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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
8月優待人気トップ、イオン!総合小売業の勝ち組として成長期待

8月・2月の優待人気トップ「イオン」

 イオンは「株主優待」人気銘柄として有名です。楽天証券「株主優待検索」で長年、8月・2月の優待銘柄で人気トップ【注】の座を維持しています。優待内容は、以下からご覧いただけます。
「イオンの株主優待内容:買物返金カードなど」

【注】8月・2月優待で人気トップ
8月・2月に株主優待を得る権利が確定する銘柄は168あります(楽天証券 株主優待検索より)。楽天証券のお客さまで保有している株主の数が多いほど「人気が高い」と判断し、保有株主数の上位銘柄をランキングしています。8月・2月優待で、人気トップはイオン、第2位はビックカメラ(3048)、第3位は吉野家ホールディングス(9861)、第4位はクリエイト・レストランツ・ホールディングス(3387)、第5位はコメダホールディングス(3543)です(8月10日時点)。

 アナリストとしてのイオンの投資判断は「買い」です(詳細は後述)。株主優待を楽しみながら長期保有するのに理想的な銘柄と判断しています。

イオンの投資判断は「買い」

 イオンは、総合小売業の勝ち組として成長していくビジネスモデルを完成させていると考えており、投資判断「買い」を継続します。ようやくコロナ禍からの回復が進み、今期(2024年2月期)は営業最高益の更新が見込まれます。

イオンの連結売上高・営業利益・純利益推移:2019年2月期~2024年2月期(会社予想)

出所:同社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 イオンの前期(2023年2月期)営業利益は2,097億円と、コロナショックから立ち直り、大きく回復しましたが、コロナ禍前の営業最高益(2020年2月期2,155億円)には届きませんでした。まだコロナ禍の影響が残る決算でした。

 今期(2024年2月期)はリオープン(経済再開)が進み、内外ともに売上がさらに拡大すると予想されます。一方、電気代や人件費がさらに上昇し、コスト負担がさらに重くなります。そのため、今期の営業利益(会社予想)は前期比5%増の2,200億円と、最高益を少しだけ更新する予想となっています。

 ただ、すでに発表済みの今期第1四半期(2023年3-5月期)の営業利益は、前年同期比17.2%増の514億円と、好調な滑り出しでした。通期の営業利益は、会社予想からさらに上振れ含みと考えています。

今後の収益成長期待高まる

 イオンは、構造改革が進み、成長への期待が見えてきたと評価しています。ただ、今後の課題もまだ残っています。

 課題についてコメントする前に、まずイオンの成長につながると筆者が期待する三つのポイントについてコメントします。

【1】アジアでの成長加速へ

 イオンのアジア事業は、日本と同様、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)で一時大きなダメージを受けました。今は、日本と同様、リオープンが進む中で、急速に利益が回復しています。

 ただ利益が回復するだけではなく、売上収益の一段の成長が見えてきました。特にベトナム事業の成長加速が期待されます。ホーチミン、ハノイに加えて中部の中核都市フエに出店したことが、貢献すると考えられます。

(参考)イオン2023年2月期の地域別営業利益

出所:同社決算補足資料より楽天証券経済研究所が作成

 上記の地域別営業利益の構成比で、海外は30%に達しています。海外の利益構成比が3割を超えると、海外で成長する小売企業として投資家の見る目が変わります。

 これまで、イオンはドメスティックな(国内中心の)小売業と見なされていましたが、これからは海外で成長していく小売業と見られるようになると考えています。

 なお、上記の地域別利益は、イオンリテール(小売事業)だけでなく、総合金融・ディベロッパー事業の利益を加えたトータルでの海外利益の構成比です。海外も国内と同様、小売事業だけでは収益性が低いのですが、総合金融、ディベロッパー事業を加えて、収益性を高めるスタイルを確立しつつあります。

【2】ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパー事業で高収益を稼ぎ、成長するビジネスモデルを確立

