米国発の「二つの綱引き」が市場を席巻

 2023年上半期は、暗号資産、株価指数、農産物、金(ゴールド)が上昇、ドルに直接的に関わるドル指数と米10年債利回りは小規模な動き、穀物、金属、エネルギーが下落し、分野ごとの明暗がはっきり分かれたと書きました。こうした値動きの主因となったと考えられるのが、米国の動向です。

図:米国発の「二つの綱引き」(2023年上期)

出所:筆者作成 画像はPIXTA

 上図のとおり、上半期、米国では「二つの綱引き」が起きていたと、筆者は考えています。一つ目は、利上げペース鈍化(ドル安・金利低下)と利上げ継続示唆(ドル高・金利上昇)の綱引き、二つ目は、利上げ継続示唆と銀行の不安連鎖が同時にもたらす不安拡大(株価・エネルギー価格下落)と利上げペース鈍化起因の不安縮小(株価・エネルギー価格上昇)の綱引きです。

 ドルの動向は、コモディティ(国際商品。ほとんどがドル建て)価格の動向に影響を与えます。おおまかに言えば、ドル安(高)・コモディティ高(安)です。ドルが安い(高い)時、ドル建てのコモディティに、他の通貨建ての同じ商品と比較した割安感(割高感)が生じるためです(一因)。

 上半期、ドルは騰落状況上、大きな動きにはならなかったものの、期間中は小規模な波が生じていました(図:2023年上半期の主要銘柄の推移を参照)。この点は、一つ目の綱引きが生じていたことを裏付けるものです。この波はコモディティ市場に、上昇・下落の圧力を交互にかけ続けたと、考えられます。

 二つ目の綱引きは、不安拡大と不安縮小との間で起きたと考えられますが、騰落状況から逆算すると、不安拡大が穀物、金属、エネルギーなどのコモディティ銘柄に下落圧力を、不安縮小が株価指数に上昇圧力をかけたと考えられます。

 金(ゴールド)相場が小幅に上昇したのは、一つ目の綱引きのドル安の部分と、二つ目の綱引きの不安拡大の部分による上昇圧力が、下落圧力(ドル高・不安縮小)に勝ったことが大きいと、考えられます。