きいため、最終利益は低水準のまま

 収益性の低いスーパーストア事業などの構造改革で、高水準の特別損失が出続ける見込みです。そのため、イオンは経常最高益で高水準の利益をあげても、純利益の水準は低いままです。

 前期(2023年2月期)は、2,097億円の営業利益をあげながら、イオングループの店舗減損434億円などがあり、純利益は213億円にとどまりました。今期(2024年2月期)も営業利益は2,200億円と高水準でも、純利益は250億円と低水準になると、会社は予想しています。引き続き、高水準の特別損失発生を見込んでいます。

 いずれ不採算店舗の構造改革を完了すれば、純利益でも高水準の利益をあげるようになると考えられますが、それにはまだ3~5年を要する可能性があります。

リオープンへの期待は何度も裏切られてきた、今度こそ本物か

 それでは、次にイオンの株価推移を見てみましょう。2020年以降、急騰急落を繰り返しています。これまでは「リオープンの期待で上昇→感染再拡大で裏切られて下落」を繰り返していました。

イオン株週足チャート:2020年1月2日~2023年8月10日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 イオン株は2020年に大きく上昇しましたが、2021年以降、大きく下がりました。2020年に株価が急騰したのは、2020年9-11月期の営業利益が第3四半期として最高益となり、コロナ禍からの本格的な回復が始まったと思われたからです。

 ところが、その判断は誤りでした。2021年に入り、コロナ禍が再び急拡大すると、再び行動制限が広がり、イオンの株価も業績も低下しました。その後も、回復期待が出ては失望に変わることを、繰り返してきました。

イオンの四半期別営業利益:2021年2月期第1四半期~2024年2月期第1四半期

出所:同社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 2023年に入り、いよいよ本格的な消費回復の期待が出ています。何度も裏切られてきましたが、今度は本格的な回復となると予想しています。

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