植田総裁「物価高下がり方やや遅い」、政策修正に踏み込むシナリオも

 日銀は今回6月の会合で現状維持の決定だったため、市場参加者は安心して円売りを続けていますが、植田和男総裁の物価に対する認識が変化したことには留意しておく必要があります。

 植田総裁は16日の会合後の記者会見で、物価高について「下がり方が思っていたよりもやや遅い」と述べ、従来見通しと異なる動きになっていることを認めています。しかし、市場はほとんど反応しませんでした。日銀の物価に対する認識の変化によって、7月の展望リポートでの物価見通しがどの程度上方修正されるのか注目です。

 石油や天然ガスの価格下落によって輸入物価が下落する一方、国内では食料品の根強い値上げによって物価は下がりづらくなってきている状況となっています。

 植田総裁が「下がり方が遅い」とさらに認識を強く持つようになれば、日銀が政策変更に一気に動くシナリオも想定されるため、「不動の日銀」とは思わない方が良さそうです。日本の5月CPIは23日に発表予定です。

 また、植田総裁は長期金利を日銀が国債を買って低く抑え込む政策「YCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)」の見直しに関して「ある程度、サプライズとなることもやむを得ない」と発言しました。しかし、この発言に対してもほとんどマーケットは反応していない状況でした。

 見直し時期についての言及がなかったことから反応が鈍かったのかもしれませんが、かなり思い切った発言だったという印象を持ったと同時に市場があまりにも反応しなかったことにも意外感がありました。

くすぶる介入警戒感とまだ余裕の財務省

 ドルが1ドル=142円を超えてきたことから市場は日本の通貨当局による為替介入を警戒し始めてきています。鈴木俊一財務相も142円に乗せた円安水準を踏まえて、「日々、為替の動向は注視している」と発言していますが、トーンはまだ強くありません。

 昨年9月の円買いドル売りの介入実施水準の1ドル=145円超や10月の150円超の水準からはまだ開きがあるからかもしれません。また、日銀が今月12日に公表した5月の輸入物価指数(円ベース)が前年同月比で5.4%低下していることも影響しているのかもしれません。2カ月連続のマイナスで、資源価格の上昇が一服して「石油・石炭・天然ガス」が下落したことなどが影響しているとのことです。

 物価上昇の一因である輸入物価が低下していることから、昨年9月、10月の状況と比べて、財務省も時間的余裕を持って為替動向を観察していくことができます。