 イオンは、総合小売業として生き残り、成長するビジネスモデルを確立したと判断しています。総合スーパーが、専門店(ユニクロや無印良品、ABCマートなど)に押されて衰退していったのは過去の話。今は、郊外に作られたイオンの巨大なショッピングモールは、地域でもっとも競争力の高い小売業の一つになっています(セブン&アイ・ホールディングスの「セブンパーク」も同様に高い競争力を持つ)。

 イオンは、競争力の高い専門店はテナントとして積極的に取り込んでモールの魅力を高めるとともに、テナント料をとって稼ぐ形としています。テナントとして取り込まない専門店に対しては、PB(プライベートブランド)品を強化することで、反撃に出ています。

 それでも、イオンの巨大なショッピングモールで高収益を稼いでいるのは、現時点ではイオンリテール(小売業)ではありません。総合金融(カード事業など)、ディベロッパー事業(テナント料)で高い利益をあげています。小売・金融・ディベロッパーの3事業を合わせて、競争力の高いショッピングモールを作って稼ぐビジネスモデルを、国内でも海外でも確立しています。

 モール外では、ドラッグストア「ウエルシア」が高収益を稼ぎ、特に調剤が、利益成長に貢献しています。ドラッグストアの利益は、ヘルス&ウエルネス部門に含まれています。

 前期は、ヘルス&ウエルネス・総合金融・ディベロッパーの3部門で、イオンの営業利益の72%を稼いでいます。イオンリテールの収益が低くても、3事業を合わせて、高収益を実現しています。

(参考)イオン2023年2月期の事業セグメント別営業利益

出所:同社決算説明資料より楽天証券経済研究所が作成
注:事業セグメントに「国際」があるが、これは小売業の海外利益だけ示す。総合金融・ディベロッパー・セグメントの中にも海外利益が含まれている

【3】小売業の利益拡大のカギとなる価値訴求型PBが始動

 イオンリテール(小売業)の利益率が低いことが、この後で述べる「残された重要課題」です。ただ、収益改善の重要な一歩を踏み出しつつあることに期待が持てます。それが、「価値訴求型」PB(プライベートブランド)戦略の始動です。

 小売業の競争力を左右するのは、吉田昭夫・イオン代表執行役社長が強調するように「商品力」です。NB(ナショナルブランド)中心の小売業は粗利が稼げず、値段のたたき合いになって衰退していきます。商品力を高めるには、魅力的なPBの品ぞろえを豊かにしなければなりません。

 ところで、NBからPBへの移行に、2段階あります。二つのステップを完了して、初めて強い「商品力」を持つ小売業と言えます。

<ステップ1>NBから、価格訴求型(低価格が売り)PBへシフト

<ステップ2>価格訴求型PBから価値訴求型(ここにしかない優れもの)PBへシフト

 イオンは、ステップ1でかなりの成果をあげましたが、それだけではいずれPB同士の価格のたたき合いに巻き込まれるリスクがあります。そこで今、いよいよステップ2に踏み出したところです。

 価値訴求型のPB拡大はまだ始まったばかりですが、着実に成果をあげつつあります。具体的な成功例として、プレミアム・ビールや高付加価値の衣料品PBなど、食品や衣料品で成功例が増えています。

「住居余暇」分野でまだ価値訴求PBの成功例が少ないのが課題です。台所用品や日用品・雑貨で商品力を高めるには、まだ時間がかかりそうです。

 PBで高成長を遂げてきた小売業のほとんどが、この2ステップを通ってきています。例えば、ユニクロやニトリ。最初は中国製の安い衣料品や家具を売るブランドと見られていましたが、今は高機能の優れものを売るブランドとして認知され、成長を続けています。

 セブン-イレブンもそうです。最初はジャンク・フードを売る店と思われていましたが、商品力を高めることで、今はセブンプレミアムという高品質の優れものを売る店と認知されています。

 ステップ2への移行は、一朝一夕にはできません。ユニクロやニトリ、セブン-イレブンの例では、ブランド・イメージを変えるのに、10年くらいの歳月を要しています。

 イオンは、「トップバリュ」という価格競争力のあるブランドを持つ小売業として、消費者から高い支持を得ています。これから、価格訴求力だけでなく、価値訴求力でも高い支持を得ることを目指します。ユニクロやニトリのような高いブランド力を得るには、まだ長い年月がかかるでしょう。ただし、その確かな一歩を踏み出したと考えられることが評価できます。

残る重要課題

 以下、私が重視する二つの課題についてコメントします。

【1】イオンリテールの収益性が低い。SM事業の構造改革が遅れている

 すでに説明した通り、イオンの重要課題は、イオンリテール(小売業)の利益率が低いことです。前期(2023年2月期)に全部門が黒字化しましたが、リテールの利益率は低いままです。

 収益性を高めるための構造改革は、着実に進んでいますが、まだ十分な成果が出ていません。商品力強化・デジタル売上の拡大の他に、セルフレジの導入・省エネ投資・在庫削減などのコストカット策を進めていますが、生鮮品の仕入れ価格高騰・電気代や人件費の上昇に追いついていません。

 GMS(総合スーパー)は構造改革が進み、高い競争力を持ちつつありますが、SM(その他スーパー)の構造改革が遅れています。SMには、構造改革の遅れた小型の食品スーパーや、旧ダイエーから引き継いだ不採算店が残っています。

 SMは食品比率が高いので、コロナ禍の内食特需(家庭内での食事が増えたことによる特需)で一時高い利益が出ました。

 ところが、リオープンで外出が増えたため、前期は減益となりました。内食特需で、構造改革の遅れが一時見えにくくなっていましたが、リオープンで改めて構造改革を急ぐ必要が明らかになりました。

 デジタル売上(ネットスーパーや各種Eコマース)拡大も、リテール収益を高める切り札となります。イオンは、2025年にデジタル売上1兆円達成を目標として掲げていますが、2023年2月期でデジタル売上はまだ1,400億円程度にとどまっています。

 食品分野でデジタル売上の拡大が軌道に乗りつつありますが、そこでできたタッチポイントを使って衣料品などでもデジタル売上を拡大できるかどうかが、今後の売上拡大のカギとなっています。

【2】構造改革のための特別損失が大きいため、最終利益は低水準のまま

 収益性の低いスーパーストア事業などの構造改革で、高水準の特別損失が出続ける見込みです。そのため、イオンは経常最高益で高水準の利益をあげても、純利益の水準は低いままです。

 前期(2023年2月期)は、2,097億円の営業利益をあげながら、イオングループの店舗減損434億円などがあり、純利益は213億円にとどまりました。今期(2024年2月期)も営業利益は2,200億円と高水準でも、純利益は250億円と低水準になると、会社は予想しています。引き続き、高水準の特別損失発生を見込んでいます。

 いずれ不採算店舗の構造改革を完了すれば、純利益でも高水準の利益をあげるようになると考えられますが、それにはまだ3~5年を要する可能性があります。

リオープンへの期待は何度も裏切られてきた、今度こそ本物か

 それでは、次にイオンの株価推移を見てみましょう。2020年以降、急騰急落を繰り返しています。これまでは「リオープンの期待で上昇→感染再拡大で裏切られて下落」を繰り返していました。

イオン株週足チャート:2020年1月2日~2023年8月10日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 イオン株は2020年に大きく上昇しましたが、2021年以降、大きく下がりました。2020年に株価が急騰したのは、2020年9-11月期の営業利益が第3四半期として最高益となり、コロナ禍からの本格的な回復が始まったと思われたからです。

 ところが、その判断は誤りでした。2021年に入り、コロナ禍が再び急拡大すると、再び行動制限が広がり、イオンの株価も業績も低下しました。その後も、回復期待が出ては失望に変わることを、繰り返してきました。

イオンの四半期別営業利益:2021年2月期第1四半期~2024年2月期第1四半期

出所:同社決算資料より楽天証券経済研究所が作成

 2023年に入り、いよいよ本格的な消費回復の期待が出ています。何度も裏切られてきましたが、今度は本格的な回復となると予想しています。

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